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ピーピング・トム


遂にこの日が来た。


正真正銘、抜歯当日。


抜いてから当分は楽しい飲食ができないことを知っているので、そこまで飲みたいわけでもないスタバに入った。

壁に背を向ける形で並んだ4つの座席は、コロナの影響で等間隔に封鎖されている。


✖︎ ○ ✖︎ ○


この4席、両端は壁である。ということは、


○ ✖︎ ✖︎ ○


絶対にこの方がいい。確実にソーシャルディスタンスを保てるし、どちらも角のL壁にもたれることが出来る。角が嫌いな人はいない。

何か理由があってそうしているのだろうか。

店内が混みだして満席になった時に、なんとなく理由がわかった。

満席の店内で視覚的に2席空いていると、そこに座れないことが客にとっても店員にとっても歯痒……歯……そうだ…そんなことはどうでもいい。

僕は今から歯を抜くんだ。

歯医者に行くと、今まで担当してくれていた歯科衛生士の方が今日は別の患者を担当していた。心の拠り所だったのに。

先生によると、僕の親知らずはかなり頑丈に付いているらしい。

抜く手間が増えるだけのことなのに、褒めのニュアンスでそう言ってくれる先生は本当に出来た人である。


カンカンカンッ!!!痛くないですかー?メキッッ!!!

音にしては痛くない。

ミシッッッ!!!オッ!立派ですねー!バキッッッ!!!ほ〜〜(笑)

人の奥歯をメキメキ抜きながら笑うなんてどうかしてる。勉強し過ぎるとこうなる。皆さんは気を付けて欲しい。


何はともあれ無事に上下2本を抜歯。

ガーゼを咬まされ、「最低でも30分は口を開けないでください。」と言われる。

「抜歯」と混同しない様に歯科では抜糸(ばついと)と読むという豆知識と、痛み止め
と抗生物質を貰った。

消毒とばついとで、後2回は通わないといけないらしい。日程を決める。

「31日は空いていますか?」

仕事で言っているにしても、スケジュールが空いているかどうかを女性に聞かれるのは嬉しいものである。

「あの、31日は?」

首を縦にふる。

「お時間どうなさいますか?」

時間まで聞かれてしまった。なかなかグイグイ来るじゃないの。

「あの!お時間は?」

申し訳ないが、30分口を開けない様に言われている。

ギリギリの開口で予定を決めて、今に至る。


抜歯後の注意事項を読む。

「飲酒、喫煙は抜糸まで控えてください。」

内臓がヘボいので酒もタバコもやめた。問題ない。

「激しい運動はしないでください。」

この後ライブがあるが、漫才中激しいのは相方だけである。問題ない。

「今日から3日間は腫れると思います。」

右で経験済みなので問題ない。



いや、問題ある。



神保町ネタライブの配信がある。

不特定多数の人間にあられもない姿を見られてしまう。





これはGODIVAのモデルになっているゴダイヴァ夫人。この絵画にまつわる有名な話がある。


「税金が高過ぎるわ。これでは民が可哀想」

民衆思いのゴダイヴァ夫人は、伯爵である夫に減税をお願いしました。

「そうだなぁ。民衆が見ている中、全裸で乗馬しなよ。そしたら減税してやってもよいよ。」

正気とは思えない伯爵の提案に、ゴダイヴァ夫人は首を縦に振ります。

夫人を慕う民衆は当日、家の窓を閉め切り、

ゴダイヴァ夫人の裸を見たものはいませんでしたとさ。

たった一人"トム"という男を除いて……


散々語られ、リアルな絵画になり、更にはブランドロゴにまでなり、もはや"誰も見なかった"という美談としては破綻している気もするが、僕はこのエピソードが大好きである。


僕のファンも、僕の恥ずかしい姿をすすんで見たりはしない。


今日から3日間は皆、窓を閉め、家に篭っていてくれるに違いない。

もしライブに来たり、配信を見たりするような人がいたら、僕はそいつを"トム"と呼ぶ。







これがトム君。




コイツとして接する。



今日から3日間。



絶対に見るなよ。


四字熟語でお礼します。