カバーで楽しむ、北条司アニメのテーマ曲

 小室哲哉の「RUNNING TO HORIZON」の本人による新たなリミックス・バージョンが、先週の4月28日に公開されたばかり。TVアニメ「シティーハンター」のテーマ曲の良さに改めて要注目だ。前回はTM NETWORK「Get Wild」のカバー動画を鑑賞したが、今回はこの曲以外で北条司作品を歌で盛り上げた3人の女性シンガー・杏里・小比類巻かほる・Soweluの楽曲を、カバー動画で鑑賞してみた。


Lipselect「CAT'S EYE」

 まずは1983年に放送開始された番組「CAT'S EYE」の主題歌、曲名は同じく「CAT'S EYE」の、LIPSELECTによるカバー動画を鑑賞してみよう。

 オリジナル歌手は女性ソロ・シンガーの杏里。発売時期は「Get Wild」よりもさらに時を遡ることになるが、2015年のBENI、そして今年のフィロソフィーのダンスによるカバーも発表されるなど、近年でも根強い支持を受ける楽曲だ。僕のお気に入りはavexの女性4人組・MAXによるバージョン。アレンジはもちろん、MVが特に良い。

 各セクションの節目節目(たとえばBメロ終盤の「開くよ」からサビへ移行する間など)で顔を覗かせるSEが、ピリッ!とスパイスが効いていて気持ち良い。こういうのはシンセサイザーならでは。楽器の特性をおおいに活かした表現だ。他の楽器奏者にはもの珍しく、面白みのある表現に感じるポイントなのではないか。

 ドラムパートもキックのパターンが常に一定なのではなく、Bメロでは打ち方に変化をつけてある。それに、僕が初めて聴いてハッ!とさせられたのはイントロが鳴って「さあ、始まったぞ!」と思うや否や、1コーラス目のAメロの頭で全体の音数がグッ!と少なくなる点。

 1コーラス目は全パート総動員で鳴らしておいて、2コーラス目も同じようにくるかと思いきや、突如いろんなパートが姿を消して変化を出す。こういう引き算のアレンジは常套手段。でも、このように1コーラス目から音を絞ってくるのは意表を突かれた。

 でも振り返ってみると、2コーラス目から音を絞る手法は、未発表のオリジナル曲だから有効なのであって、今回の「CAT'S EYE」のように既に過去に何人ものアーティストによってカバーされている楽曲の場合、リスナーはオリジナル版や他のバージョンに慣れ親しんでいる可能性が高い。ならば序盤から大胆な変化をつける手法のほうが良いだろう。これからカバー曲、それも過去にいくつものバージョンが出ている楽曲に取り組もうとしている方は、LIPSELECTのこのアレンジに今一度注目しよう。参考にしてみてはいかがだろうか。

 キックの変化と音の抜き差し、相乗効果で表情豊かなアレンジになっている。純然たるダンス・ミュージックの場合は、あまりキック・パターンをコロコロ変えるとダンスフロアでは踊りにくくなってしまう。しかしダンス・ミュージック仕立ての歌ものポップスであれば、キック・パターンも曲中にいじって場面転換を図ることも選択肢のひとつだ。

 ボーカル・パートはBメロの「扉がどこかで」がタイミングを合わせにくい箇所だと思う。ここは僕が知っているカバーの中でも、うまくフィットできてるなあ。

 LIPSELECTは既に「Get Wild」のカバー動画も公開済み。こちらも併せてお楽しみいただきたい。


Nanao「City Hunter~愛よ消えないで~」

 続いては1987年にアニメ放送開始された番組「シティーハンター」からオープニング・テーマ曲の「City Hunter~愛よ消えないで~」。劇場版シティーハンターでは作中に先のキャッツ・アイから3姉妹が登場してファンを喜ばせた。鳥山明の「ドラゴンボール」でも主人公の孫悟空が旧作の登場人物・則巻アラレと出会う場面があったり、ゆでたまご作の「スクラップ三太夫」でもやはり旧作のウォーズマンが登場したり、こういう展開は盛り上がる。

 話が逸れてしまった。シティーハンター・シリーズは名曲の宝庫との呼び声も高い。オリジナル歌手は女性ソロ・シンガーの小比類巻かほる。当ブログの過去記事でもピックアップしている歌い手のNanaoによるカバー動画が公開された。

 実に安心して楽しく聴いていられる。それもNanaoの確かな歌唱力あってこそ。何度もリピートした動画だが、視聴回数を重ねていくに連れて、ただ楽しむんじゃなくて、クオリティーの高さの秘訣に迫ろうと、分析を試みながら聴こうともしたものだ。でも気がついたらそんなことも忘れて「あー楽しかった」で終わってしまう。それぐらい自然な仕上がりなんだよね。伸び伸びとした歌いっぷりが気持ち良い。

