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あの頃

昔、長野に住んでいた。
母は父と別れて半年で再婚し、私は母と一緒に再婚相手のいる長野に越すことになった。

小学6年生になる年、特急からホームに降りた瞬間に「寒いね?!!!!」と母と顔を見合わせた。

私はかなりマイペースで、どちらかと言えば友達が少ない方だった。
だからこそ、人との思い出よりも、長野の寒さや風景、匂いが深く思い出に残っている。

濃い霧が掛かった朝、肺に染み渡る湿度たっぷりの冷たい空気が心地よかったこと。

いつも行く温泉で、家族が出るのを待ちながら水筒に入れた野菜ジュースを飲んでいたこと。

塾の帰り道、真夏でも肌寒いくらいの気温の夜の中を自転車で走り抜けていたこと。

親の友達のホームパーティに参加して、クリスタルボウルの演奏を聴いたこと。

1時間に1本しか来ない鈍行の電車から、溢れんばかりの緑を眺めていたこと。

高校近くの商店街で和菓子を買い食いして歩いていたこと。

どれもこれも、心の奥底に凛として佇んでくれるような、かけがえのない思い出だ。

今度また、地元に帰る。
たくさん写真を撮ってこようと思う。
そしたらまた、見せてあげるね。

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