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映画の中でのアジア人差別とハリウッド
アジア人男性は、分厚いメガネ、出っ歯、猫背、吊り上がった目、いつも忙しなく動いている
アジア人女性は、男に従順で、か弱く、自己犠牲的で、男の性的欲求を都合よく満たしてくれる
ハリウッド映画での、アジア人の描かれ方は長らく偏見と差別に満ちたものでした。
北米最大規模のトロント国際映画祭(TIFF)では、最近多発するアジア人に対する人種差別や暴力について、映画を通じて考える公開トークインベント「Image Matters」を開きました。
以下、備忘録として私の感想も交えて伝えます
司会は、TIFFのアートディレクターで共同代表のCameron Baileyキャメロン・ベイリー氏。
参加したのは、社会学者でポップカルチャーの専門家、ナンシー・ユエン博士Nancy Wang Yuen
Guelph大学准教授エレイン・チャン博士 Elaine Chang
カナダ在住のチャン博士、「戦争と映画は切っても切れない関係にある」といい、第二次世界対戦や朝鮮戦争が映画に与えた影響について語りました。
カナダの国立映画ナショナル映画機関が 1945年に製作したプロパガンダ番組 「Japanese descent」 (こちらで見ることができます)
戦時中、北米で暮らしていた日系人や日本人移民は強制収容され、家や仕事を奪われて、キャンプに入れられていました。
映像は「日系人たちはそこでの暮らしをむしろありがたく享受している」ことをアピールするため制作されました
登場する日系人や移民たちは皆笑顔です。
「カナダ政府のおかげで、日系人は文化的で健康的な暮らしができている」とアピールされています。
しかもカラーです(日本でカラー映画が制作されたのは戦後ですよね)
チャン博士はこの映像の視点が「とてもパターナリズム(父権主義的)」「貧しく非文明的だった日系人たちを助けてやっている、正しい道に導いている」という上から目線だといいます。
※確かに、Netflixの「伝説の映画監督 -ハリウッドと第二次世界大戦-」
が示すように、米国では敵国といっても、同じ西洋人の国であったドイツやイタリアと、遠く離れたアジア人の国である日本とでは、そのイメージや受け止められ方が全く違っていたそうです。
対ドイツ戦を描いた映画では、「敵ながら天晴れ」的な描写もありました。(敵が魅力的でないと映画がつまらなくなるだろうし・・・)
ですが日本兵は得体が知れず野蛮という描写、つまり躊躇いもなく殺してもいい存在でした。
同作品内では、「米国はドイツには決して原爆を落とさなかっただろう。アジア人である日本人は同等の人間としてみなされていなかった」との分析もありました。
チャン博士は、アジア人女性について「戦時中の慰安婦、戦後はやむにやまれず米軍相手の売春婦になった女性たちの存在から、アジア女性=セックスワーカー、性的な対象 というイメージが強固になった」とも語っています。
戦争を描いた映画の中には、米軍の兵士がヒーローとなり、そういった「可哀想なアジア人女性」を救う描写もあるそうです。それが「米国女性と違ってアジア人妻は従順だ」といった類のステレオタイプの助長にもなったそうです。
ユエンさんは「重要なことは、映画の存在そのものを消す事ではない。ハリウッドの歴史を考える上で、差別的描写が含まれた映画をそのまま見ることは重要」とも強調します。
映画史では、D.Wグリフィスの『國民の創生』や不朽の名作『風と共に去りぬ』における黒人差別は広く知られ、繰り返し議論されています。
「ですが、アジア人差別については、あまり議論されてこなかった。問題視されるようになったのは本当に最近の出来事です」
ハリウッドの映画史でのアジア人について語るとき、欠かせないのはアジア系俳優のパイオニア
アンナ・メイ・ウォン
パールバックの小説を映画化した「大地」(1937)
中国が舞台で登場人物も中国人、ですが映画化された際に演じたのは白人。その白人女優がなんと、アカデミー賞最優秀女優賞を取りました。
ユエン氏は「白人女優がアジア人を演じることは『芸術性を獲得した』と評価された、その逆は決して起こり得ない」とチクリ
チャン博士は、D.W.グリフィス監督の「Broken Blossoms 」を「イエローフェイス」の一例として紹介
ロンドンを舞台にした、中国人青年と白人少女の悲恋物語です
「ですが、中国人青年チェンを演じたのは、白人俳優。いわゆるイエローフェイス(アジア人以外がその役を演じること)です」
“青年は仏教を広めるためにロンドンをに渡ったものの、生活が厳しくアヘン中毒に。ですがスラム街でリリアン・ギッシュが演じる少女と出会い、アルコール中毒の父親から少女を守るために奔走します。しかし少女の父親が、2人の淡い恋に気づき、2人の仲は引き裂かれ…”
チャン博士は「青年は自身の名誉や尊厳を守るために、最後に自殺するんです。アジア人が自己犠牲を強いられる結末はマダム・バタフライの時代と一緒」とも語りました。
「ティファニーで朝食を」(1961年)で、眼鏡で出っ歯の日系人ユニオシを白人俳優が演じてから幾年。
アジア人がアジア人自身を演じる機会は増えましたが、ユエン氏は「たとえ英語がネイティブなアジア人俳優だとしても、クレイジーなアクセントで話すことが求められた時代が続いた」と皮肉ります。
米国育ちのユエンさんは、「ロサンゼルスやニューヨークでは今や住民の10人に1人以上はアジア人なのに、映画の中ではまだまだ少ない」とも指摘。
それが自身のにどう影響したかについて、大学生活を振り返り「アジア人はキャンパスでは、Invisible(見えない)存在でした」といいました。「でも、私は大きな声で喋りましたけどね」と言って笑いました。
きっと多くの困難や悔しさを乗り越えて、キャリアを築いていかれたのでしょう。
ハリウッドの大作映画で主演をはれる、いわゆる「Aリスト」級の俳優の中に、アジア人はいません。
「ゴースト・インザ・シェル」がスカーレット・ヨハンソンが草薙素子を演じました。
「ドクター・ストレンジ」でティルダ・スウィントンが演じた導師役は原作ではアジア人だったそうです。
※追記 こちらに詳しい記事が「『ドクター・ストレンジ』エンシェント・ワン役をめぐる人種問題 ジョージ・タケイ氏が異議を唱える」。
ですが、インディペンデント映画や配信ドラマではアジア人が主演する作品が徐々に増えています
例えばネットフリックスの「ハーフ・オブ・イット」では、米国育ちでLGBTの中国系の少女が主演しました。
「ミナリ」では、韓国人移民の両親から生まれ、アメリカで育った子供たちは流暢でなまりのない英語を喋っています。
「映画が誕生した頃から、アジア人への差別や偏見が助長されてきた。ハリウッドは責任を果たすべきだ」と2人は語りました。
折しも、9月末にはアカデミー映画博物館がオープンします。
多様性とジェンダー平等を掲げる同博物館では、「ハリウッドの負の歴史」も包み隠さず展示するそうです。私はすでに会員になって、オンラインイベントにも参加。開館したら、通う気満々です。
アジア人とハリウッドについて、どういう展示が見られるのか、今から楽しみです。