もっと!EUROGROOVE その1

※2020/05/19にamebaownedで掲載した過去記事を転載。



 90年代のリバイバルがどうもきているようだ。今回はダンス・ミュージックの要素を汲みつつも、ポップスの延長線上で楽しめる楽曲をピックアップした。ノリノリな音楽が好きだけど、クラブとなると、なんか怖くて近づけない。アゲアゲなのも度が過ぎるとついていけない。耳が痛くなるような刺激音に終始するようなのより、ちゃんと歌ってるダンス・ミュージックがいいという方に聴いていただきたい。

 僕が海外のダンスミュージックの魅力に目覚めた、EUROGROOVEのコンピレーションCD収録アーティストの中でも、ビビッときたアーティストをさらに深く掘り起こしたのがこのリスト。カッコ良いけれどダンスフロアでないと真価を発揮できないミックスではなく、家庭用の再生機器でも楽しさを満喫できる、メロディーやハーモニーにも十分な比重を置いたものばかりだ。

ユーログルーヴ feat.翠玲「Rescue Me」

 EUROGROOVEとは小室哲哉が率いる特定のメンバーを持たない自由なミュージック・プロジェクト。コンピレーションCDシリーズ「EUROGROOVE#01〜#04」および「THE BEST」の全作通して収録されるアーティストだ。当初は楽曲毎にボーカリストを使い分けるこの形態に馴染みがなく、なんだか正体の掴みどころがない気もしなくはなかった。

 やがて日本でも、m-floがLISA不在時をこの活動形態で乗り切り、またJazztronikをはじめとする、このような形態のハウス、クロスオーバーの精鋭たちも続々と登場。この頃になると「ああ、EUROGROOVEみたいなのね」という認識で、スッと受け止められた。B'zとかだとドラムやベースは作品やツアーごとに面子が変わることもあるが、メイン・ボーカルに流動性を持たせる形態は、最初はなかなか馴染み難かったものだ。

 このバージョンの「Rescue Me」は音使いの冷たさとせつなさにキュンとくる。ダンス・ミュージックに寄り添いながらも、ハラハラと涙あふれてくる感じ。作曲は小室哲哉。90年代に立ち上げた海外進出プロジェクト・EUROGROOVEとしてのリリースだが、これまでの欧米をターゲットとした作風とは一変した、アジア色全開のチューンになった。今回取り上げる中では唯一、日本語詞の楽曲である。

 僕は発売当日に8cmCDシングルで入手した。当時はシングルを買うことに抵抗があった。いずれアルバムを買って手持ちがダブるのが分かっているのに、たった2曲で1000円もするのか、痛いなぁ…という心情があったからだ。ただ、この曲については将来的なアルバム収録が予感できなかった。マイナー過ぎてレンタルショップでも取り扱いがなさそう。ここで買っておかないと、何をどうやっても手に入らなさそうだ。買うしかない。入手までの経緯はこんな感じ。僕の手持ちの中でも数少ない、中古ではない8cmCDシングルだ。

 EUROGROOVEという冠付きなので、ビートの効いたバリバリのダンス・サウンドかと思いきや、これはこれで風情があって心に染みる。むしろダンス・シーンとは別なところで効力を発揮しそうだ。購入当時、特に小室哲哉のファンでもなんでもない僕の妹がこれを気に入って、僕がCDプレイヤーを使用していないときに、勝手に取り出してよく聴いていたものだ。ダニー・ミノーグの歌う同曲の英語版には食いつかなかったが。アーティストのネームバリューではなく、楽曲自体にリスナーを惹きつける力があるのだろう。

 購入当時の予感通り、長きに渡ってシングルでしか入手できないレア音源だったが、昨今は配信アルバム「TETSUYA KOMURO ARCHIVES EX」に再録の運びとなり、手に入りやすくなっている。

