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うまい歌を脱して目指す、良い歌

 今回は「DAM★とも&アウフヘーベン」という、はてなブログの記事に触発されて、僕が今歌に対して思っていること綴ってみた。かなり良いことを書いている記事だったので、普通はどんな歌を歌っている方なのだろうと思うところだが、さすがに演歌までは聴く気になれなかった。でもこの方のエピソードにあるように、その歌手も曲も知らないような聴衆にさえ、なにか響く歌を歌える方だ。歌声すら聴いたことのない僕にも刺さる文章が書けるのは素晴らしい。僕も音楽鑑賞を始めたばかりの頃は、ヒットチャートに入っている日本語の歌詞の曲だけしか理解が及ばなかったものだが、外国語詞のものやインストゥルメンタル、ジャズなんかも少しずつ手を出して、結構手を広げてきているつもりだ。でもどう頑張っても演歌はまだ聴けないままでいる。

 とにかく一度この記事を読んでいただきたい。

http://aufheben.hatenablog.jp/entry/2020/10/31/231534

 


 第一興商のカラオケ録音・録画サービス「DAM★とも」で自分の歌を録ったり他のユーザーさんの公開曲を聴いたりしていく中で、歌うまさんに出会うとやっぱり良い刺激になる。自分もこんなテイクが録れたらいいのに!とはよく思うものだ。その中でも特にうまい人は「歌の化け物さん」と言うらしいが、これは初めて聞いた。

 僕は歌だけではなくて楽曲についているコメントも割とチェックする方だが、相当うまい人でも自身なさげなというか、もっとやれるはず的なニュアンスのコメントを残してある。正直、どこを直すんだよ?何が悪いのかサッパリ分からんと思うような素晴らしいテイクにも満足してないユーザーさんんもいるのだが、その方には僕の見えていない課題がクッキリ見えているのだろう。僕もまだまだだなーと思う。

 うまい歌を越えた先にある、良い歌に辿りつきたいと思うのは僕も同じ。これを読んだときにパッと頭に浮かんだアーティストがMay.Jだ。彼女の歌唱技術の高さについてはここで僕が改めて言わなくても周知の事実だろう。そんなMay.Jが2016年に小室哲哉作曲の「Have!Dreams」をリリース。僕も当時は期待を込めてチェックしたのだが、贔屓にしている作曲家のナンバーを、とびきりうまい歌手が歌っているのに、ピクリとも心が動かなかったんだよね。こんなことってあるのか?と自分でも不思議だったし、何が悪かったのかも分からないままだ。

 「Let it go」が流行していた頃、同じ曲を歌う松たか子に対してMay.Jの方は分が悪かった印象がある。歌はうまいはずなのに。May.Jの名誉のために書いておくが、彼女の歌はどれもこれも皆つまらないなんて僕は思ってはいない。「Here We Go」は2007年のリリース当時にリアルタイムで耳にした楽曲だが、あれは歌いだしのわずか3音で即ロック・オンされた大好きなナンバー。「Here We Go」と「Let it go」、「Have! Dreams」の間にどんな違いがあるのかが分かれば、うまい歌を越えた先にある良い歌とは?という問いの正解に辿りつけるのかも知れない。


 一方で、90年代の大ヒット曲・H Jungle with t「WOW WAR TONIGHT」を歌っているのは浜田雅功。決して高い歌唱力の持ち主ではない。May.Jの足元にも及ばないのは誰も目にも明らか。というか、そもそも歌手ですらない。しかし僕も含めて何百万人ものリスナーの心をかっさらっていった。

 もちろん歌はうまいに越したことはないが、心を震わす何かを感じるその源泉は、歌唱力以外のところにもあるのだ。音程やリズムが合っていなくても、その曲を歌いたいという強い気持ちがあれば、伝わるものがきっとある。ここには激しく共感する。もしも見知らぬ誰かにも何か伝わる歌を歌いたいのなら、練習に入る前の選曲の段階から、勝負は始まっているのではないか。選曲の動機が、いつもいつも難易度が低くてこれなら失敗しなさそうだから、という逃げの姿勢ばかりでは、なかなかリスナーは獲得できまい。ときには「こんなのうまくいかないかも?」と不安になるような難曲にも手を出すチャレンジ精神が必要なんじゃないか。