エバーグリーン26(作:後藤ケンタ)

このまえ上司に「自分が何したか分かってる?」って言われたとき、なんで怒られたのか全然分かんなかったけど「俺って超ヤバいんだろうな」って事だけは分かったんですよね。その日の帰り、中央線を見たらそのままホームに飛び込んじゃいそうだったから総武線に乗って帰りました。中央線の色って死にたくなりますよね。オレンジ。夕焼けみたいな色だからかな。それともガソリンみたいな色だからかな。なんかそんな歌ありましたよね。新曲出さなすぎて飽きて聞かなくなったけど。

俺、大学時代は映画が好きだったんですよ。田舎の大学だったから一人暮らしで、友達も彼女もいなかったから大学いってもつまんないし、一人で学食に行っても笑われるだけだから、まぁたぶん別に俺のことなんて誰も見てないんだけど変に自意識過剰だから大学もいけなくなって。だからチェーンのレンタルビデオ屋でバイト始めて、帰りに何本か映画を借りて次のバイトまでにぜんぶ見るみたいな生活してました。だから大学にいい思い出なんてほとんどないんですよね。ひとつだけあるとすれば、入学式の日に見た満開の桜かな。式をする講堂まで続く道の両脇にずらっと桜が咲いてて、一面ピンクで、天国みたいだなって思いました。もう終わったことをグダグダ言ってもしょうがないんですけどね。

映画って良いんですよ。映画を見ながら、あーこういう風に会話すれば俺も大学に馴染めたのかなあ、とか、こんな青春送りたかったなあ、みたいに考えて暗い気分になれるから。誰にも言ってなかったけど、大学時代も社会人になっても「映画が好きな気持ちだけは誰にも負けないぞ」って勝手に思って過ごしてましたね。何年か前、人気の漫画がアニメ化されたことが話題になってて、そのアニメのオープニングの映像に映画のオマージュが沢山あるって聞いたから見てみたんですよ。実際に見てみたら、俺、元ネタの映画が何なのかマジで全然わかんなくて笑。馬鹿みたいじゃないですか?俺の人生において誇れるものなんて見た映画の本数くらいしかないのに、それすら別に他の人にとっては並以下っていう。映画見るよりよっぽど暗い気持ちになりました。

めちゃくちゃ売れてるミュージシャンが東京藝大出身らしくて、エリート気質な感じが鼻につくからめちゃくちゃ嫌いなんですけど、嫌いすぎてそいつの弾き語り配信の録画みたいなのをYouTubeで見てたら、手癖で弾いてたギターのフレーズが超マイナーなバンドの超マイナーだけど超いい曲のイントロだったんですよね。そのバンドとかその曲知ってるの俺しかいないと思ってたからびっくりして、なんか、ここまで有名になる人ってちゃんと勉強してるっていうか努力してるっていうか、そう思うとそいつに文句言ってる自分がなんも持ってなさすぎて惨めで、また中央線に飛び込みそうになるとこでした。「また中央線に飛び込みそうになるとこでした。」って、ウケますよね。まじで何もしてない感じが。何も行動を起こせてない感じが。

もう何もしたくねえな~って思ってTwitter開いたら、おすすめ欄に昔よく聞いてた歌手のライブ映像が流れてきました。俺、大学時代はその人の音楽めちゃくちゃ好きだったんですよ。その人だけは本当のことを歌ってると思ったし、目の前のことをありのまま歌うその人がめちゃくちゃ好きだったんですよ。なんで聞かなくなっちゃったのかっていうと、俺、チェーンのレンタルビデオ屋でバイトしてたって言ったじゃないですか。軽い気持ちで店の端末にその人の名前をいれて検索してみたんですよ、そしたらヒットして。住所みてみたら目黒のタワマンに住んでたんですよ。マジで騙されたっていうか、まぁこっちが勝手に期待して勝手に裏切られただけなんでその人は悪くないんですけど、不甲斐ないっていうかやるせないっていうか、とにかく突き放された気分になったんですよね。ってか、目黒のタワマン住んでる癖に「中央線が~」とか歌ってんじゃねえよ。って思って、その日は映画1本も借りないで帰りましたね。その日に見た、バイト帰りにいつも通るトンネルの壁にスプレーで書かれてた「エバーグリーン26」って言葉が何故かずっと忘れられません。まあ全部ウソなんですけど。


作:後藤ケンタ
高円寺在住。『後藤無線』主宰。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?