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みかんの旧作ザオリク図書館「THEビッグオー パラダイム・ノイズ」

 知る人ぞ知る懐かしの掛け声「ビッグオー、ショータイム!」
 本作は、1999年放送の巨大ロボットアニメ「THEビッグオー」全2期26話、そのノベライズ版です。但し単純にTVアニメ本編を小説化したものではなく、劇中で語られなかった番外編というスタンス。著者は当時、新進気鋭のSF作家・谷口裕貴で全1巻。2003年発売。
 このビッグオーなるアニメ作品、私はエヴァのアヤナミストとして、いつか視聴しようと前から考えていました。メインヒロインのアンドロイド少女が綾波モドキと聞いてたんで。
 で、その小説版があると知り、まずはどんなお話なのか、小説から先に読んでみることに。

 さて、ノベライズ自体はオリジナルストーリー。TV本編を見た人の方がより楽しめますが、未視聴でも理解できる様、最低限度の説明はされております。でもやっぱりこれは、ビッグオー好きだった人におすすめかな?

 物語の舞台は近未来、文明崩壊の後にロストテクノロジーを発掘しながら、細々と復興中である欲望と悪徳の街・パラダイムシティ。
 その街で様々なトラブルの交渉人を生業とする、主人公ロジャー・スミスが、とある貧相な印刷業者の男性レオニードから、相談を持ちかけられるところから始まります。
 このロジャー・スミスなる主人公の青年、巨大ロボット・ビッグオーの所有者であり、裕福で豪邸に住み、同居人には頼れる老執事や超高性能アンドロイド少女がいるという、某アメコミ蝙蝠男を彷彿とさせるスーパー・ネゴシエイターなのです。

 で、随分怯えた様子の依頼人レオニードが語るには、彼はかつて印刷事業が上手くいかず生活に困窮し、さらに一人息子は海難事故死、妻には逃げられて、ついに自殺を思い立ったという。死に場所を探す放浪の末に、迷い込んだ旧文明廃墟で、謎の詩集を発見。
 偶然(?)に導かれて入手したその詩集を、レオニードは気に入って、勝手に印刷出版してしまう。するとこれが巷で予想外にヒット。そこそこの収入を得て、生活は向上する。
 しかし彼が詩集の売上げに気を良くしたのもつかの間、そこへなぜか地元マフィアの幹部オバンノンが現れる。レオニードは凶悪なサイボーグであるオバンノンに、詩集出版をやめろと脅迫された挙げ句、代わりにオリジナルを改ざんした偽詩集の出版まで強制されてしまう。
 マフィアの幹部には逆らえず、金も少々貰えるということで、言うとおりにまがい物の詩集を売り出したレオニード。だがその後彼の周囲に、第三の人物の不穏な影がちらつき始めた。どうやら、改ざん詩集の販売がお気に召さなかったらしい。
 ついに身の危険を感じた彼は、もう詩集出版自体から手を引きたいと、オバンノンへの交渉代行を、主人公ロジャーに依頼しに来たのである。

 マフィアとの交渉という面倒な仕事に気が乗らないものの、依頼人の哀れさに同情したロジャーは、結局引き受ける羽目に。だがその直後、依頼者レオニードは、何者かに殺害されてしまうのだ。
 依頼人の急死を知ったロジャーは、すぐにマフィアのアジトへと向かうが、どうも殺害犯はオバンノンではなく、アンドロイドをコントロールする力を持つ、第三の人物の仕業らしい。
 その頃シティの市場では、ロジャーの同居人であるアンドロイド少女・ドロシーが、測量技師兼旧文明トレジャーハンターの青年イアンと出会っていた。しかしイアンは10年前、第三の人物と繋がりがあった重要キャラクターで・・・・・・というのが序盤。



(ここから後半ネタバレです!)

 第三の人物とは、街に秘匿された地下基地に眠る、宇宙航行の能力を持つ前文明製のロボット「ステラ」を復活させようとする者たちであった。
 かつて前文明崩壊時に、一部人類が逃れたと伝わる宇宙の楽園アルカディア(詳細は不明)、文明が半ば崩壊した今のシティを見捨て、ステラでアルカディアへ旅立つのが目的である。
 方舟計画の実行者は、リヴィングストン博士なる老アンドロイドと、かつてのイアン青年の友人で、博士にサイボーグ改造された少女モニカ。
 彼らは汚れ歪んだ街・パラダイムシティに見切りをつけ、ステラの旅立ちと同時に、そのパワーで軽蔑するシティを破壊し、最後の審判を下す計画だったのだ!
 謎の詩集とは、その計画の暗号が秘められた代物であり、意図的に世に撒かれた、いわば開始宣言であった。

 10年前、リヴィングストン博士によって、宇宙航行ロボ・ステラの起動指令者&サイボーグ改造パイロットとして選ばれた3人の孤児がいた。それが現在のイアン青年、サイボーグマフィア・オバンノン、そしてサイボーグ少女モニカである(いわばノアの方舟の同行者)
 しかし10年の時が経ち、もはや大人になったイアン(既に子持ち)とオバンノンは、パラダイムシティの破壊計画に対し、結局反旗を翻す(自己中心的なオバンノンは、10年前も暴走して計画を頓挫させたのだが)
 だが、計画中断による10年のスリープモードで、一人だけ若き潔癖少女のまま覚醒したモニカは、生来の正義感を歪んだ形で発揮。あくまでも計画続行に執着した。
 彼女は大量のアンドロイドをコントロールして、ステラを再び蘇らせんとする。

 事件の全容を知った主人公・ロジャー&ドロシーは、方舟計画による審判阻止の為、イアンやオバンノンらと共に、ステラの眠る地下基地に向かう。
 その過程でモニカに捕まったイアンを救出し、アンドロイド達との戦闘でオバンノンを失いながらも、最終的にビッグオーで復活したステラと対決。
 激戦の末、モニカの搭乗したステラを破壊するのだった、という結末です。(描写的におそらくモニカは死亡。但しリヴィングストン博士は、物語中盤に機能停止したが、コピーが未だ複数いる模様)

 単身でもステラ計画の遂行にこだわる潔癖症気味のモニカが、なんだか哀れみを誘う敵キャラで、印象深かったですね。結局はリヴィングストン博士に利用されただけで、性格の善悪で言えば、マフィアのオバンノンの方が悪人度は高かったりするし。
 まあ、パラダイムシティを蔑んで破壊しようとしてる時点で、アウトではあるんですが。でもそのねじれた高潔さゆえに、作中一番魅力的なキャラクターではあった。
 そして聖人ノア気取りの高性能アンドロイド・リヴィングストン博士を作り出したのは、結局どこの誰だったのか? 劇中では明かされないが、たぶんアニメ本編の前文明絡みなんだろうなあ。うーん、このへんは配信でアニメ見ないとわからない。

 話の時系列的には、おそらく「THEビッグオー」本編中盤のエピソードとして想定されている。もしアニメ化したら、劇場版が一本出来そうな壮大な物語でした。
 電子書籍化もしてるので、往年のビッグオーファンには、是非おすすめです!



 


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