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Wesley Chiu: Fantastic skating makes us dream

めざといオタクのみんなは既に注目していると思うんですが、せっかくフランス杯目前でいい機会なので、今季シニア本格参戦、カナダのウェスリー・チウくんがすばらちだぞ~って話をさせてください。

SP『Vincent』(Govardo)
FS『Nella Fantasia』(Nathan Pacheco)

Vincent継続嬉しい。世界ジュニアで見たときからいいVincentをやる子がいるな〜と思ってたのでGPSの舞台で見られて本当に嬉しかったです。スケアメでは男子唯一のSP・FS通してスピンステップオールレベル4でした。

やはり『Vincent』といえばヴィンセント・ジョウさんのイメージが強いかと思います。わかります。私も見るたび泣いてるので……
確かにノーブルで流麗なスケーティングには通じるものが見てとれるのですが、当然のことながら、またそれぞれ違った魅力でいっぱいです。
あくまでふんわりした印象でいうと、ヴィンスの『Vincent』(Josh Groban)が空がとても近くて、氷上、さらにリンク全体まで星空に見えてくる、星と一緒に浮遊するようなきらきらの切ない瞬きだとすると、対するウェスリーくんは地上から遥か高くの一番星を見上げるような、広い大地の真ん中に真っ直ぐ咲く花のような演技。うまくニュアンスが伝わるかわからないのですが、ひと言でいえば“祈り”と“希望”の差みたいな、方向性の違いがあると思います。Govardo版、StSqの間で手拍子が起こってたりもして、希望を託されたような眩しい華やかさを感じました。

さて、それではこの凛とした伸びやかな演技を特徴づけているのはいったい何だろうかと考えたところ、上を向く、また上に伸びる動きが多いからではないだろうかという仮説が出てきました。

ショートは最初いちど顔を伏せる方向から始まるのですが、その後はところどころで見上げる動きが挿し込まれていて、フィニッシュポーズまでそれが一貫しているため全体を通してかなり印象的です。また
・両腕を大きく広げる
・前方上に手を伸ばす
・両腕を上げると同時に少し上を見る
など上半身全てを使って、やはり上を志向しているように見えます。顕著なのは最後ふたつのスピンの間で、ここではニースラ、それから次のスピンまで頭上を仰ぐ目線振りが濃く続いています。ジャンプの助走時などしっかり、真っ直ぐに前を見据えている時間も少なくないことを踏まえると、ふと儚げに見上げる動作が入るたびそれが引っかかりになって、ますます目を惹く演技のキーになっているのだろうと思いました。どきどきしません……?

フリーでも同様に上への意識を感じますが、ショートに比べ見上げるだけでなく、自身が上昇することの側面も強まっているように見えます。4回転が入って実際の演技中での高さやダイナミックさが増したことに加え、腕を上げる(特に振り上げるような)ときに連動して膝がすっと伸びるため、静かに浮き上がるような力強い美しさが発揮されるのだろうと捉えています。具体的なものを挙げると、序盤、単独3Fを挟むように入っている動きがわかりやすくて、
軽い両手上げたジャンプ→3F→両腕にしなりを持たせて上げる
という一連なのですが、この前後のふたつはそれぞれアイコン的に多用されている印象です。StSq・ChSqでも大胆に腕を振り動かしたり、胸から引っ張られるように大きく前進したりと“進歩”や“上昇”を感じるものになっていると思います。
『Nella Fantasia』はガブリエルのオーボエにボーカルをつけたものですが、若干殺伐とした入りの部分と、歌がつき一転して夢想的にしっとり輝く部分の対比が、真率な視線と見上げる表情とのギャップと調和していますし、どこか夢見がちで理想主義的な歌詞にも込められた気持ちがあるのでしょうか。

ショート・フリーどちらも“上”への意識を感じ、見上げ、また伸びていくことでロマンティックで引き込まれるプログラムになっているのだと考えました。今後もとっても楽しみな17歳!!よろしくねッッ

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