ピンク?pink?(作:星屑)

( ____桜ってピンク色なのかな?)
 
ピンク?
 
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「アンタ黒い服ばかり着るでしょ。色気がないね。ピンクの服を着なさい」
 まだ大学1年生だった頃、友人に付き添って行った"怖いくらい当たる占い師"からの第一声がこれだった。まず、初対面の客に「色気がない」と言える職業、常軌を逸している。 そのお店は、飲食店やアパレル店舗が立ち並ぶ街の古びたビルの5階(?記憶が曖昧で思い出せない…本当の出来事なのだろうか)にあって、薄暗い階段を登ったところにひっそりとあった。昔の公民館のドアみたいな木製の扉を押すと、ギイィーと不気味な音を立てた。
 入るなり暗闇、暗闇、暗闇。さらには暗闇の匂いが鼻から体内へと侵入してきて一体化してしまう。すると、頭の上から足の先まで真っ黒いマントのような布に身を包んだおじいさんが現れ、ほとんど骨董品みたいなソファへと通された。完全に異世界だった、だとすると私は迷い込んだ黒猫ということになる。恐る恐る腰掛けると、またしてもギギギ…という音がして、体がふわふわと沈み込んでいく。と同時に、まるでお宝みたいなティーカップに液状の何かを注がれ、私は(不審がっていることを悟られぬよう)手慣れたフリして角砂糖をぽとりと沈め、(誤魔化すために敢えて)口を付ける。
 友達が、体調が悪いおばあちゃんのことを占って欲しいと伝えると「おばあちゃんは今週中に死ぬのでこれ以上は言えません」とハッキリ言われた。さっきからズバズバと根拠のないことを連発されている。友達は半泣きで、もうこれ以上聞くことはありませんという様子だった。帰り際、なんとなく友達との会話に困りながらお店を出た。ギイィーという扉の閉まる音が、薄暗い階段をどこまでも転がり落ちていくようで、私は足場を一段一段たしかに踏み締めた。
 外に出ると街は真昼の陽気で、公園からは人たちの笑い声がする。いつもの日常へと戻って来たと安心した。さっきまでの異世界は幻か何かだったんだろう。
 しかし、本当にその週末、占い通りにその子のおばあちゃんは亡くなった。わたしはピンクの服を着なければならないという恐怖に包まれた。色気がないから何なのだろう、ピンクの服を着なければどうなるんだろう。友達はかなり落ち込んでいたけれど、私はなんとか友達を元気付けようとしていたし、それに応えるようにだんだん元気を取り戻してくれた。
(私はせいぜいスーパー戦隊ヒーローのピンク担当、くらいにはなれたかな。)
 
 今思えば、【ピンク=色気】というのは何なのだろう。たとえば日本ではピンク映画と呼んだり、ピンクを性的なものと関連付けているけれど海外ではそうではない。英語圏でそれは【青】だし、中国では【黄色】、スペインでは【緑】らしい。
 そういえば、実はその占いでもう一つ、かなり衝撃的なことを言われた。そして、本当にその通りになった。このことは、興味のある人が居たらまた別の場所に書こうかな。
あれ以来、あのお店には行っていない、と言うと嘘になる。
 
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 東京初期衝動というバンドのpinkというアルバムに『恋セヨ乙女』という曲がある。その曲を何回もリピートしたあの季節のことを思い出している。今夜はクリープハイプの、あの曲でも聴こうかな。
 
命 ミ ジ カ シ 恋 セ ヨ オ ト メ
 
( ____桜ってピンク色なのかな?)
 桜、一瞬で散る短い命。蛍は光る、恋をするために。セミも同様に、懸命に鳴く。そして、短い一生を終える。
 
(桜って本当は白色なんじゃないかなと思う時がある)
 
 
♡最後に、ここまで読んでくれたあなたへ♡
…とくべつに、ここだけの話をします。桜ってじつは、私たちを惹きつけようと、ピンク色に染まろうとがんばってほのかに色付いているらしいです。桜本人から聞きました。「内緒だよ」って言われているので誰にも言わないでくださいね。
2024年4月1日 星屑より


作:星屑
ミスiD 2022「ことのは賞」。庁省支援舞台公演の制作協力、海外楽曲の訳詞や日本語作詞、個展のテーマ詩の提供、エッセイ他寄稿。よくTwitterに居ます。


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