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断髪小説 自由研究(母の罰)


第一章 8月31日

8月31日
母親として来てほしくない日が来た。
夏休みが終わるまであと2日。
我が子の宿題を今日こそチェックして終わっていないのであればこの土日で終わらせなくっちゃいけない。

娘のカレンは6年生。
名前の通り可憐な容姿で頭もいい人気者だが、面倒くさがりで嫌なことを後回しにして最後に親に頼る典型的な困ったちゃんでもある。
これじゃはっきり言って将来が思いやられる。
だからもし宿題をきちんとしていなかったら少しキツめのお仕置きをしようと決めていた。

朝ごはんを食べた後、私は宿題の進捗状況を尋ねた。

「カレン。あんた月曜日から学校だけど、宿題はできてるんでしょうね。ママ何回もあんたに確認したんだけど」

「うん。ちょっとはやってるよ」

「どのくらいよ?早く見せなさい」

いままでは「絶対にヤダ」と言って宿題を見せてこなかったカレンだが大人しく部屋に戻って宿題のドリルとしおり持ってきた。

「やだ。半分以上できてないじゃないのよ」
やはり予想通りほとんど手付かずの状態である。

「だって塾の講習で大変だったんだよ?中学受験もしなきゃいけないんだし。ママこれから手伝って!お願い!」

中学受験したいって言い出したのはカレンでしょって言いたかったけど、もう怒る気さえ起きない。
だけど大丈夫。今回はちゃんと手を考えている。

「大丈夫よ。そういうと思ったのよ」

「あと自由研究もあるんだけどまだ決めてないし、何をすればいいかな?」

「自分で考えてないの?」

「うん。だって何をしていいかわかんないんだもん」

「わかったわ。ママが明日一日でできる自由研究を準備しておくから、今日中に他の宿題は終わらせておくわよ」

「はーい」

そう。
カレンには自由研究で痛い目にあってもらうように、ちゃんと手を打っているのだ。

第二章 9月1日

昨日は夜遅くまでカレンの宿題に付き合った。
今年の9月1日は日曜日。夏休みが1日長い。
今日は自由研究をやるからとカレンを早く起こして朝ごはんを食べる。

8時30分になった。
「じゃあ。これから自由研究をする場所に行くわよ」私はカレンを連れて外出をする。
駅の方に向かって自転車を漕ぐ2人。

「ねえ。どこ行くのよー」
カレンは信号待ちの時に聞いてきたけど絶対に言わない。

「まあもうすぐ着くから」そう言い残して自転車で先頭を走っていく。

駅前の商店街に着いた。
自転車を降りて、押しながら目的地に辿り着いた。

ここは「サクマ美容室」という私の行きつけのお店。
カレンの髪はいつも私が切っているから、彼女は知らない場所だ。
先週ここのお店でカットをした際、私はカレンの「お仕置き」を依頼している。

「えっ?ここ美容室だよ?何の自由研究なの?」
カレンは不思議そうな顔をしながら私の後ろについて店の中に入った。

カラン、カラン…

「あら。いらっしゃい」
サクマさんは年齢不詳のきれいな女性。髪型は耳のあたりで真っ直ぐ切られたボブ。
後頭部はビシッと短く刈り上げている。

何も知らないカレンは少々緊張しながら「こんにちは」と返事をかえした。

「じゃあ。カレンはここで自由研究ね。内容は美容師さんに聞いて。ママはあんたの上履きとか買って1時間くらいしたら帰ってくるから」
そして私はサクマさんに「よろしくお願いします。」と声をかけて店を出た。

さあ。自由研究が始まるぞー。彼女がどんなふうになるか。少しゾクゾクしながら私は店を後にした。

第3章 カレンの号泣

「あのー。ここで自由研究って何をするんですか?」
カレンはサクマさんに不安そうに聞いた。

「そうね。さっそく説明をするからここに座って」
サクマさんは文房具が入ったリュックを店の棚に入れて、カレンをカット椅子に案内をする。

「えっもしかして髪切るのかなぁ…」

サクマさんはスマホを片手に椅子に座ったカレンをもう逃がさないとばかりに素早くタオルを首に巻き、カットクロスを着せていく。

「スマホちょっと貸してよ」
サクマさんはカレンからスマホを奪うと、椅子に座っているカレンをパシャパシャと撮影をしてスマホを鏡の前に置いた。

ハーフアップにしている黒くて直毛のカレンのロングヘアはとてもきれいだ。
長さも背中の真ん中までたっぷりある。
サクマさんはカレンの後ろ立って髪を解き丁寧に髪をとかし始めた。

