ライブは全部見なさい。

僕はね、顔ファンを否定したことも、ネタファンを特別扱いしたことも一度もありません。

それが良いか悪いかなんてのは置いといて、「ファンに区別をつけない」という僕なりの美学に基づいて、10年間そうしてきました。

しかしながら、他のお客様のご迷惑になる行いが見受けられたとなっては、そうも言ってられません。

そのような事態に陥って尚「ファンは平等にファン」だなんてのはコチラの怠慢でしかないですからね。


先日、大阪で9本の劇場出番を頂きました。

9ともなると、ライブと、また別のライブとの出番が被ることもあるわけですな。

すると、僕らの出番を追いかけて、公演の途中で抜け出すお客様が現れるわけです。

普通に考えて迷惑ですよね。

それにより気分を害された方におかれましては、大変申し訳ございませんでした。

保護監督責任といいますか、少なくとも我々がお客様に無礼を働かせる一因である以上、何もしないわけにはいかない状況ですので、ここに認めさせていただきます。

大多数の良識あるお客様に何を申し上げたとて釈迦に説法でございますので、実際に抜け出しを行った、または抜け出し予備軍である、非釈迦のお客様に向けた説法を中心に書かせて頂きます。


ライブの途中で抜け出すことがなぜダメなのか。

まず、前提として「ダメではない」です。

それぞれ事情がおありでしょうし、公演中に抜け出すことそのものが絶対的に悪だなんてことは決してありません。

この問題が拗れる理由はやはり、それがルールではなく、モラルやマナーの話だからです。

ルールには線引きがありますが、モラルやマナーには明確な線がありません。

お笑いライブで言うと、前説やオープニングで説明したことがルールです。

「飲食禁止、撮影禁止、大声禁止」など。

これらがルールです。

基本的には全員守ってくれています。

では、これがモラルやマナーの話になった途端、全員が全員守れるわけではなくなるのは何故でしょう。

「やってはいけない」とは言われていないからです。

あくまでも「やらない方がいい」であり、「やらない方がいい」は、個人の判断に委ねられるからです。

この「やらない方がいい」の感覚が、一般からズレているから、当人にとっての正義が悪として扱われるのです。


例えば電車内での通話。

マナーであり、ルールではありません。

その上で、実際に通話してる奴を見かけたら「なんやアイツ」とはなりますよね。

その感覚がある方はまだ間に合います。

お笑いの現場にいる自分に置き換えて考えてみてください。

ライブ中、何か退っ引きならない事由で退場することが、【電車内で親の訃報や会社でのトラブルでやむなく折り返すこと】と同じだとすれば、ライブ中、演者を追いかけて退場するというのは、【電車内で友達に暇電をかけること】と同じです。オオカミもドン引きの狼藉ですよ。

第三者目線からの現象としては同じですが、本質的に大きく違うのは分かりますよね。

どちらも身勝手に変わりはありませんが、その身勝手が、外的要因なのか、内的要因なのかは、隠せど滲み出るものです。

ライブを途中で抜け出すことが「ダメではない」とわざわざ申し上げたのはコレが理由です。

抜け出さざるを得ない方はやはりいらっしゃいます。

そして、僕の基準では、「ざるを得ない」のカテゴリーに、「推しを追いかける為」が入っていません。

途中退場の動機が他所にあればセーフで、自身にあればアウトというのが、僕が勝手に決めた線引きです。

僕が勝手に決めたことなので、「やかましい」で一蹴できてしまう話ではあるのですが、あなたの推しである僕がそう言っています。聞き分けては頂けないでしょうか。

あと一歩、二歩、深くまで潜って考えてみてください。

あなたの身勝手により、本当にどうしようもない理由で抜けなければいけない方が後ろめたい気持ちになることを。

あなたが抜け出したタイミングから逆算して、原因である演者が突き止められ、各所から著しく評価を下げられることを。

その末に出番を減らされ、結果的に推しを見る機会を失うことを。


正直僕個人的にはどうでもいいんです。個人的には。

ただ、明確に「迷惑」だと主張されている方がいる以上、「やめてちょうだい」と言う他ないわけです。

あと、本当は追いかけたいけどマナー通りエンディングまで見届けた善良なファンがアホらしいでしょ。

あなたのソレがアリなら全員そうしたいんです。ほとんどの方が他のお客様を想って堪えているんです。

僕はクズが得する状況が許せないんです。


追いかける為にライブを途中で退場する方。全く悪気無くやってしまっている方もいらっしゃるのでしょうが、ほとんどの方は、心の中に一抹の罪悪感を抱えながら劇場をあとにしていると信じています。

その罪悪感こそが人の心です。

失ってはいけないものです。

その行動が当たり前になってしまうと、心が麻痺して、あなたの人生において、もっともっと大事な局面で、大事な選択を誤ることになります。

あなたがそれでもいいのなら、僕から言えることはもうありません。

僕にはお願いする権利がありますが、強制する権利はありません。

宗教ではありませんので。

最期まで、それぞれの価値観を持った個として応援してもらう必要があります。

強制こそしませんが、あなたの正義が、多くの不愉快の上に成り立っているものだということだけは知っていて欲しいです。

目を背けないでほしいです。


今回の件に関して散見した意見で、「そもそも公演が被るようなスケジュールを組む吉本が悪い」と言うのがありました。

黙っとけでしかありませんが、敢えて弁明するなら、「全通に尽力して頂いているお客様には感謝していますが、劇場出番は我々にとってあくまでも生業であり、やはり「生きる為」が第一ですので、仮に公演時間が被り、どちらかしか見られないお客様が発生したとしても、物理的に可能な範囲で出番を増やしてもらうよう、事務所にお願いしています。」です。


事務所への攻撃は御門違いですからね。


お笑いを愛する人間にはすべからく、他人を想う心があると信じています。

劇場を、ただ笑えるだけの空間にしたいです。

お願い致します。

四字熟語でお礼します。