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たった一人でも無敵になった宮本佳林のこれまでとこれから


※前書き
これは今から遡ること1年とちょっと前、2020年12月22日頃、宮本佳林ちゃんの卒業を想って綴った日記です。出そうと思っていて忘れていたので、ここに供養します。


ハロープロジェクトからまた一人、一時代を築くレジェンドが巣立っていった。2020年12月10日、Juice=Juiceの不動のセンター・宮本佳林がグループ及びハロープロジェクトを卒業した。2月に卒業を発表してから新型コロナウイルスの影響で卒業公演の延期を余儀なくされ、この冬ようやく最後の晴れ舞台を迎えることができた。卒業後はソロで活動していく予定だ。

鈴の音のような張りのある奇跡のような歌声と、見る者全ての視線を吸い込む大きな黒眼。そして、圧倒的なオーラとずば抜けて個性的なパフォーマンスは、「ハロプロの申し子」を飛び越えて、まるで昭和のアイドルを彷彿とさせる。今や「ハロプロのアベンジャーズ」とTVで紹介されるようになった精鋭軍団Juice=Juiceは、そもそも宮本佳林なくしては作られなかったとつんく♂は言う。こんなこと、アイドルファンに一々説明するのも野暮なほどだが、宮本佳林は誰がどう見ても間違いなくハロプロのエースだ。多くの人に惜しまれながらの卒業は、年が明けてもまだ記憶に新しい。

本人の希望により、卒業セレモニー色を可能な限り取り払った卒業公演であったが、それでも見ている側の悲しみといったらなかった。佳林ちゃんが作り出す、湿っぽさのない、無邪気でからっとした多幸感に包まれつつも、送り出す側がどうしても涙を抑えきれない様がまた感動的だった。公演名には「続いていくSTORY」という楽曲名にあやかったいかにもなサブタイトルがつけられ、宮本佳林と各メンバーがデュエットするメドレーや、Juice=Juiceの歴史を感じさせるようなセットリストが組まれた。彼女の「ライブが大好き」という想いが存分に反映されたパフォーマンス重視のライブ構成であったにせよ、これらの演出は紛れもなく門出を祝うためのもので、アンコール時、プリンセスのようなドレスを纏って袖から歩いてきた彼女を見た瞬間、Juice=Juiceの宮本佳林は本当に終わってしまうのだと誰もが実感し、涙した。Juice=Juiceのぶれない美しいユニゾンの中で際立つ、高い音から低い音へと変わる瞬間の、あの癖のある声の落ち方。それももうしばらく聞けなくなる。グループを背負って立つ佳林ちゃんをもう二度と見ることはできないのだと思うと、やっぱり寂しい。

こんな風にして、宮本佳林の卒業は確かに、惜しまれる卒業だった。それでも終わってみると、今回の武道館公演は卒業のためのものというよりも、あくまでも宮本佳林のキャリアにおけるスタート地点に過ぎなかったのではないか、とも思う。というのも、単に門出という以上に、ソロパフォーマーへの跳躍、未来に向かって爪先が地面から離れていくその瞬間を見届けるための、そしてJuice=Juiceに宮本佳林の遺伝子を引き継ぐための、儀式のような意味合いを強く感じたのだ。

まず、アイドルの卒業からソロ活動への移行がこれ以上ないほどスムーズに行われた点について、もっと注目されてもいいと思う。

卒業公演のなかで、ソロ活動第一歩目の楽曲『未来のフィラメント』お披露目、さらにはMC中にMV公開の告知まで行うなんて、手際が良過ぎて動揺してしまった。みんなJuice=Juiceの宮本佳林を観に来ていたけれど、佳林ちゃんは既に私たちの想像より遥かに先を見据えているのがわかった。その証拠に『未来のフィラメント』を歌う佳林ちゃんの声は、私たちが聞き慣れたハロプロ歌唱とは少し違っていた。より伸びやかで優しく、確実に言葉を届けるための声だった。グループの中でこれまで発揮してきた、もっと言えば後輩メンバーの加入を重ねる度に色濃くなった、勇ましく舞い踊る身振りは一度なりを潜めて、いい意味でハロープロジェクトを感じさせない、プロフェッショナルな歌声がそこにはあった。古くからのファンはエッグ時代のソロ曲『カリーナノッテ』の頃のまだ何色にも染まっていない真っ直ぐな歌声を重ねたかもしれない。デビューしてから約7年、グループでの活動を経て"帰ってきた"宮本佳林の歌声は、Juice=Juiceができる前では考えられなかったほどのさらなる輝きを増して私たちに届いた。これからの宮本佳林は、歌詞の世界観を一手に背負い、万華鏡のような彩りと変化を湛える個人の魅力と、グループで鍛えた逞しい立ち振る舞いが同居していくことになろう。