 彼女の動画全般に言えることだが、曲中にチラチラ視線を視聴者側に向けてくれるのが特長。自らが歌うことを楽しむのに加えて、鑑賞している側にも楽しんでもらいたいという姿勢の表れだよね。

 これから歌ってみた動画を撮ろうとしている方は、カメラ目線までは真似できなくとも、仮に歌詞カードから一瞬目を離しても平気なくらいにまで歌をしっかり消化してから、録音・撮影に臨んでみよう。これでNanaoの動画のクオリティーに一歩近づけることだろう。

 彼女のYouTubeチャンネルは、以前よりもシティーハンター主題歌のラインナップが増えている。番組のファンだった方なら楽しさを満喫できるだろう。ぜひ他の楽曲も併せて鑑賞していただきたい。


No.D「Finally」

 2005年放送開始の番組「エンジェル・ハート」にも触れておこう。登場人物は「シティーハンター」と共通する部分はあるものの、野上冴子の役職が上がっていたり、ファルコンが視力を失って最前線からは撤退していたりして、単なる続編ではない。

 女性ソロ・シンガーのSoweluが歌う、この番組の主題歌「Finally」のカバー動画が見つかった。驚いたことに、なんとスペイン語だ。フランス語の「Get Wild」やイタリア語の「RUNNING TO HORIZON」は知っていたが、日本のアニメは想像以上に世界に広まっている。

 日本のファンが普通に日本語で歌うとしても、簡単にはいかない曲だ。歌をマスターするのに加えて、翻訳の労力も考えると、こんな遠い国の難しい歌を一生懸命覚えてくれて、嬉しくなってしまうね。

 どういうわけだか海外の視聴者が結構いる、というYouTubeのチャンネル開設者は、その国の歌を頑張って覚えて公開してみるのも一興だ。え、なんで日本人がこの曲を知ってるの!?と現地の方に思ってもらえれば、グッと心の距離を縮められるかも知れない。

 僕はこのSoweluによるオリジナル・バージョンに発売当時から入れ込んでいた。元々の声質が澄みきって聴きやすく綺麗で、僕好み。TRFのユーキの特に90年代頃の声や、小室哲哉プロデュースの「Feel the revolution」でデビューしたMIYUKIとも相通じるものを感じていた。Soweluも最初は持って生まれたものに恵まれた印象だったが、よく聴くとテクニックを駆使した歌唱で、努力家なんだろうなというのが分かる。

 アレンジは高音シンセサイザーの細かいリズムを刻むバッキング・パターンに打楽器のハンド・クラップ音が実によく馴染んで耳心地良い。Soweluの声との相性もバッチリだ。この相性の良さも、リリース当時は偶然の一致程度にしか思っていなかったが、これはSoweluが伴奏のリズム感を損なわないような歌唱をしているから。随分後になってから気がついたことだ。それくらい長い間、僕に聴かれ続けた証でもある。主旋律は、Bメロ以降では音数の多い音符を連続で一気にたたみかけて気分爽快にさせてくれる。

 これだけ良い曲でタイアップまでついたのに、ベスト盤からは収録漏れしているんだよね。なんでコレが入っていないの?あなたも好きなアーティストのベスト盤が出る際に、一際入れ込んでいる楽曲が収録されずに、納得いかない思いをしたことはないだろうか。

 まあ、ベスト盤から漏れてるような、にわかファンには知られていないところから引っ張りあげる方がDigってる感があるし、現在チャート1位を独走していたり、新旧ありとあらゆるコンピレーション・アルバムに収録されて広く知られている曲を、声を大にして「Digりました!」と言う気は起きない。そういう点ではこのブログの趣旨には合ったピックアップだったかな。

 CDでならシングル「to YOU」のカップリング収録分で鑑賞することになるが、現代ではやはりサブスクで、ということになるだろう。No.Dのスペイン語版は1コーラスまでだが、環境が許せば、Soweluのオリジナル版でたっぷりとフルコーラスで楽しんでいただきたい。

 

 以上、女性ソロ・シンガーが歌う北条司原作アニメ3番組の主題歌をピックアップしてみた。これらの楽曲も「Get Wild」のように広く浸透して欲しいと願うばかりである。既にこれらの主題歌を入手しているリスナーの方も、小室哲哉の最近の配信リリース作品「RUNNING TO HORIZON(206 Mix)」とともに、改めて聴き直してみると良いだろう。歌や楽器演奏をウェブ上に公開している方は、カバー曲の題材として、ぜひともご注目いただきたい。

 蛇足ながら、エンジェル・ハートのエンディング・テーマ曲である、U_WAVE「Daydream Tripper」を僕自身がカラオケ録音したテイクも公開する。いつまでかは決めていないが、少なくとも今月中はアップしておきたい。


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