断髪小説 節約
ありとあらゆるモノの値段が上がり続けて本当に大変ですよね。
みなさんはどんな節約をしていますか?
電気代やお湯を沸かすガス代の節約にはこんな方法もあるのかもしれません
今回の作品は「節約」がテーマです。
一向に止まらない値上げラッシュ
身の回りのすべてのものの値段が上がって生活は厳しくなる一方だ。
特に電気代とガス代がヤバい。
私は大きな一軒家をヒナさんとユイと3人でいっしょに借りてルームシェアしている。最初は学校時代の先輩が住んでいたのだが、結婚して引越すからあなたが住まない?と紹介してくれて移り住んだ。3人の中では一番年下だ。ルームシェアは一人暮らしよりも広いし、食事もよく一緒に食べたりするからなんだかんだで安く済む。3人の人間関係も良好だ。
私はほとんど家でパソコンを使ってアニメ関係の仕事をしている。ユイも家でウェブデザインの仕事をしている。この家は古くて気密性も悪いからエアコンやこたつも付けっぱなしで仕事だから、電気代が爆上がりした。
ここ数ヶ月は請求書が来るたびに、3人で節約について話し合って工夫をしている。
在宅ワークの私とユイは、リビングでいっしょに仕事をしようとか、話し合って実行してみたが、やっぱり集中して仕事できないから無理だった。
今月も電気代の請求がきた。
寒かったし、また電気料金が上がったから請求額がまた増えた。
「あーもうどうすりゃいいんだろうね」なんて言ってたら急にヒナさんが
「ねえ、アカリちゃんとユイ。節約のために髪を切らない?タダで切ってあげるから」と言ってきた。
ヒナさんは腕のいい美容師だけど、突然の提案にビックリする私たち2人。
ヒナさんは続けて
「髪が長いとお湯もたくさん使っちゃうし、ドライヤーだって使うでしょ。ガス代や電気代を節約するなら髪を切ればいいんじゃない?シャンプー代も節約できるし。」
まさに身を削る節約術。さらにヒナさんは
「2人とも会社員じゃないから、髪型も自由でしょ。練習ということで私がタダでやってあげるから。ね。」
ヒナさんは一番年上で収入もいい。本当はシェアハウスに住まなくても自活できると思うけど、一人暮らしがさびしいのかもしれない。
冷蔵庫や洗濯機といった共有物もヒナさんが買ってくれた。だからなんとなく逆らえない。そして私にはこの提案に反対する対案が思いつかない。
「タダ」と言う言葉に弱いユイは釣られるように「そうね。久しぶりにショートにしてみようかな」とポツリと言った。
するとヒナさんはさっそく「いいわよ。ユイは髪質がいいし、美人さんタイプだから短くしても似合うよ」とユイをその気にさせている。
そして私にも「アカリちゃんも切ろうよ。カラーもしてあげるし、仕事でもいいアイデアが浮かぶかもよ」と迫ってきた。
(ここは従うしかないなぁ…)
やむを得ず、私は
「うん。そうね。私も髪を切ってもらうかなぁ」とその場で断らずに生返事をしてしまった。
ヒナさんは喜んで「アカリちゃんは思いっきり髪を短くして、髪色も変えた方がいいかもね。絶対にかわいくするから楽しみにしててよ」と言ってきた。
(えっ?思いっきり短くするってどんなふうにされるのかな…)
ちょっとだけ怖くなった。
いっしょに住み始めた頃、ヒナさんは普通のミディアムヘアだったけど、その後突然ベリーショートになったと思えば、次はバズカットにしていた。その後はベリーショートにして刈り上げたり、派手な髪色にしたりと落ち着かない。今はグレーの髪をツンツン立ててサイドとバックは潔く刈り上げている。
そんなヒナさんは私をどうするつもりだろう…。聞かなきゃと思うけど、「じゃあ、次の火曜日が休みだから、家でカットしましょ」と話が終わってしまった。
火曜日になった。
遅めの朝ごはんをみんなで食べて、リビングを片付けてカットの準備が始まる。
ビニールシートを床に敷き、その上にもらってきた古新聞を敷いて椅子を置く。
「先にユイからカットしようかな。ここに座って」
ヒナさんはユイを椅子に座らせてケープを首にかけた。
櫛で梳かれているユイの髪は誰もが羨やむくらいキレイだ。前髪は仕事の邪魔になるからといつも眉の上あたりでパッツンと切り揃えているけど、黒くて長くて真っ直ぐな髪は肩下20センチくらいある。
私はショートにするなんてもったいないなぁと思うけど、ユイは腕の確かなヒナさんが素敵にしてくれると信じてるんだろう。
髪全体が綺麗に梳かれたあと、ヒナさんはこめかみより上の位置で髪を取り分けてゴムで結んでクリップで留めた。
まだ大半の髪はケープに垂れている。
ヒナさんはここで充電器に差し込んであったバリカンを手にとった。
そして左手でスマホをいじり、「ユイはこんな感じの髪型にするね」とスマホで写真を見せた。
「。。。。。」
ユイの表情は一瞬でこわばって絶句した。私もその写真を見せてもらった。
「えっ…」
思わず私も絶句した。写真の女性の髪型は眉あたりの高さでサイドも後ろも真っ直ぐに切られている。そして後ろ頭は青々と剃り上げられているではないか…。