大抵の場合、グループ卒業からソロに転向したアイドルは復帰までに休業期間を挟んでいる。ハロープロジェクトでいえば、道重さゆみは約二年弱、鈴木愛理は約半年、和田彩花は約一ヶ月といったところだろうか。最近約5年ぶりに芸能活動再開し話題になった鞘師里保は、ひなフェスで表舞台に出るまで3年3ヶ月姿を見せなかった。

そんな中、宮本佳林は一切の休業期間を設けることなく、次のステージに向かっている。グループアイドルからソロ転向への過程がこれほどまでにシームレス化された形で行われたのは、近年では珍しい試みであるし、佳林ちゃんと事務所の本気がよく伝わってくる。

思えば、彼女のソロ活動は卒業前から入念に仕込まれていた。2019年10月に行われたソロツアーKaringでは東名阪Zeppをそれぞれ埋め、グループの名前を冠さなくとも充分に戦えることを証明してしまった。卒業一週間前に行われたハロコンBallad武道館公演では、ソロ曲『氷点下』にさらなる磨きをかけて披露した。落ちサビの今にも泣きそうな表情に、表現力の結晶核を見た。この一年の成長は、既に非の打ち所がないと思われていた宮本佳林のパフォーマンスに、まだまだ伸びしろがあるということを気づかせてくれている。Karingで一気に追加されたソロの宮本佳林の持ち曲が、これからどんな風に成熟の過程を遂げていくのか楽しみでならない。

こうして私達は卒業前から、宮本佳林はステージ上で、たった一人でも無敵になれるのだということを、思い知らされてきたのである。今回の卒業コンサートが踏み切りと跳躍であるとすれば、Karingからの約一年はその助走部分に位置づけられる。

助走をし続けて、やっと飛び立つことができた。実力充分気合充分で、このコロナ下の中逞しく羽ばたく佳林ちゃんを見て、もう大丈夫だと思った。そして、佳林ちゃんがいなくてもJuice=Juiceはさらなる飛躍を遂げ、ますますハロプロきっての実力派グループとして名を挙げていくのだろう。

宮本佳林の新しい一歩を見守る絶好のチャンスはまさに、今なのだ。

とりあえず今からでも遅くはないから、宮本佳林の振返りブログを読んで欲しい。卒業の翌日に開設された一人ぼっちのオフィシャルブログでは、彼女の「重たい」(?)過去が、超絶詳しく語られている。アイドルサイボーグ・宮本佳林を形成してきた、幼少期から研修生に至るまで、そしてデビューまでの挫折の日々、グループに昇格してからのネガティブマインドを乗り越えていった過程などが赤裸々に綴られたブログは、ファンが口を揃えて「お金を払ってでも読みたい」と言うほどの充実ぶりである。これまでヲタクが勝手に解釈し物語化するしかなかった宮本佳林のアイドル半生を、佳林ちゃん自身の言葉で鮮明に綴ってくれるなんて、これ以上贅沢なことが他にあるだろうか。様々な挫折と重圧に苛まれた佳林ちゃんが、アイドル人生を一旦完走したからこそ言えることが凝縮された文章なので、巷で話題の街録インタビューを見るような気持ちで、是非ご一読頂きたい。

さらにこれから注目していきたいのは、こうしたブログから、はたまたインスタグラムの投稿から伺える「饒舌さ」である。

これまでの宮本佳林は、どこまでも完璧なのに、喋るとちょっと変な子、という印象だった。二次元ヲタクで、妄想が得意で、かわいい女の子には目がなくて、同じハロプロメンバーにちょっと厄介だと思われるほどの好意を、わかりやすく早口で捲し立てる。それは今も変わっていない。インスタグラムの投稿欄は、お世辞にもアイドルらしいとは言えないような、よくわからないふざけた動画で埋め尽くされている。ライブのMCも、いつもちょっとだけグダグダで、無邪気で自由だ。ここに普段のパフォーマンスからのギャップを感じる人も多くいるだろう。

そうした、「変な子」の部分は健在であるものの、意外にも佳林ちゃんは真面目なことをストレートに訴えかけることが出来る人でもある。卒業前にYoutubeにアップロードされた『tiny tiny』宮本佳林回を見て、改めてこんなにしっかり喋る子だったんだ、という気づきがあった。特に後半部分の「ネガティブは逃げ」という自身の経験からくる言葉と、後輩たちへのメッセージには目を見張るものがあった。公の場で言葉をまとめてきちんと話すのに苦手意識を持っているようだけれど、全くそうは思わない。むしろ、もっと饒舌な佳林ちゃんが見たい。飾らない言葉で、正直な想いをもっともっと忖度なしで語り続けて欲しいというのは、我儘だろうか。

宮本佳林の、ハローの申し子、完璧なアイドルとしての姿しか知らないなんて、勿体ない。アイドルに一区切りをつけた彼女のこれからに立ち会える幸福をありがたく受け止めながら、もっともっとその歌声が世に響き渡る未来がくるようにと、切に願う。

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