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globeから音楽鑑賞の幅を広げてみる

2020/04/22


前回は「DEPARTURES」の別バージョンから、制作に関与したアーティストの音楽を深掘りしていった。今回はそれ以外のglobeの楽曲について触れてみる。

Re:place「Is This Love」

 まずはglobeのオリジナル版について言及しておきたい。発売当時には間に合わず、後追いで「Is This Love」を知った方には、妙に地味なシングルだなあと感じたかも知れない。僕の憶測になるが、リリース当時はデビューアルバムが400万枚の大ヒットを記録、次は正直どんなものを出しても売れるという土壌がglobeにはできあがっていた。こんな機会はそうはない。通常、シングルを切るには向かないような曲調でも世間に広く浸透させるチャンスだろう。故の、この楽曲のシングルリリースだったのではないか。
 使いどころは、ライブ本編での重要な局面でというよりは、終演してから客電も灯った後で、観客を送り出す際のBGMという位置づけかなあという印象が僕にはある。
 CDはレコードやカセットテープとは違って、収録順に聴く以外にも目的の曲に直接飛ぶ機能がある。これを利用して「FREEDOM」や「across the street,cross the waters」をピンポイントで聴くことは何度もしたが、「Is This Love」単体をピンポイントで聴くことはあまりなかった。globeのオリジナル版に対して、僕はこんな向き合い方しかしていなかった。
 しかし、Re:placeの「Is This Love」はそんな概念とは180度真逆の仕上がりになっている。メロディーラインはしっかり残しておきつつも、伴奏は原型の影も形も残らない、アゲアゲのパーティーチューンに変身した。どんな曲順で収録されていようと、リモコンのスキップ機能で直接辿り着きたいアレンジだ。
 文章だけ見ると「嘘をつけ!」と自分でも突っ込みたくなるような言いっぷりになってしまったが、ホントなのだから仕方ない。「Is This Love」って、さんざん盛り上がりきった後の、場を落ち着かせるときに使うチルアウト曲だと思っていたが、Re:placeのこのバージョンは、正にアゲてく真っ最中に投入する曲。イメージが180度変わった。
 DJプレイで例えたら、Re:placeの「Is This Love」で始めて、いろいろ繋いで盛り上がった後、globeの「Is This Love」で締める、っていう回し方もアリかも。曲が重複しているのに「またかよ!?」とはならない、不思議な感覚になるだろう。
 globeのアップテンポ・ナンバーが好きな方には、ぜひとも聴いていただきたい。

Minmi「Independent★Woman feat.Pushim」

 TM NETWORKのカバー歌手から、そのオリジナル作品を辿った過去記事の流れを踏まえると、ここでPushimのオリジナル曲に踏み込むタイミングになるが、今回はコラボレーションの方に注目したい。Minmiとの共演「Independent★Woman」は、ぜひとも押さえておきたい楽曲。
 収録アルバムは2004年発売のMinmiのアルバム「Imagin」。初回プレスのみの限定特典なので、この楽曲目的でCDを入手する際は、収録内容をしっかり確認してからにしておきたいところだ。
 センスの高さがキラッキラに光るアッパー・チューンで、ナナメ上から聴覚を刺激するポイントが随所に散りばめられている。特に注目したいのは、ラストで聴こえる音程の高いコーラス・パート。そこに到達するまでに、既に「これ以上どうアゲるんだ!?」ってなぐらい、ブチ上がり切っている完璧な仕上がりなのだが、そこからのもう一盛りだ。「嘘だろ!?」とひっくり返るほどレベルの高い技にヒーヒーさせられる。
 MinmiのレギュラーFM番組「True True Step」が福岡のクロスFMで放送されていた当時、僕はこのアルバム発売よりも前に、番組内で聴くことができた。初めて耳にしたときの衝撃は相当なものだった。この曲の収録がアルバム購入動機のひとつになっている。
 Pushimの音楽に関しては、この「Independent★Woman」ひとつだけを重点的に聴いてきた為、これ以外の楽曲についてはまるで知識が乏しい。生粋のPushimファンから「Independent★Womanが好きなんだ、じゃあこっちも気に入るんじゃないの?」という声が頂けるなら、ぜひお伺いしたいところだ。

globe「Say Anything」

 先ほどまでは他のアーティストがglobeの楽曲をカバーしたケースについて述べてきた。今度はglobeが他のアーティストをカバーしたケースについて見ていきたい。globeに詳しくないリスナーには、作曲については小室哲哉が一手に引き受けている印象があるかもしれない。しかしglobeのレパートリーの中には、小室哲哉以外の作曲家が書いたナンバーが少し存在する。
 そのうちのひとつが、X JAPANのYOSHIKI作曲による「Say Anything」。2002年発売のリミックス盤「global trance 2」に収録されている。コピーコントロールCDでのリリースだったため、商品の注意書きを見る限り、「そもそも手持ちの再生機器で正常に作動するかどうか」という根本的な点に不安を抱かせる上に、嘘か真か分からないが、「再生機器への悪影響がある」なんて噂もたった、消費者にとってはどうにも評判のよろしくないコピーコントロールCD。中古で入手する際は、念のため思い出しておきたい事柄だ。
 当時はこういう点で購入を見送った方も、現在では配信で視聴可能なサイトがある。これを機に過去のリミックス盤をDigっていくと面白いだろう。
 小室哲哉のファンにとっては、この楽曲から断片的にでもX JAPANのエッセンスに触れることができる。YOSHIKIとの共作はV2の他にもあるのだ。X JAPANのファンにとっては、「こんなのはSay Anythingじゃない!」となるか、「ダンス・ミュージックに触れる機会はなかったけど、これなら聴いていられる!」となるか、真っ二つに分かれるだろう。なにしろギターをまったく使わずにSay Anythingをやっているのだから、変わりっぷりが激しいのは間違いない。未知のジャンルに踏み込む第一歩になり得るリミックスだと僕は思う。