「前髪の長さは変えないで、ツーブロックのボブに仕上げるからね」
ユイは絶対こんな髪型にするなんてイヤだと思ってる。いくらタダだからと言ってもこれはない…って思ってる。でももう手遅れだ。
世の中タダより高いモノはない。ユイはこれから身をもってそれを知ることになる。
ヒナさんはスマホをしまい、バリカンのスイッチをカチッと入れると、ユイの後頭部のつむじの下くらいから撫でつけるようにバリカンを入れた。
ブーンというモーター音の上に「ザリザリ…」という音がしてユイの髪が剥がれ落ちた。
上に取り分けた髪と首筋の方に残った長い髪の間だけ地肌剥き出しという無惨な姿のユイ。
ヒナさんはそのまま耳の周りからこめかみあたりの髪までバリカンで削ぎ落としていく。
鏡もなく、自分がどんな状態になっているか知ることができないユイは、怯えた表情をして固まってしまっている。
そりゃそうだろう。後ろのはともかく、サイドの髪はすごい勢いで床に落ちていき、ユイの見える場所にドンドン落ちている。
途中ヒナさんは「耳の周りから髪が無くなったからスッキリしたでしょう」とユイに話しかけた。
「まぁ。なんか変な感じかな。」ユイは強がっているのか現実を受け入れたくないのかわかんないが中途半端な返事をしている。
だけどもユイが想像している以上に頭は残酷なことになっている。刈られている部分の髪は1ミリくらいしかない。
うなじあたりに残った長い髪もすくいあげるように刈られ、カットを始めてから数分でユイの後頭部と耳周りの髪はすべて無くなった。
しかもこれで終わりじゃあなかった。ヒナさんは電気シェーバーを持ってきた。
ユイは「えっうそっ?」と驚きながら頭を触って、我が身に起きた事実を知る。
「えっ本当に髪がないよ?うそっ、うそっ?」ユイは慌てふためいてる。
「ここまで短くしたんだったらここ全部キレイに剃っちゃいたいの。バリカンだけじゃ毛穴感が出てキレイに見えないから、シェーバーで0ミリにするわね」とヒナさんはジージーとユイの後頭部を剃り始めた。
グリグリと念入りにシェーバーが動き、ユイの頭の大部分はスベスベにされた。
「これでよしっ」ヒナさんはひと仕事終わった満足そうな口ぶりで上で留めていたユイの髪をおろした。
剃り上げられた頭の部分は綺麗な髪の中に一旦隠れされた。
ボリュームはなくなったけどユイの姿は今までのように一旦は戻った。
「あー私、もうこれでいいよぉ〜」
ヒナさんがハサミを準備してる間にユイは髪に隠れた剃り上げられた頭を寂しそうに右手で撫でながらヒナさんに聴こえるように呟いている。
遠回しだが、それはユイの切実な願いだ。
だけど、ヒナさんは
「えーせっかくだから最後までやらせてよ。ね?」と言いながらシュッシュと霧吹きで残った髪を濡らしていく。そう。願いは聞き入れられない。
ユイは私にも目くばせをするが、私も口出しができない。
「それじゃ、切っていくよ」ヒナさんはさっさとユイの髪を指で挟み、耳の上にかかるかかからないかの長さでジョキジョキジョキ…と切った。ユイの顔が再び歪む。
ハサミが通っていった後は地肌が剥き出しの頭が現れる。
あんなに綺麗だった黒くて長い髪をしたユイの後ろ姿が下半分ツルツルに剃り上げられた姿に激変していく。ユイの耳は恥ずかしさと悔しさで真っ赤になった。
ヒナさんは前髪とサイドの高さを合わせたり、短くなった毛先を自然な感じですいたりと時間をかけて仕上げていく。
すごく奇抜な髪型なんだけど、ヒナさんのカット技術とユイの素材の良さで、見られるような感じにはなってきた。(絶対私は嫌だけど…)
ヒナさんがようやくハサミを置いて、ユイからケープをとって首に巻いてあったタオルで剃り上げられた頭とユイの顔についた髪の毛を払った。
「お疲れ様。終わったわよ」と声をかけると、ユイはすぐに頭を触った。
耳の上で断ち切られている髪と髪で隠れているがかなり上まで髪は剃り上げられている頭を「うわっうわっ…」と悲鳴をあげながら両手で頭を触りつづけるユイ。剃られた部分は手のひらの面積よりも大きい。
ヒナさんはユイに鏡を渡した。鏡を見るなりユイは「ハァ…」と目に涙を浮かべながらため息をついた。
「トップは長めだけど、サイドと後ろはしっかり刈り上げているから、すぐに髪が乾くし、ドライヤーの時間も短くて済むよ」と言っている。
「この髪型に似合うメイクも教えてあげるから、先にシャワー浴びてきなよ。次はアカリちゃんの番だから」と話してる。
ユイは剃り上げられた後ろ頭を触りながら風呂場に行った。
ヒナさんは「ここを一旦片付けてから、カットしようね」と微笑みながら私に言った。
私の頭の中に「ユイは思いっきり髪を短くして、髪色も変えた方がいいわ。私が絶対にかわいくするから楽しみにしてて」というヒナさんの言葉がよみがえる。
一体、私どうなっちゃうんだろう…。
ユイの髪を片付けながらドキドキ不安になっていった。
(ご挨拶)
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