芸人だけがタバコを吸い続ける理由。
僕は23歳から24歳の1年間だけタバコを吸っていた。
歴も浅いので比較的簡単に辞められたが、タバコを辞めない芸人の気持ちも分かる。
そんな僕が、芸人がタバコを吸い続ける理由を考えてみた。
出だしから辛辣で申し訳ないが、こんなご時世にタバコを吸っている奴はやはりアホである。
アホは、アホなのでタバコを吸っている。なんかカッコいいし、コンビニで買えるし、うまいし、吸っている。
そんなアホになれるから吸っているカシコもいるかもしれない。
何れにせよ、それぞれ大した理由は無く、辞められないのはまぁ依存でしかない。
そんな依存を断ち切ってまで、人がタバコを辞める理由は大きく2つ。「金」と「健康」である。
当然芸人の目の前にも、この2本柱は聳え立っている。
しかし「金」の方の柱。これはファンが紙袋に包んだカートンで叩き割ってしまっている。
言ってしまえば、芸人がタバコを吸うのに金はいらないのだ。
そしてややこしいことに、これは芸人がファンを食い物にしているという単純な話でもない。
育ちの良いファンは、なかなか手ぶらでお笑いを観に来ることができない。いくら「いらない」と言っても、やはり何かを頂けることが多い。勿論ありがたいが、さしあたって欲しい物などは無いのが普通なので、何が欲しいか聞かれても困るのが正直なところである。
そんな時に「タバコ」と答えられるほど楽なことはない。消耗品であり、賞味期限の無いタバコはいくら貰っても嬉しい。ファンにとっても、銘柄さえ覚えてしまえば思考停止で差し入れられるタバコはやはり楽であり、この便利さが「百害あって一利なし」の代名詞であるタバコに、嫌な一利を生んでしまっているのである。
そして、もう一本の柱「健康」は「金」と違い、辞めたその瞬間の成果が無い。
基本アホである芸人に、「今の快楽より先の健康を取れ」は通じない。
猿にバナナを渡して、植えさせる様なものである。
つまり、タダで手に入る以上「芸人がタバコを辞める理由」がそもそも無いのだ。
更に言うと、「芸人はタバコを吸うべきだ」という風潮がまだ僅かにある。
「吸っている方が面白い」とまで思っている方も少なくないだろう。
割と否定出来ない説である。
自堕落に自信が加わるとロックになる。
普段のだらしなさは舞台での洗練された5分を、より引き立てる。
そんな自分に酔いしれているなんて事も、少なからずあるのかもしれない。
しかし、「それにしても」な時代である。
今年の4月から殆どの店が禁煙化しており、街の喫煙所も淡々と姿を消している。
テレビ番組は勿論のこと、ネット配信にもタバコの規制がかかったり、男女共に、「異性にタバコを吸ってほしくない派」が増え、もはや「タバコがかっこいい」という価値観は廃れつつある。
これだけ風当たりが強いと、「辞める理由」は無いにしても、「辞めない理由」が欲しくなってくる。
タバコを辞めない理由。
皆さんはすぐに思い付くだろうか。
残念ながら、芸人は思い付いてしまう。
基本的に芸人は養成所に入って、構成作家の方に、時には現役で漫才をなさっている大先輩にネタを見ていただき、その講評を元にネタを磨き上げていく。
その中でよく言われるダメ出しのひとつに、「そうなる理由が無い」というのがある。
僕含むNSC入りたてのポンコツは、「ボケはヘンなら良い」と考えがちであるが、実はそうでは無い。
ボケは、そういうボケになる"理由"が無いとウケない。
「先生トイレ」
『先生はトイレではありません』
というやり取り。
ほぼ全員が経験しており、その時の教室は笑いで包まれていたと思う。
「先生、私は、トイレに行きたいです。」という意味の「先生トイレ」が、「先生は、トイレです。」として伝わったという状況。
勿論、本当にそう伝わったわけではなく、正しい言葉を教える立場である教師が、生徒の日本語を訂正する為に敢えて間違えて受け取っており、みんなそれを理解している。
つまりこの場合、「先生はトイレではありません」という教師の発言に、納得出来るだけの"理由"があるから、教室のみんなは笑う。
コレがもし、
「先生トイレ」
『いくら先生でも燃やされたら死にます』
というやり取りだったらどうだろうか。
ウケないどころか、教室中に「?」が散らばり、どれが誰の「?」なのかも分からなくなるし、「?」の掃除はなかなか大変である。
この惨事は、教師がそう発言する"理由"が無いから引き起こされている。
そこから続け様に、『トイレの素材が衛生陶器だから、衛星投棄と間違えました。使い終わった衛星は大気圏に突入して燃え尽きるからね。』
と言ったなら、多少強引でも「燃やされたら死ぬ」と発言した理由が生まれてギリギリ笑う余地が出来るし、なんとなく授業の延長線上っぽいのでセーフである。(まだ「?」は散らばっている)
とどのつまり、理由付けとは"言い訳"である。
この言い訳が上手なネタが評価されやすい。
芸人は言い訳の教育を受けてしまっているのだ。
やれ「ネタを書くスイッチ」だ、やれ「喫煙所での先輩との会話」だ、やれ「辞めるストレスの方が身体に悪い」だ。
環境のせいで言い訳の素材も多い分、すぐに「吸う理由」を見つけられる。
そしてこれは、他の誰でもない自分への言い訳である。
自分に説得されて、自分で納得して、辞めることを辞める。
しかし、そんな自分への言い訳も乗り越え、遂に「タバコを辞める」旨のツイートをする芸人も時折現れる。
数百、数千、数万のフォロワーに「辞める」と公言した以上、もう辞めるしかなさそうであるが、このような「辞める宣言」がイマイチ意味を成さないのも、芸人がタバコを辞められない大きな理由のひとつではないだろうか。
心理学用語で「宣言効果」というものがある。
声に出して宣言する事で目標が達成しやすくなることを言う。
確かに一般的にはそうかもしれない。宣言してしまうと引っ込みがつき難くなるのが人間である。
しかし芸人については、この限りでは無い。
「宣言」は「フリ」でしかないのだ。
「辞める」と大きく宣言したにも拘らず、すぐに吸ってしまうのはいかにも芸人らしい。
「わざわざ『辞める』と宣言して吸う」というノリになってしまうのである。
金がかからない。吸う方が芸人っぽい。辞めない言い訳が上手い。「辞める宣言」がフリになる。
以上が、僕の考える「芸人だけがタバコを吸い続ける理由」である。
それにしても、辞めた方が良いけどなぁ。
四字熟語でお礼します。