女の子が見える話

私には霊感がある、たぶん。
小さい時、覚えてないぐらいからずっと、小さな女の子が見えている。でもそれだけ。それ以外にお化けなんて見たことないし、心霊スポットとかに行っても平気。
女の子はいつも視界の隅にいる。はっきりとは見えないけど、たぶん蹲って、悲しそうに泣いている。泣き声とかも聞こえないけど、その悲しさはヒシヒシと伝わってくる。
まだ小さかった時は、お父さんやお母さんに「あの子は誰?」って聞いてた気がする。でも、2人とも怖い顔で「そんな子はいない」って言うもんだから、確か小学校に上がる少し前ぐらいかな?女の子は見えなくなったことにした。でも、その子はずっと私のそばで泣いている。幸いそれ以外何もないから、ずっとほったらかしにしていた。
ついこの前までは。

今私は17歳、高校生。つい先月に誕生日を迎えたばっかだけど、その日の夢がとても変だった。
夢の中で私は押し入れの中で泣いている。何故だかわからないけどとても悲しくて、暗い押し入れの中でずっと泣いている。暫くすると、ガラッと戸が開けられて、光を背後にした若い女が現れる。その女は「うるさい!」と叫ぶと、私をビンタして戸を閉める。何故だか、その怒られたことに対してとても申し訳なくなって、私は少しの間黙っている。でも、またすぐに悲しくなって泣き出す。
ここで目が覚めた。女の顔は覚えてないけど、なぜか良い印象だったのは覚えている。誕生日の日から毎晩、この同じ夢を見た。そしてだいたい1週間後、少し夢に変化が出た。
夢の中で、いつものように殴られてまた泣きだす。いつもはここで終わるのに、その日はまだ続いた。私が暫く泣いていると、今度は男の声で「まだ泣いてるぞ!」と怒鳴り声が聞こえた。その声は、とても怖くて嫌いな声だった。そうするとまた女が戸を開ける。今度は何か怒ったような困ったような顔で、でも私の髪を掴みながら乱暴に「絵里、どうして泣くの?」と、聞いてくる。私は絵里ではないけど、私の事を絵里と言っているのはすぐにわかった。夢はここで終わった。
誕生日の日から見るようになった夢、そしてその変化に私は少し怖くなってしまった。親には相談できないけれども、高校生になって色々できることは増えた。私はネットなどを使ってお祓いで有名なお寺や神社を調べ、家から二駅離れたところに、その方面で有名な神社を見つけた。そして、お祓いをしてもらいに、その神社へと出かけた。
私を出迎えた神主さんは、髪の毛に白髪の混じった初老の方で、とても優しそうなな印象を受けた。客間に通された私は、今までの出来事を全て話し、神主さんは相槌を打ちながら黙って話を聞いていた。
「それで、この女の子は危険な霊なんですか?」
「それがね、今君の話を聞きながらいろいろ見てたんだけど、確かにその女の子の雰囲気は感じる。でも、死んだ人のそれじゃなくて、生きた人のそれなんだよ」
「…どういうことですか……?」
「つまりは、生き霊の類だということだね。そして申し訳ないが、私は生きた人間の念に関してはあまり得意じゃないんだよ、紹介状を書いてあげるから、ここの神社さんに伺いなさい」
そう言って示した神社は、私の住む県から3つも離れたかなり遠くの神社だった。
でも、それよりも私は気になることがあって、質問を続けた。
「生き霊ってことは、実際に可愛そうな目にあってる女の子がいるってことですか?」
「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そこら辺も向こうに行けば詳しく教えてもらえるだろうから、できるだけ早く行きなさい」
何かはぐらかされたような気がしたが、わからないの一点張りなので、紹介状だけ書いてもらって神社をあとにした。
家に帰った私は困り果てた。紹介してもらった神社に行くには、時間の面でもお金の面でも親に報告せざるを得ないのだ。しかし、昔に頭から否定された記憶があり、なかなか勇気が出ない。とても迷ったけど、もしかしたら今も可哀想なめにあってる女の子がいるかもしれないということが、私の背中を押した。
夜、家族3人で晩ご飯を囲む。私はおもむろに、口を開いた。
「あの……私が小さい時に言ってた女の子って覚えてる…?」
食卓の雰囲気が変わったのがわかった。
「それが…どうした?」
強張った表情で父が聞き返す。
「あの子、見えなくなったって言ってたけど、実はまだずっと見えてるの。それでね、今日有名な神社に行って聞いてみたら、生き霊だって。それで別の神社の紹介状書いてもらったの」
少しの沈黙があった。
「……しかし、なんでまた今なんだ?」
「あのね、この前の誕生日の日から変な夢を見るようになったの。押し入れの中で泣いている夢。女の人が出てきて、私を『絵里』って呼ぶの」

ゴンッ

母が手に持っていたコップを落とした音だった。二人とも、なんとも言えない驚きの表情でこちらを見ている。
それからのことは、とても混乱していてうまく覚えていない。いまだに両親から聞いた話を全て理解して納得したわけでもない。ただ、その説明で、わかったことがある。

私は孤児だった。生まれてから数年の間は実の親のもとで育てられた。しかし、その親に私は虐待されていた。また、私を巡って親はよく喧嘩をしていた。そしてある日、喧嘩がいつも以上に熱を帯びた。どういう顛末があったかはわからないが、親の喧嘩の音を聞きとがめた隣人が通報し、警察が到着した時には両親の死体と、その横に酷くやつれた私がいたそうだ。私はあてにする身寄りがなかったらしく、孤児院に引き取られた。事件のショックか記憶喪失になっていて、孤児院で今の名前を与えられて新しい人生がスタートした。幸いすぐ引き取り手が見つかり、それが今の両親だった。そして、実の両親から与えられたかつての名前、それが

「絵里」

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