「きれいな髪ねぇ。うらやましいわ」
時折ロングヘアを手に取りながら、時間をかけて髪を整えると、カレンにロックを解除してもらって、またスマホでパシャパシャと撮影をする。

「自由研究って何をするんですか?」カレンはもう一度サクマさんに尋ねると

「自由研究っていうかこれは社会貢献じゃないのかなぁ?ヘアドネーションしてもらうのよ」

「え?私髪切るなんて聞いてない」カレンは一瞬たじろいだが

「ダメよ。私はあなたのママから頼まれてるから」
サクマさんは、全く動じず今度は髪を取り分けながら頭の上で小さな輪ゴムで髪束を作り初めてた。

「よく覚えておいてね。病気で髪が抜けた子どものために、髪を寄付してウィッグを作るのがヘアドネーションって言うの。でもウィッグにするためには31センチ以上の髪が必要で、この長さまで伸ばすのには普通2、3年はかかるわけ」

「はい..」
なんで私の髪が寄付をされることになっているのかわけがわからない。
そしてカレンの髪は十分に長いから31センチの長さを取るなら耳より下で余裕で間に合いそうなのに、サクマさんは頭頂部の髪もかなり根本のあたりでゴムを留めていく。

「カレンさんは髪が長いから、ロングヘア用のウィッグが作れるわね。ロングヘア用は50センチ以上必要なの。こんなに伸ばすのって5年くらいかかるからとても貴重なのよ」
サクマさんは少し笑いながら、カレンの髪をどんどん縛っていく。

「5年もですか…」

カレンはさらに不安な表情をしている。

「よし。できたわよ」
わずか数分でカレンの髪は前髪をのぞいて観葉植物の葉のように10数本の髪束に分けられた。

ここでサクマさんは三たびカレンのスマホでパシャパシャと撮影した。

そして…

「カレンさん。一番最初のカットは自分でしようか?」と椅子の横のワゴンから小さめのハサミを手渡した。

そのハサミは思ったよりも小ぶりで軽い。だけど鋭利で手に持つとゾッとした。
サクマさんはカレンの右のこめかみあたりの髪を左手で持たせて、ゴムで束ねた髪の根本あたりにハサミの刃先が当たるように右手を案内する。

(ええ。髪切らなきゃいけなくなっちゃった…)

いよいよ追い込まれたカレンは鏡を見ながら、少し震えている。

「録画ボタンってこれかなぁ」
サクマさんは、怯えながらハサミを持つカレンの断髪をスマホで撮り始める。

「こっちの準備いいわよ。早くやってちょうだい」サクマさんはカメラをカレンに向けた。

(いやだ…)
カレンはしばらく固まっていたが、黙ってカメラを向けているサクマさんは目も合わせようとしない。
5分くらい悩んだがあきらめてハサミを閉じた。

ジョキリ
 耳の近くで大きな音がした。
 (あっ。。)
 髪がちぎれた。
 やけになってハサミを動かす。

ジョキ、ジョキ、ジョキ…

すると50センチ以上の髪がプツンとカレンの耳の前から切り落とされた。
もみあげあたりの髪だけが急に短くなってすごい違和感…。

「あーすごいわねー本当に切っちゃったんだー」サクマさんはカレンを少し揶揄うような意地悪な言い方でハサミを取り上げた。

そして
「あとは私が全部切っちゃうわね」と言い、すぐさま前髪のすぐ上の髪束を手に取って

ジョキリ、ジョキリ…ジョキリ、ジョキリ… と簡単に切ってしまった。

「はい」

切った髪をカレンに手渡すとすぐにまた髪を

ジョキリ、ジョキリ…

「すごいわねぇ」

意地悪そうに耳元で呟くと切った髪をカレンに渡してまた

ジョキジョキジョキ…

ジョキジョキジョキ…

頭の上から長い髪が消失し、数センチになってしまった髪がヒョコヒョコと立ち上がっていく。
一方で、カレンの手に握られる髪の束はどんどん増えて太く大量になっていき、カレンの涙腺は崩壊した。

