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冬木立の町

 毎日毎日こんなに近くに居りながら、行ったこともないというのももったいなさすぎると思ったので、前橋文学館に行った。もちろん萩原朔太郎目当てで。閑静としていたが落ち着く空間だった。映像の解説が分かりやすかった。遺品の展示もあって、ほんとうに生きていたひとなのだということを間近に感じた。もう没後80年なのか、賢治と近い時代の人なのだな。医家の出身なのに継がずに詩人になるなんていいなあ、わたしも自由に生きたい、そのくらい大胆に生きたい…。
 彼の慕った女性、「エレナ」というのはクリスチャンネームらしい。そういう概念に初めて出会って少しはっとする。エルマとエイミーという呼び名。なぜ海外の人名で、互いを渾名で呼ぶのだろう、その理由を少し分かれた気がした。信仰に近い何か。名付けることで神格化してしまうようなちから。そういえばあの人の活動名だって片仮名じゃないか。
 全部重ねてしまう。朔太郎は学生時代、どれだけ苦しかったろう。それを振り切るしかないほどの詩の才能だったのだろうか。それとも彼の「こころ」が、生家を継ぐという真っ当で平坦な人生を振り切ったのだろうか。彼は逃げたのだろうか。それとも打ち勝ったのだろうか。
 わたしは、どうしたら彼のように生きられるだろう。

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