宇都宮隆「mile stone」発売

2019/03/05


注:2018年にmixiで2回に分けて掲載した日記を、ひとまとめにして転載しています。

 宇都宮隆のmile stoneが発売されたばかりだが、なかなか良かった。ここ最近の活動を追っていると、古い歌謡曲のカバーをズラリと並べたライブをやっているようで、曲目を文字で見てみるだけだと「ずいぶん遠い所に行ってしまったなあ」なんて思っていた。こういうのは木根尚登がギター1本でジャカジャンってやってればいいんじゃないの?なんで宇都宮隆ともあろうボーカリストが、わざわざサポートメンバーを何人も連れて、軽いワンナイトイベントでもなく、この内容で全国を回らないといけないのか、とかなり疑問だった。

 今回はGET WILD PANDEMICさえ聴ければ十分で、他の曲にはそこまで期待はしていなかったけど、ふたを開けてみると他の曲も予想外に聴ける!ボーカルもアレンジも大事だな。

 最初に聴いたのはやっぱり、GET WILD PANDEMIC。今更気づいたことだが、なんとアルバムミックス!先行配信シングルを聴きたかったけど、ずう~っと我慢してアルバム発売まで待っていたのに、これならとっととダウンロードしときゃあよかったな。いやでも、自分自身のユニットで出した曲を、ソロ活動で出す際に2バージョン作れるなんて。ひとつの楽曲が後世に渡ってカバーされるだけでも凄いのに、Get Wildに至っては、宇都宮隆・globe・玉置成実・デイヴロジャースのカバーそれぞれに複数のバージョンが存在する。こんな曲、他にはそうそうない。今回のGET WILD PANDEMICのサウンドの肝は、サビの前半と後半でギターの弾き方がガラッと変わる所。あらゆる人にさんざんいじり倒された曲だと思っていたけど、まだまだいじれるのか。

 山本リンダのカバー「どうにも止まらない」は、正直なところ、あんな曲どうやるんだろう?宇都宮隆が歌う姿がまったく想像できなかったが、再生してみたらバッキバキのシンセサイザー・サウンドになってた。こんな風にできるのか。山本リンダのをちゃんと聴こうという気にはなかなかならないけど、これは買ったその日に二度聴きしてしまった。自分でも「あれ、なんで俺、どうにも止まらないをフルコーラスで1日に2回も聴いてるんだろう?」と不思議で仕方なかったもんなあ。僕は最近まで、歌というのは作曲さえしっかりしてれば、ボーカルは多少イケてなくても人の心に刺さる音楽は生まれる、と思っていた節があるけど、この曲に関しては、今まで自分に刺さっていなかったメロディーでも、ボーカリストとアレンジャーが変わって刺さるものになった、ということもあって、これまでの考えを見直す機会にもなった。

 このアレンジで、GET WILD PANDEMICの直前に配置した曲順がまたニクい。どっどどっどどどど…どうにも止まらない。ゲッゲゲッゲッゲゲゲ…Get Wild!

 作詞・作曲・編曲が分業になってるものが多い中、「境界線を引いたのは僕だ」だけは、すべてを尾崎亜美1人で受け持ったサウンドに、宇都宮隆が歌で乗っかった形なのかなと見ている。曲調は刺激を追求したものではないが、両者の1対1のぶつかり合いがスリリング。今まで尾崎亜美とかあまり縁がなかったけど、結構良い曲書くんだな、と新しい発見になった。次回作でももう1曲やっていいんじゃないの?

 このアルバムを聴いたら、カバー目白押しのライブでも行ってみようかなという気になってくる。ソロ活動だけでも何枚もオリジナル曲のアルバムを出している宇都宮隆が、あえてカバーで括ったライブをする理由が、実際に観ればわかるかもしれない。

 そう言えば松本孝弘も古い歌謡曲をカバーしたアルバムを出してたな。「勝手にしやがれ」は、なんかイメージ良くなったのを思い出した。あのアルバムはギターが弾ける人が聴いたら面白いんだろうな、とは思う。僕は弾けないから、面白さの半分も分かってないんじゃないか。

 ちゃんと聴いてもいないのに、この手の音楽はだいたいこんなもんだろう、と決めつけるのは、もうやめにしようと思う。今までは音楽を購入するときに、誰が作曲したのかをかなり気にしてきたが、もっと他の部分にも目を向けてみたい。

 前回に続いて、宇都宮隆の新作「mile stone」の感想。ミニアルバムに付随して、映像や過去音源のCDなど、複数の形態でリリースされている。僕が購入したのは過去音源のCD付きの方なので、今回はDisc-2の内容に触れてみる。

 まず、何といっても音質が向上している。聴き慣れているKiSS WiLL KiLL MEが一番よくわかるけど、イントロやサビで活躍するシンセブラスの派手な音が、僕の記憶よりもグッと前面に出てきて、楽曲全体が鮮やかになったように感じられた。それとBメロのクラップ音が、粒がきめ細かくなったように思う。発売当時と今とでは、持ってる再生機器が違うからかなと思ったが、試しに今のCDプレイヤーで、90年代にEpic Recordsから発売された「Takashi Utsunomiya The Best Files」に収録されたものを聴いた直後に新作収録のものを聴いてみたが、やっぱり音質に明確な違いがある。

 10曲目のLove Chase~夢を越えて~は、ライブで一度聴いたきりだったのに、なんとなく覚えていた。そのときは音楽を聴くのに力が入り過ぎていたのかどうか分からないが、偏屈な聴き方をしていて、もうちょっとヒネリの効いた新作が欲しいなと思っていた。今聴くと、王道のポップスとして良くできているなと、発売当時とは違う感想を持っている。斜に構えた、分かりにくい曲がズラズラ並ぶよりも、王道は王道としてカッチリ消化した上で、邪道で思いっきり遊ぶのがスマートだよなあ。王道のレールから逸れれば、新鮮な響きや未体験の驚きは得られるんだろうけど、王道のポップスの範疇から逸脱せずに、音楽をたくさん聴いてきたリスナーを退屈させないのも大変。そういう点でもこの曲は良いなと思った。僕はもうちょっと刺激的な曲の方が好きなはずなんだけど。聴いてみないと分からないもんだ。

 過去音源のCDには木根尚登の提供曲もあるので、こちらを選択すれば、小室哲哉作曲のGET WILD PANDEMICと併せて、TM NETWORKのメンバーが3人とも絡んだものが手に入る。

 購入の際に、せっかくなのでソニーから発売されたブルースペックCD2の「T.UTU with The BAND All Songs Collection」も一緒に入手したんだけど、こっちの音質の上がりっぷりも凄い。これも過去音源の再収録に未発表曲と新曲を追加したもの。ソロデビューアルバムの「BUTTERFLY」は、そもそもの音が良かったからそこまで驚かないが、「Water Dance」収録分は本当に見違える。Eternal Dateはシーケンス・フレーズの強弱がリアルになった。発売当時は大好きだったんだけど、Rosy Nail、KiSS WiLL KiLL ME、Rhythm of loveと、上位互換曲が次々と出てきて、僕の中では当初ほどの立ち位置ではなくなってきていた。だが今回は、改めて惚れ直した感じだ。同曲のライブ映像もあるが、こちらはアウトロが長くなっていて、シンセブラスが最後はハモるようになってる。これがいい。カットアウトで終わるEternal Dateもいいなあ。宇都宮隆のステップも軽やかで、ダンサーも交えて賑やか。映像つきだと、また一段と違うね!