ファン・ファクトリー「Dreaming」

 コンピレーションCD「EUROGROOVE #02 」では「Close To You」が収録されて、日本人の僕にもその存在を知らしめたFun Factory。フランスの女性ボーカリストを、ドイツ・イギリス・イタリアの男性メンバーが囲む多国籍ユニットだ。たった1曲のマグレ当たりではなく、アルバムには他に良い曲がいくつもある。エイス・オブ・ベイスの流れを汲んだ、欧州人の作るレゲエ風なものも散見されるが、僕はこの「Dreaming」や「Close To You」のような、アップテンポで強いビートの曲調の方が、彼らの本領発揮だなと感じている。

 ビート一辺倒の押し込みではない。メロディーの起伏も実に変化に富んでいて楽しめるし、ハーモニーの響きも心地よい。日本語の歌詞を乗っけようと思えばできなくもなさそう。今回取り上げる中では最もダンス・ミュージックらしい、バッキバキなサウンドではあるが、イントロだけ聴いて「ウワッ、苦手かも」と思っても、どうか歌の部分まで待っていただけたら、と思う。

 楽曲構成にも注目だ。日本のヒットチャートだけを追っていると、Aメロで始まってBメロで変化をつけてからサビで盛り上げる、というのが定石になり過ぎている。歌というのは、そういう風に作らなければならないものだとも思い込んでしまえる程だ。だがEUROGROOVEのコンピレーションを聴きだしてからは、もっと少ないパーツからでもワクワクする音楽は作れることを学んだ。先の「Rescue Me」とはそういう面でも別な作り。こういう欧州スタイルの音楽の楽しさにも触れていただきたい。アルバム「FUN-TASTIC」に収録。

ウィッグフィールド「Was A Time」

 コンピレーションCD「EUROGROOVE #04 」に「Think of You M.B.R.G Remix」が収録されたのがWhigfield。avexの女性4人組・MAXが歌う洋楽カバー「恋するヴェルファーレ・ダンス」のオリジナル歌手だと言えば、「へぇ~、そうなんだ」と、思ってもらえるかもしれない。

 先のFUN FACTORYは、お気に入りを一つに絞れと言ってもなかなか難しいものがある。だがWhigfieldはこの「Think of You M.B.R.G Remix」が突出していて、これが一番だと即答できる。「EUROGROOVE #04 」収録の際も、同曲の数あるバージョンの中から厳選してのこの結果なのだろう。そんな僕がWhigfieldって他にどんな曲があるのかなと思って掘り当てたのが、この「Was A Time」だ。

 楽器隊のアクセントの置かれる位置の違いに要注目。ベースは拍の頭なのに対して、ギターのアルペジオは音程が最も高くなる部分。この位置がトリッキーで一聴すると不揃いなようでも、最終的にはまとめて辻褄合わせをしている。制作手法としては、perfume「ポリリズム」にも相通ずるものがあるだろう。

 先に挙げた電子音の洪水のような「Dreaming」とはまた違う、柔らかい肌触りな印象だ。今回とりあげる中では最もスローなナンバー。基本ポップスなんだけど、ダンス・ミュージックにも片足突っ込んだぐらいの感じが丁度良いという方にはオススメ。

 僕はジャズで同様の感触を持っている。古くから存在する、渡辺貞夫のような、れっきとしたジャズの良さはまだ理解できない。でも2000年代以降に登場した、クラブ・ミュージックとジャズの隙間を行きかうようなジャンルの良さならわかる。ユーロダンスで似たような感覚を覚える、という方には、このくらいのサジ加減の曲の方がフィットするだろう。

 MV見てると、超美人!歌はハートだとは分かっていても、これは見た目のイニシアチブがかなりあるなあ~。モデル兼業でもやっていけそう、むしろ歌も歌えるモデルという立ち位置の方がオイシイかもしれないね。本国での活動まではそんなに詳しくないけど。この「Was A Time」はシングル表題曲としてリリースされている。