MINT SPEC「Say Anything」

 2019年の結成以来、X JAPANを中心に様々なカバー動画をインターネット上に公開している2人組ユニット・MINT SPEC。globeの次は彼らによる「Say Anything」を聴いてみよう。
 先のglobeとは真逆の、X JAPANのオリジナル版の面影を強く残したアレンジだが、ボーカリストが女性に変わるだけで、こうも新鮮に響くものなのか。いやはや驚きだ。
 僕も好きな歌を歌って録音したり聴いたりということはたくさんしてきている。そこで感じているのは、異性ボーカルの曲を聴かせるのは難関で、高い歌唱力を持つ人のみに許された特権のような、ちょっと穿った印象を持っている。本家X JAPANのToshIも女性ボーカルのカバーを出しているよね。
 こんなの妙な偏見だし、もっと気楽に音楽を楽しめばいいじゃん!とは頭では理解できても、いざ自分が安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」の主旋律を歌って、それをインターネット上に公開するかと言えば、今のところそんな気にはなれないだろう。
 でも、このMINT SPECの「Say Anything」のように、聴き応えのある異性ボーカルのカバーにたくさん触れていくうちに、「女性ボーカルものに手を出すのはやめとこう」から「いつか自分も異性ボーカルもので良いテイクが録れればいいのにな」と、少しずつ考えが変わってきている。
 歌唱・演奏ともに強く惹きこまれる素晴らしいテイクなのは間違いないが、特筆すべきはラストの英語の台詞部分もキッチリ再現している点。カラオケだとたいていはスルーされがちなところだ。仲間内で楽しむ分にはそんな細かいところまでガタガタつつくようなこともないが、見ず知らずの視聴者の耳を繋ぎ止めておくには、こういう部分こそ大事。ここをやるかやらないかで、歌い手自身の楽曲やアーティストに込めた愛着の浅さ・深さがリスナーにも伝わってしまう。
 ボーカリストのMiiは、ユニット結成以前に藤崎美花名義で出した過去のオリジナル曲を配信したり、You Tubeで生歌を披露するなど、単独での活動もある。僕も生放送を見たことがあるが、X JAPANのアッパーな曲を歌うときは、ToshIのMCの雰囲気を取り入れた上に「まだまだコメントが足りない!」という具合に、配信に合うようにアレンジした台詞で視聴者を煽っていたんだよね。いやー、これは盛り上がるなあ。歌い手のアーティスト愛をしっかり感じられる一面だ。
 X JAPANのライブについては、年末のTVの特番で1〜2曲だけという形でしか僕は触れていないが、チケットを買って実際に会場で体験しているような造詣の深いリスナーは、僕の何倍もMiiの生放送を楽しんでいることは容易に想像がつく。全国ネットのTVでX JAPANを扱うときに流れてきそうなのは「紅」や「Foever Love」あたりだろうなと思うが、こちらの生放送中に寄せられるリクエストは「Art of Life」が頻出。リピーターが多く、濃いファンに支えられているのが垣間見える。

SixTONES「Imitation Rain」

 globeのKEIKOに、MINT SPECのMiiという、2つのX JAPANの異性ボーカルカバーを楽しんでみた。過去記事の流れからすると、ここで本家X JAPANの音楽に踏み込むことになるだろう。しかし、X JAPANの極上のレパートリーの中からひとつだけピックアップなどできるはずもない。今回は過去の作品群から選りすぐりの曲というよりは、YOSHIKIの最近の作品に注目してみた。
 SixTONESに提供した「Imitation Rain」は、メロディーラインが練りに練り込まれた圧巻の一作。ジャニーズ事務所ならではの、歌とダンスで魅せるグループに合うように、派手でリズミカルなアレンジだ。
 しかし、このメロディーのまま、しっとりバラード調のアレンジも十分可能だろう。TM NETWORKの「Resistance」は、元々はバラードとして制作されたものが、アルバム全体のバランスを取るために、アップテンポに変更された。この「Imitation Rain」の場合はどうなんだろう。もしかすると制作途中の段階では、今の仕上がりからは想像もつかないような、まったく別の姿だったのかも知れない。歌ものだけに留まらず、インストゥルメンタルでのアプローチでも成立しそうだ。
 どんなアレンジを施されても、揺るがない強固な軸を持ったメロディーだ。聴きどころは、終盤の転調部分でのメロディーの跳躍の高さ。ここまで目一杯上げるのは聴いたことがない。このまま終わっても何の問題もなさそうなところだが、さらにその後、また元の音程に戻す。上げ幅も急激だが、下げ幅も同じく急激だ。終盤だけで山場が2ヶ所もある。
 2コーラス目が済んでからの、ラストのサビを半音上げる転調は、昨今では広く使われる手法だ。リスナーである僕も、初耳な曲であっても、最後は半音上がるのを折り込み済みで聴いている。故に単なる半音上げのみでリスナーの意表を突くのは、現代では難しい。そこで、YOSHIKIの大胆なこの転調。うーん、これは凄い!


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