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第2号試し読みー「シメオンと特別な保管」高木大吾

9月8日文学フリマ大阪で販売します「第九会議室 第2号」の、掲載作品の冒頭試し読みコーナーです。

高木大吾 著者紹介(本文抜粋)

1985年兵庫県生まれ。編集者、ライター。古書収集。性、生殖、逸脱、ポストヒューマン。
X(旧Twitter)@daigo_takagi

「シメオンと特別な保管」高木大吾 冒頭

 長生きしたってしゃあない。って、強がりじゃなくて、ほんまにそう思ってんねん。長さより、質よ。細く長くより、太く短く。ここでは、それがルール。死ぬのが怖いかって。怖いわけないやん。人生百二十年。怖いのは、百二十年の退屈やろ。いまさら、そんなこと言ってもどうしようもないやん。こんなくそみたいな場所に産んでくれて、ありがとうと思ってるで。明日はハレの日。おやじの記録を超えられるか。無理やろうなあ。まあ、なんせ、もう取り返しのつくようなもんでもないし。二十歳の誕生日やで、めでたいやん。明るくいこうや。
 そうやな、今日の今日までこんなんやってきたけど、たしかに取り返しはついたかもしれん。でも、医者の世話になる金もないし。いや、というよりも、わざわざ自分で寿命縮めといて、やっぱりやめますってなわけにはいかんやん。行って戻られへん道なんは、生まれたときから決まってたんやろ。だれより知ってんのは、おかんやろ。取り返しなんて言うんやったら、その言葉はそのまま返させてもらうわ。この町から出んかったのは、あんたが選んだこと。この町で子ども育てるって、そういうことやろ。金がなくても、出ようと思ったら、出られるタイミングくらいあったやろ。大層なことやないやん。その足で、この町を出たらいいだけや。この話、何回目やねん。明日のためにがんばってきたようなもんやのに、なんでこんな空気なん。うわ、突然でかい声出すのやめて。化粧ぐちゃぐちゃやで。気持ちわる。

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