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魂を繋ぐ神秘の糸

問う

魂とは肉体に宿るものか
精神に宿るものか

はたまたそれは個人ではなく民族全体に宿るものか
国家に宿るものか

同時に複数の魂を宿すことは可能か

一つの魂に多面的な態度を見出すのか

答う

神秘、故、霊妙不思議の秘密なり。

第1章 よろずや九泉


鶯谷の裏路地に佇む古びた建物の一角に薄暗い灯りが揺らめいていた。

掲げられた看板には、「よろずや九泉(きゅうせん)」と書かれている。

この小さな店は、国家規模の祈祷や呪詛を対象とした国防、国内の妖怪退治や街中の心霊現象の調査までをも請け負う、いわば"本当の何でも屋"である。

店内は古めかしい雰囲気に包まれている。

今にも壊れそうな古いドアを開けると
カランコロンと鈴が鳴る。

店に入るとすぐに壁一面に沿う大きな棚が目に入る。

古びた書物や呪術用具が所狭しと並び、その手前には薄暗いカウンターがある。

天井から5つぶら下がったうちの3つしか点いていない照明が軽く揺れている。

小さなバーの居抜き物件だろうか?

バカラのグラスに氷が当たる音がした。

真実を語る黒子

彼はこの店の主人であり、この世界では黒子さんと呼ばれ親しまれている。
長い黒髪と黒の和服に身を包んだ得体の知れない男である。

「今度の調査の準備は進んでるかい?」

まるで独り言のように黒子が言った。
すると店の奥の暗闇から小さな蝋燭の灯りが現れた。

「はい、昨日地元の住民に話を聞いたところ、以前からこの地域で目撃情報があるとのことです」

彼の名は黒子ちゃん。その身長は店主の黒子の半分ほどしかない。
しかし、その小さな体からは驚くほどの知識と勇気がにじみ出ている。
まだ真新しい蝋燭を顔の前に掲げながらてくてく歩いている。


ジリリリリリリ…..


甲高い黒電話のベルが鳴り響く。

黒子が目配せをする間もなく小さな相棒がヒョイっと机に飛び乗り電話を取った。

「はい、はい。なるほど。戸棚の隙間にですか。わかりました。お受けしましょう」

この小さな店は、国家規模の祈祷や呪詛を対象とした国防、国内の妖怪退治や街中の心霊現象の調査までをも請け負う、いわば"本当の何でも屋"である。

相棒の顔の曇り具合から察するものがあったのだろう。

「こりゃ、面倒な"神さま"のお出ましだ」

黒子はロックの塩梅が整った“ちょうど良い”酒を渇いた喉に流し込んだ。

よろずや九泉

鶯谷の路地裏にひっそりと佇む、異界と現実が交錯する場所。


第2章 自他一如


あの世とこの世
天と地と人と

九泉、それは「あの世」
黒子、それは人ならざる人
神ならざる神

深い九重の地の底
光届かず、色はなく、音の聞こえぬ
深い深い九重の地の底の果て



「では私はこれで」

もう何度目だろうか。

この厄介者にも慣れてしまった。

それほどに心の貧しい国になってしまったのだろう。

依頼人の家の斜向かいにある自動販売機で同じコーヒーの温かいものと冷たいものを買い

両の手の平でコロコロとリズムよく前後を入れ替えながら擦り合わせた。


「貧乏神…奴らは決まって夜にやってくる」

「夜、愚痴を言っている人間を見つけると、その家に入り込み」

「天井と家具の隙間にピッタリハマって動かなくなる」

「そしてそこに居座ってその家の人間の愚痴を喰らって成長する」

「貧乏神が居着くと、その家は貧乏になる」

「人間は金が回らなくなると愚痴っぽくなる」

「悪循環ってわけだ」

「その家の金が尽きるとまた愚痴を探して夜な夜な歩き回る」

「ただ間違えちゃいけないのは、正確には奴らは「愚痴を言う魂」を食っているということ」

見上げる首が疲れたのか

もう何度も聞いた黒子のくどい話に飽きたのか

黒子ちゃんは小さな下駄を擦りながら道路の白線からはみ出ないように慎重に歩いている。

「まだですか?」

そう言って右手を差し出し催促する。

「そろそろ“ちょうど良い“」

黒子は元は冷たかった方のコーヒーを差し出し

元は温かったコーヒーの蓋を開けた。

2つのコーヒーは黒子にとって“ちょうど良い“温度になっている。

さて、この時このコーヒーは同じ物と言えるのだろうか。

缶という容器がそれぞれに別れている以上

別のコーヒーなのだろうか

1つのカップに注ぎ合わせた時

このコーヒーは同じ物と言えるのだろうか。


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