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岡田康太

僕は、岡田康太という男と同じアパートに住んでいる。

岡田さんはその昔、オレンジサンセットというコンビで、10代にして地上波レギュラーに抜擢されたらしい。

30歳になった今は、岡田を追え!!というYouTubeチャンネルで「港区家賃3万7千円男」としてバズっている。

僕の部屋は3万2千円。

港区家賃3万2千円男。

ブレるからあまり言っていない。


今はアパートが同じなだけで部屋は違うが、

一時期は同じ部屋に住んでいたし、


一緒に京都へ行ったりもした。


非常に濃い関係性であるが、実はまだ出会ってから一年も経っていない。

この距離の縮まり具合に、岡田康太という人間の良さが詰まっている。


岡田さんがオレンジサンセットから改名して、なかよしビクトリーズとして活動している頃、あるライブで初めて一緒になった。

主催者の方に、誰とオープニングに出たいかを聞かれ、YouTubeで一方的に岡田さんを知っていた僕は、思い切って「岡田さんでお願いします」と言ってみた。

その時の岡田さんの顔ほど、「鳩が豆鉄砲を食ったような顔」は無かったと思う。

いや、鳩だったかもしれない。

少し曖昧だが、室内だったので恐らく岡田さんだと思う。

もし楽屋に鳩がいたならその時それなりのパニックがあった筈なので、覚えていないという事は、やはり岡田さんで間違いないだろう。

オープニングは大いに盛り上がり、ライブ自体も非常に楽しかった。

楽屋で軽く打ち上げをした後、岡田さんはその日出会ったばかりの僕達をそのまま3万7千円の家に招いてくれた。


その3日後、僕は25歳の誕生日を迎えた。

誕生日にも拘らず何の予定も無かった僕は、半ばボケのつもりで岡田さんに電話してみた。


『はいどうしました?』

「僕今日誕生日なんですよ」

『あ…おめでとうございます』

「飯とか奢れそうですか?」

『何が良いですか?』


焼肉を奢ってくれた。

色んなことを経験したのだろう。コレぐらいの急な誘いは、別段、急だとも思っていない様だった。

その帰り道、嬉しいニュースを聞いた。

同じアパートの部屋がひとつ空くらしい。

天啓だと思った。

丁度引っ越そうと思っていたのだ。

決まりかけていた押上の部屋をキャンセルして、すみだ水族館の年パスも見送った。

かなり荒々しく懐に飛び込んだ僕を、かなり優しく迎え入れてくれた岡田さん。

飛び込んでも良さそうな人柄と、飛び込んで来た奴を抱きしめる度量が、岡田康太の周りに人が溢れる理由なのだろう。


一緒に住むと、もう少し深い岡田康太が見えてくる。

岡田さんはあまり「寝よう」と思って寝る日が無い。YouTubeを観ながらの寝落ちが基本の入眠方法である。

ひろゆきの生配信、紅桜のラップバトル、橋下徹のブチギレ動画、最新のシティポップ。

これらをローテーションしている。

同じ部屋で寝ていた頃は、コレがなかなかキツかった。動画を流しながら寝る事自体はいい。内容がいつも同じなのがキツかった。

特に紅桜に関しては、一切ラップに興味の無い僕が覚えてしまう程、繰り返し繰り返し聴いている。

紅桜以外の日を僕は「祝日」と呼んでいた。

動画のラインナップから分かる通り、岡田さんは持論を言葉にする人間が好きである。

そういう人間と喋っては、自身が持っている持論と擦り合わせて、生活に落とし込んでいる。

少し怖い表現になってしまうが、自分で自分を洗脳しているのだろう。

その自覚があるのかは分からないが、これはとても賢い生き方だと思う。

他人の意見を真っ直ぐ受け止めることも、それを昇華させることも、リスペクトの才能が無ければ出来る事では無い。

YouTubeの成功はそれの賜物である。


部屋が分かれてからは、やはり顔を見る回数が減った。

最近は忙しそうなので、あまり気安くお邪魔も出来ない。

でも、岡田さんは何か嬉しい事や、腹立たしい事があったら自分の部屋ではなく、僕の部屋に帰って来てくれる。

そして言いたい事を言って寝る。

可愛い。


すみません間違えました。


これは他人に気を遣い過ぎる岡田さんが、僕を他人だと思っていない証である。

いつでもそこで寝てくれて良い。

ただ紅桜だけ勘弁してくれ。

四字熟語でお礼します。