パレットは青で、いつも押すコマンドはBで、1Kに住んでいる、金曜日。

おおきなまど。
あおいそら。
みどりいろにあおいもじで書かれたホテルの名前。

8回のカフェから見える景色。
高いところは苦手だけど好き。
空はおっきいなぁって感じて、
空も飛べるような気がしてきて、
なんでもできるような気がしてくる。
絵本を見て、頭の中で空想を描くときと、感覚は同じ。

でも、帰りのエレベーター乗った瞬間から、
そのワクワクはいつの間にか、忘れちゃう。
地面を見て、狭い壁を見て、現実を見て、
将来に心をタイムスリップさせては、ちょっと不安になる。
まだ知りもしない未来に飛んだ心が持ち帰ってくる手土産はいつも、どよんとした青色。
そんなもの持ってくるなよな、楽しく行こうよ、って言葉を投げかけはするけど、
未来から帰ってきたその子たちはちょっぴりブルー。
今手元にあるパレットに、白なんて持ち合わせちゃいないから、薄めることも、きれいな水色に変えることもできやしない。
そいつが持ち帰ってきたブルーのせいで俺のパレットはいつも真っ青。
なんとか黄色を捻り出して、大好きな緑をつくりたいとは思ってるのだけれど。

エレベーターから降りて歩いていると、街のざわざわが耳元でもっと嫌なことを囁いてくる。
そいつらの囁きを消すために、イヤホンで音楽を流す。
歌詞は聞いちゃいない。
ただ、何かから逃げたくて、耳を塞ぎたくて、
ルーティーンのようにただ、音を垂れ流す。

どこまで逃げてもきっとそいつらは追いかけ回してくるんだろうけど、
正面切って戦う勇気は今のところない。
逃げ方を知ってしまったから、いつも選ぶコマンドはBボタン。
戦うというAボタンはいつ押せるのだろう。
少し勇気を出して押せばいいのだけれど、
もっと言えば勇気なんていらないのだと思うけれど、
"今は勇気がないから"って逃げ口実を作れている間は、安心できるから、押さない。

雑踏の足音が苦手。
人は好きだけど、怖いからだと思う。
だから俺の心の玄関に用意できるスリッパはいつも数が少ない。
たくさんたくさんその人のことを知った後じゃないと、スリッパを履かせる勇気は出てこない。
スリッパを増やしたい気持ちももちろんあるのだけれど、なんせ心が1Kだもんで、そんなに多くは呼べない。
いつか、テラスがついた3LDKなんかに引っ越したいのだけれど、今のところそんな予定はない。

そんなことを考えている金曜日の夕方。









終わり。

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