「Get Wild」TM NETWORKメンバー自身によるセルフカバー

2019/10/20


フランスで製作された実写版シティーハンターの日本公開も迫り、改めて注目を集める、かつてのエンディングテーマ、TM NETWORK「Get Wild」。今年だけでも既に2回、そのさまざまなバージョンについて言及しているが、まだまだ言い足りないことがある。今回は他者によるカバーではなく、TM NETWORKのメンバー本人たちによる作品を取り上げたい。


globe「Get Wild」


 まずは小室哲哉から。個人名義でこそないものの、自ら立ち上げてメンバーとしても名を連ねるユニット・globeとして「Get Wild」をリリースしている。リリース当時は、「え…よりによってTM NETWORKで一番大事なこの曲をglobeでもやってしまうの!?と、困惑したものだが、素通りはできない。最初はハラハラしながら再生ボタンを押したっけ。

 蓋を開けてみれば、マーク・パンサー超グッジョブ!な仕上がりだった。オイシイ所のほとんどを持っていってしまったんじゃないだろうか。まさかBメロの英語詞の部分を、音程をスッ飛ばしてラップにしてしまうとは。想像のナナメ上を行くアレンジにはたまげたなあ。入手してからしばらくは、ヘビーローテーションでコレばっかり聴いていた。

 ボーカルの方は、「Get Wild」をカバーする女性に比較的多く見られる傾向だが、KEIKOもその例に漏れず、サビの「一人では」の後半部分の音程を段々と降りていく歌い回しにしている。ここは、フレーズの末尾まで音程を降りずにキープする歌い回しの方が、僕好みではあるのだが。音程の取り方が良いなと思う歌い回しをしているボーカリストは、オリジナル歌手の宇都宮隆はもちろん、女性だと小室みつ子・桃井はるこ・KEIのカバーだと思う。

 そもそもが、TM NETWORK「Get Wild」から派生してできたglobeのこのバージョンだが、そこからさらに枝分かれして、小室哲哉とマーク・パンサーそれぞれによるリミックスが別に生まれている。



宇都宮隆「GET WILD PANDEMIC」

 続いてはボーカリスト・宇都宮隆によるセルフカバー。タイトルも少し長くなってリリースされている。山田わたるや葛城哲哉ら、従来から気心の知れたミュージシャンを多く集めた全編生演奏のロック・サウンド。先のglobeバージョンとは別方向な仕上がりと言えよう。

 レコーディングされた音源を聴いていて一番面白く感じたのは、サビのギターの動き方。いろいろなバージョンが出尽くしてしまって、この曲はもうイジる所なんかないんじゃないかと思っていたが、まだまだ変えようがあるんだなと思った。

 このバージョンはライブで聴いてこそ初めて本領発揮!って感じがする。家庭用の再生機器で聴いてもまあこれぐらいだけど、Zeppのスピーカーから音出したら絶対こんなもんじゃない。

 ソロ活動で出したシングル「Howling」のときも似たような感触だったなあ。カッコ良い曲だと思うけど、なんか音質悪くない?って思ってた。ここは宇都宮隆の管轄外で、レコーディング・エンジニアの問題なんだけど、この「Howling」も収録されているアルバム「fragile」は、全体的に音質が悪い。

 これは音楽性を加味して、狙ってああいう粗い感じを出したのか、それとも単にエンジニアの力量不足なのか、どっちか僕には分からない。まあでも好きな音質じゃないよね。だけどライブで演奏すると、あのアルバムの質感じゃなくて、会場の設備から超良い音質で出てくるので、生で聴く度みちがえる。楽曲が持っているパワー自体は凄いから、出力がちゃんとしてると、とてつもない興奮が生まれるというか。

 僕にとってはこの「Howling」こそが宇都宮隆屈指のキラー・チューン。CDを聴くときも、CDにレコーディングされた音そのものを楽しんでいるのではなく、再生しながら、「ああ、あのときのライブ最高だったな」と思い返して盛り上がる。そんな聴き方をしている。

 この「GET WILD PANDEMIC」はレコーディングされた「Howling」とちがって、音質はちゃんとしているけれど、ライブで聴いた方が各楽器の残響まで感じ取れて絶対良さそう。エンドユーザーのイヤホンやスピーカー越しには伝わり切れてないけど、レコーディングスタジオの現場では感じ取れる音が絶対存在するよね、で、そこがサウンドの肝だったりする。そういうのがなんとなく想像つく。一度ライブで体感した後は、この「Howling」みたいな聴き方になるだろう。

 globeにも複数バージョンが存在するように、これもデジタル・シングル版と、「mile stone」収録のalbum mixの2種類がある。シングルは歌をしっかり聴きたい方にオススメ。偏った音作りにはなっていないので、他の歌手と続けて聴いてもつなぎ易いだろう。

album mixの方が低音がドスドスいってて刺激は強い。サポート・メンバーの音も、歌とひっくるめて楽しみたいというディープなファン向けだと思う。ロックだけを集中させたプレイリストに組み込むときは、コチラが良さそうだ。



 木根尚登「Get Wild」


 最後に、今回取り上げる中では最新のカバー・木根尚登のバージョン。バラエティー番組に出演した際に、場を面白おかしくするために盛った話が、いつの間にか、木根はギターがサッパリ弾けない!という誤解を生む事態にまで発展してしまい、それを払拭するために公開した動画のことではない。リリースを前提にレコーディングされたCD音源の方だ。ライブ会場限定で販売されるCD「R1」に収録。作詞を担当した小室みつ子によるニコニコ生放送の番組で8月24日に流れたので、そちらで聴くことができた方もいるだろう。

 「Get Wild」の別バージョンにあまり多く触れていない方にとっては、「この曲、バラードになるの!?」ってところからまず驚きだろう。小室みつ子によるカバーもちょっと抑え気味な感じにしてはいたけど、まだビート感はあった。クレモンティーヌ版もバラードだったな。それよりもさらにシットリな感じだ。

 こちらも、主旋律が木根尚登のボーカルによるものとピアノ演奏のインストゥルメンタルによるものの2種類がある。

(ジャケットには未記載だが、5曲目に「Get Wild」のピアノ・インストゥルメンタルが収録。)

 他者によるカバーを全部収録しようとしても、CD1枚には収まりきれないぐらいの収録時間になってしまうほどの数がある上に、メンバー全員によるセルフカバーがそれぞれ複数バージョン出ている、こんな楽曲、他にあるだろうか。

 「Get Wild」…改めてこの楽曲の浸透する力の強さを思い知らされる。