眠れない夜とだいたい7年分のきみのこと

好きだったアイドルを追うのをやめて、半年経ちました。

担降りブログなんて書くな!
黙って降りなさーい!
わかる。でも書きます、だいたい7年間愛したきみのこと。

わたしは元々三次元に興味がなく、二次元アイドルコンテンツを追いかける上で「そもそもアイドルってなにをするのか?」と疑問に思って追いかけ始めたのがきっかけでした。

彼はビジュアルが可愛くて、口数が少なくて、あんまり男の子を感じないというか、女の子に黄色い声を出させるようなことを言わない印象の子でした。
甘い言葉もラブソングも聴かずに育ったわたしはあまりそういう売り方が得意ではなくて、その温度感が心地良かったです。
そんな印象だったので、初めて現地で見たときに「ファンサともちゃんとする子なんだ」と驚いた記憶があります。何だと思ってるんだ、アイドル様だぞ。

ダンスや歌の上手い下手も分からなかったわたしが最初に好きになったアイドルがとびきりダンスが上手かったせいで、彼のことは長らく3D投影された立体映像かなにかだと思っていました。
ダンスも表情も歌い方も、いつもあまりぶれがなく抜群に安定していました。
機嫌が良いとか悪いとかもあまり感じたことがない彼に、唯一「もしかして具合が悪かったりするのだろうか」と思った日がありました。
その日はコンタクトを落としてぼんやりしか見えていなかったとのことでした。そのくらい、いつも浮き沈みなく同じに見えました。

そんな彼を見ていたら一気に目が肥え、メンバーそれぞれのダンスのクセなどもだんだん見えるようになりました。
ダンスの違いがわかるようになってから、アイドルを見るのがかなり楽しくなりました。
それぞれの癖が見えると、そのひとのことを少し知れたようで嬉しくなります。
本人が気合い入れてそうな振り付けの時とかは、見せたい部分をきちんと受け取ってあげられたような気持ちにもなります。そういうことを感じられるようになったのは、彼のおかげでダンスに興味を持ったからだと思います。
当の本人のくせはというと、楽しくふざけてそうな時は首をぐいっと動かす動き(アイソレーションというらしい)が特徴的ですが、それ以外のときはお手本のようであることが彼らしさ、とでもいうようなきれいに身体を動かす人でした。

彼はとびきり身体を使うことがうまく、揃った動きが魅力的なグループでは持ち味が活かせる機会が少ないようにすら見えました。
ソロ曲もあまり出さないグループなので、彼にしかできないことが披露される場がもっとあったらいいのに、と願いました。
一方、特に彼自身はそれを望んでいないのだろうなとも思っていました。
みんなを引っ張るより、引っ張る誰かの一歩後ろにいることが好きな人でした。

彼はとびきり愛され上手で、周囲におごってもらうエピソードが非常に多かったです。
メンバーを財布呼ばわりするくらいには公然の事実であると同時に、彼はプレゼントがまめな印象でした。
奢られエピソードを量産する傍ら、別の形で返すことが上手い人なのだろうと思います。

「自分には何の魅力もなくて、プロの皆が魅力的な"僕"を作っている」
「プロに任せることが一番いい(僕はそれを表現するだけ)」
「本当の僕を知ったらみんな僕のこと愛さない」
「僕が食べ物だとして、きっと何の味もしない」
雑誌やパンフレットで知る彼は、彼自身のことを隠すような言葉ばかりでした。
それがもどかしく、寂しかったです。
しかしコロナ禍を境とした頃、彼は自身の趣味を前面に出したり、コンサートの演出に携わったり、作詞作曲に関わったり…と彼らしさを出すようになりました。
出会った時にすでに完全体の立体映像みたいなアイドルだった彼の変化を感じる日が来ると思わなくて、嬉しかったことを覚えています。

彼はグループが大好きなひとです。
一生懸命疲弊してまで売れようとするより、メンバーと楽しく過ごせれば良いということを口にする人でした。
そんな彼が演出に関わったライブも「余計なことは考えないで楽しい時間を過ごそうよ」といったコンセプトでした。
カメラが趣味なことも、メンバーのことがあれだけ大好きなら写真にも収めたくなるだろうと納得します。
「君たちでさえ僕らの間には入れない」、そんなグループになりたいのだと言っていました。
入りたいと思ったことは一度もないけれど、そんなふうに言うくらい内側を向いたひとなのだと思ったり、そんなふうに言うくらいオタクを近い存在と認識していたのかと驚いたりしました。

一旦離れようと思って他のアイドルに目を向けて気がついたのですが、アイドルの皆さんって「ファンにどう見られるか」ひいては「どうやって応援したいと思わせるか」にすごく気を使います。
彼も気を使っていたのは当然として、けれど「無理してまで愛されよう」とはしない人に見えました。
その感じだからこそ、肩の力を抜いて見たい時だけ気軽に見て追いかけていられたように思います。
ブログはいつも数行で、自撮りは少なくて、月一回程度しか更新されず、発売日やコンサートのときも過剰に盛り上げようとはしない、さらっとした印象でした。わたしにとって非日常であるアイドルは、彼にとって当たり前の日常なのだと思います。あの仕事をそんなふうにできること、すごいことです。
僕は楽しいと思うことをやるから、君たちも楽しそうと思うなら楽しんでいればいいんじゃないの、みたいな、ある程度突き放す距離感のひとでした。その距離感だからこそ、7年愛せたと思います。
追ってもいいけど追わなくてもいい、そんな気持ちで見ていられることは得難いことで、ある程度売れて安定してないとそうはならないのではないかと思います。
オタクしていられないくらい忙しかったり、気持ちが離れた期間があったとしても、ふとした時に見たら前と同じ顔で笑ってるからまた戻っていけるような、そういうところが魅力の一つであったと思います。

君を最後に見た日。
このまま追いかけても多分もう好きと言えないだろうと思いつつ、同時に、初めて愛したアイドルを悪い思い出にしたくないと思いながら行った東京ドーム。
そこで見た景色があまりにきれいで、彼は7年愛した笑顔でそこにいて、夢に見たような夢がそこにあったから、ここでおしまいにしようと思いました。

私の知らなかった美しいものを教えてくれたひと。
わたしは、彼のことを何にも知らなかったから理想と現実の違いに打ちのめされて離れることになっちゃったのかと思っていたのですが、眠れない夜に資料も見ずにつらつら書けるくらいに好きだったって分かってよかった!

最近全然iPhoneに曲を入れていないなと思った。
彼を追うのをやめてからCDを買う予定がほとんどなくなったからだった。
そこで、寂しいなと思った。まだ穴は埋まらない。

7年分の愛を、原稿用紙7枚分の文字に込めて、ここに
置いていこうと思います。

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