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TM NETWORK「COME ON EVERYBODY」をYouTubeカバー動画で楽しもう!

 今月はTM NETWORK再起動に伴って、彼らの作品に焦点を当てた記事を連続投稿した。このテーマでさらに広げてみたい。今回鑑賞するのは1988年発売のシングル「COME ON EVERYBODY」だ。TM NETWORKはこの曲でNHK紅白歌合戦に出演し、人気は確固たるものに。翌年にはナイル・ロジャースによる同曲の別アレンジも発売された。企画アルバム「GET WILD SONG MAFIA」リリースのときに、ピアノ奏者のH ZETT Mが音楽雑誌の誌面で「Get Wild」とともに推していた楽曲でもある。このように小室哲哉の音楽は、一般のリスナーはもとより、現在プロで活動中のミュージシャンにも愛聴されてきた。浅倉大介については、既に多くのファンがご存知の通りだ。他にもKICK THE CAN CREWのKREVAやクラムボンのミトなど、近年では彼らがTM NETWORKのリリース時にプロモーションに絡むこともある。


 Truth「COME ON EVERYBODY」

 まずは宇都宮隆のボーカル・トラックを用いたリミックスから。オリジナル版のダンサブルな音楽性を継承しつつ、新しい感覚も織り交ぜた、非常にエキサイティングな作品。

 この曲を題材にするのなら、伴奏は全面的に細かく刻みにいきそうなものだ。ところが、Aメロでは白玉音符を全面に出した、意外な展開。このシンセサイザーの音色設定が絶妙で、良い緊張感を生み出している。

 Bメロ・サビは、オリジナル版が好きなリスナーの期待を裏切らない、心を熱く震わすダンサブルな展開!それ以上に特筆すべきは、2コーラス目のBメロ以降。ここで直接サビに繋げないのだ。「Get up and go!」の次は1コーラス目で聴いた、あのサウンドを僕は想定していたものだから、急に音が静まってビックリ!かなり強烈に印象的なフェイントをかましてくれる。

 「次のサビはいつくるんだろう?」という高揚感を持ちながら待っていると、主旋律を断片的に出しながら、全体を大胆に引き延ばした驚きの展開へ移行する。通常なら地味な脇役になりがちな鍵盤とストリングスによるバッキングが、このパートではさほど音程をめまぐるしく変化させているわけでもないのに、空間を支配するほどの響きを持つ。それまでのアゲアゲなムードから一変してオシャレな世界へ。こんな前衛的なリミックスには、なかなかお耳にかかれない。

 ぜひこのカバーを聴いて、僕が感じたようにスリリングな気分になっていただきたい。


chi4「CAROL-INTERLUDE-」

 続いては女性ボーカルによるカバー。タイトルは上記のようになっているが、「COME ON EVERYBODY」のカバーだと思って聴いていただいて差しつかえない。

 小室哲哉の楽曲は女性ボーカル向きな印象が強いかもしれない。TM NETWORKの楽曲も、過去に女性ボーカルによるカバーがいくつも発表されたが、意外とすんなりハマっていることが多かったように僕は思う。だが、この「COME ON EVERYBODY」に関しては、男が歌ってナンボ!なイメージがあった。それもchi4によって見事に覆されている。

 先のTruthによる作品もアレンジの大胆さが光る仕上がりだったが、こちらは楽器編成の面で大胆!なんとピアノ1本だ。この曲をドラムなしでやっても、成立しないだろ!?と思う方がほとんどだろう。だが心配ご無用。ちゃんと最後まで聴いていられる。その上、別途用意されているバック・トラックにも興味がわくことだろう。

 前回の記事で「JUST ONE VICTORY」の曲中に仕掛けられた「In The Forest」の一節について触れたが、このカバーは最初から最後まで仕掛けだらけだ。アルバム「CAROL」のコアなファンであればあるほど、楽しくて仕方ないだろう。

 「CAROL」をリピートで聴いた回数には自信がある!というヘビー・リスナーの方は、このカバーを聴けば僕のようにニヤニヤが止まらなくなってしまうことは間違いない。


5150yama「COME ON EVERYBODY」

 最後は男性ボーカルによるカバー。演奏も独自のアレンジで自前で用意したものだ。歌唱は一般の歌ってみた動画よりは上手い方だけど、本職はギター演奏の方なのかな?そんな気がする。歌ってみてもいるけど、ギターを弾いてみた動画として鑑賞するのが、しっくりくる向き合い方かも知れない。

 オリジナル版はいかにも小室哲哉らしく、シンセサイザーの煌びやかさ全開のアレンジだが、こちらはディストーション・ギターが主役の荒々しいサウンド。

 間奏では、サビの主旋律と同様の動き方をするシンセサイザーのリフに追従して、ギターが細かいリズムを刻む。このコンビネーションが実に気持ち良い。普通ならユニゾンでなぞってしまいがちになるところだが、ここはひと工夫してある。

 一番の聴きどころは、アウフタクトでフレーズを弾き始める、サビのギター演奏だ。この曲のオリジナル版のアレンジが身に染みれば染みるほど、弾き始めは無意識のうちに拍の頭からになってしまうのではなかろうか。これは意外性があってワクワクするアレンジ。

 シンセサイザーが得意で、この曲のようなダンス・ミュージックに精通している奏者よりも、むしろロックに精通したギタリストならではの発想だなとも思える。過去記事でも、ギタリストがキーボーディストの作った曲をアレンジすることの面白さについて何度か触れたが、今回もそれをたっぷり感じられた。

 これとは逆に、キーボーディストがギタリストの作った曲をアレンジするのも面白そうだ。「COME ON EVERYBODY」にゆかりのあるギタリストと言えば、日本ではなんといってもB'zの松本孝弘だ。歌詞カードにもその名がバッチリ刻まれている。B'zの長いキャリアの中でも、とりわけ初期のサウンドを好むファン層は、僕の肌感だと一定数いる。そこで、B'zのミニアルバム「WICKED BEAT」や「Mars」の続編を、キーボーディストならではの解釈で作るのも面白い。題材は、B'zの制作陣から明石昌夫が抜けた後の曲から選んでみると尚良い。これならリスナーにも予測がつきにくく、より一層意外性が増す。

 歌ってみた動画で異性曲のカバーを鑑賞したときに、聴き慣れているはずの楽曲でもどこか新鮮な響きをたびたび感じたものだ。今回の5150yamaのカバーで、僕がリスナーとして新たに気づいたのは、鍵盤楽器奏者が作った曲を弦楽器奏者が表現するのも、それと相通じるものがある、ということ。もちろん、キーボード用に書かれた譜面をギターでなぞっただけでは不十分だ。ギタリストならではの旨みを乗せることで、面白いカバーになるのである。

 カバー動画を作っているギタリストは、自分の崇拝しているミュージシャンの曲に慣れてきたら、今度はギター以外の楽器で作られた曲にも目を向けて、新たな扉を開けてみてはいかがだろうか。


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