「ちょっと、ここで写真撮っておこうか」

頭のてっぺんと右の耳の周りだけ髪が短くなったヘンテコリンな状態のカレンをパシャパシャと撮影してまた髪が切られていく。

ジョキジョキジョキ…

ジョキリジョキリ…

首の周りからも髪がなくなって、長い髪は左サイドにちょっと残っているだけ。
カレンはもう肩を震わせて号泣している。

だけどサクマさんはそんなことお構いなし。

「カレンちゃん。この髪切ったらもう長い髪全部無くなっちゃうよ」
そう言うと、左のこめかみあたりの髪を躊躇なく

ジョキジョキジョキと全て断ち切ってしまった。

「はい。全部切っちゃったわよ」

嗚咽しながら泣いているカレンの頭はまるで生まれたてのヒヨコのように短くて不揃いなベリーショート。だけど前髪だけが無傷でおでこに垂れている。

さっきまで頭にくっついていた髪束を手に持ったまま顔を覆って泣いているから、涙や鼻水がくっつきそうだ。

サクマさんはカレンの手から髪束を受け取って、号泣するカレンや鏡の前に置いた髪を写真に納めていた。

第4章 絶望の仕上がり

およそ10分後
「もうそろそろいい?」
サクマさんは泣き止んだカレンをシャンプー台に連れて行き、短くなった髪をジャブジャブ洗って、再びカット椅子に座らせる。

「じゃあ、ここから仕上げていくわね」
サクマさんはそう言うと、手付かずで残っていた前髪を額の上に持ち上げながら全体と合わせるようにザクザクと切っていく。

切り落とされた前髪はパサパサとカレンの目の前を落ちていき、膝の上に溜まる。
残った前髪はもうおでこの上にチョロッとあるだけ。

サクマさんはサイドと後ろをハサミでザクザクと刈り上げていき、耳周りや首筋をスッキリ丸出しにしていく。

「頭軽いでしょ」

サクマさんは惨めな思いでいるカレンにうれしそうに話しかけながらトップの髪もチョロッと残っていた前髪ととに容赦なくザクザク短く切り落とされていく。
頭の上に残った髪はもうかろうじて指で摘める程度の長さしかない。

明日から学校に行かなきゃいけないのにこんな髪型にされてどうすればいいんだろう。
さっきまでの長さに戻すには5年もかかるって言ってたけど、高校生になっちゃう。
ていうか美容師さんいつまで髪を切るんだろう。
お願いだからもうこれ以上は短くしないで…。

必死で目で訴えるカレンだが、サクマさんは願いに全く応えようとしない。
ハサミが置かれてホッとしたけど、サクマさんは許してくれない。
今度は真っ赤なバリカンを手に取ってサイドの髪を刈り上げていく。

ブィーーーーン
 ジャジャジャジャジャ… ジャジャジャジャジャ…

耳の周りにわずかに残っていた黒い部分が削ぎ落とされて、地肌が見えるくらいに刈り上げられていく。

「…やめてください」

と小さな声で言うのが精いっぱいだけど、中途半端に終わるわけがない。
ぐるりと頭の下半分を刈り上げられたあと、再びサクマさんは残った髪をハサミで切っていく

シャクシャク、シャクシャク…

頭の上が平らになるようにハサミを動かしながらカットを続けるするサクマさんの動きを目で追いかけながらカレンは諦めた。
毛量の多い頭頂部にザクザクと無慈悲な仕上げのセニングバサミが通る。
カレンの髪は角刈りに仕上げられてしまった。

トリマーで首の産毛が剃られてカットが終了。
もう一度シャンプーをされたけど、もはや自分の頭じゃない感覚だ。
仕上げの調髪もタオルで頭を擦るように拭かれるとほぼ終わり。
長くても1、2センチしかない髪では今までのように時間をかけてドライヤーで乾かすとか、ヘアアレンジなんかすることもできない。

それでもサクマさんはオレンジの匂いがする育毛剤のようなものをシュシュッと頭にかけて

「髪、早く伸びたらいいね」と言ってきた。
せっかく諦めて気持ちが収まっていたのに、あんたが勝手に切ったんじゃないって悔しくてまた涙が出たところを、サクマさんはパシャパシャと写真を撮った。

カットが終わって母親を待つ間、カレンは摘めないくらいに短くなった髪をザラザラと撫でながら俯いている。

やっぱりこんな短くされて絶対に似合っていないよ…。

角刈りにお気に入りのかわいいTシャツは全く似合わないし、美しい髪の持ち主だっただけにロングヘアとの落差があまりにも大きい。
泣くことに疲れたカレンは、やがて自分を騙した母に強い怒りが湧いてきた。

その時…

「カレンさんの写真撮ったけど、途中泣いちゃったから、自由研究で使えないかもね」
とサクマさんが私の髪を掃き集めながら言った。

そうだ。私泣いちゃったから髪を切ってる写真とか使えないよ…。
断髪が無駄になってしまうことでのさらなる絶望。
だけどサクマさんはこう続けた。

「ねえ?ママもカレンちゃんとおんなじようにヘアドネーションしてもらったらいいんじゃない?」って。

(そうか。私をこんなふうにしたママに仕返しができるかも)と頭のいいカレンはすぐに考えついたのだろう。

「そうしてください」と彼女は即答した。

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