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2020年版・YouTubeで活動する歌い手のオリジナル推し曲(後編)

 前回に続き、昨年YouTube上に公開された新曲の中から、僕の心をアツく震わせた歌い手のオリジナル曲をピックアップしてみた。

mikkomiko feat.Nanao「GLORIA」

 記事執筆時点で自らのYouTubeチャンネルに200本以上の動画を投稿しているボーカリストのNanao。当然、昨日今日始めたばかりのビギナーではない。前回の記事で取り上げたhiromi同様、確かな歌唱力を最大の売りとするタイプの歌い手だ。現時点でのチャンネル登録者は2万人弱というところ。これでもたいしたものだが、今後活動歴が長くなっていけば、もっと名前が広まるポテンシャルは十分に秘めている。

 YouTubeでカバー動画を楽しんでいく過程の中で、このシンガーの歌ならまったく知らない曲でも聴いていて楽しかった!という経験を繰り返すうちに、他の誰のものでもない、その歌い手のオリジナル曲をDigることにハマって僕が辿り着いたのがこの曲「GLORIA」だ。

 この楽曲はとにかく作り込みが深くて聴きごたえ抜群。音楽の楽しみ方も千差万別だとは思うが、会話を遮らない程度の心地よい軽さのBGMとかではなく、余暇に楽曲そのものに夢中になって酔いしれたいという能動的な楽しみ方をしたいのなら、この楽曲はうってつけだ。ここも前回取り上げた「Flame」と重なる部分である。

 では、なぜ作り込みが深いと思ったのか。それはギッシリと詰め込まれたアイデアの量だ。1曲中に2曲分ぐらいはありそうな勢いだ。特筆すべきは、急速にめくるめく展開をみせるサビ。「降り注げGloria」という締めのフレーズに着地するまでに、メロディーラインが予測できない方向にあっちこっちと飛び回り、リスナーの耳を縦横無尽にユッサユッサと激しく揺さぶってくる。これはスリル満点でいいねえ。

 アイデアの根源がしっかりしているので、「continue resist 英雄のいないstory」から「降り注げ」あたりまでをワンセットとして、ここまでを単に2回リピートするだけでも、サビとしては9割方できあがりそうなものだ。しかしここで制作の手を緩めないのが凄いところ。サビ頭から「自由の扉」あたりまで歌ってから、「continue resist」につなぐまでの「刹那に狙い定めて」のパートは、そこに到達するまでにBメロをすでに作っているのに、このためにわざわざもう一度Bメロを作っているんじゃないかってぐらいの労力のかけようだ。この「刹那に狙い定めて」の練り込みっぷりが、サビのグレードを一段と押し上げている。

 あとは、やはり締めのフレーズの手前にある「突き上げた拳」のうちの「きっ!、あっ!、げっ!、たっ!」のパート。ここは強いアクセントになっている。この部分だけ裏拍で入るから、他のパートより引き立つんだよね。あと少しでフレーズを締める、最も盛り上がりたい箇所。これはハッ!とするメロディーメイクだ。

 自分も作曲をしていて、頑張ってメロディーをこねくり回しているんだけど、何かもう一押し足りない。そういうときは、今一度書いたメロディーを譜面にして全体を辿ってみよう。音程のアップダウンばかりに気をとられ過ぎて、気が付いたらほとんど4分音符と8分音符だけだった!という事態に陥っていないだろうか。音程の上下と同等に、発音するタイミングを早めたり遅らせたりして緩急をつけるのも、作曲においては重要。この楽曲の「突き上げた拳に」のパートからそれを感じ取っていただきたい。

 この曲も前回の記事の「Flame」同様、すでに巷でヒットしているメジャーなアーティストの作品と同等の質感で楽しめた。サブスクで視聴していたら、たまたまリリースされたばかりの、YOASOBI「怪物」がアップされてきたので、試しに「怪物」の直後に「GLORIA」をかける、という聴き方をしてみたのだが、聴いていてテンションが落ちるということはまったくなかった。と、いうわけで作曲者のmikkomikoに関してはもうベタ褒めである。

 ただ、こんな難曲を歌いこなせるボーカリストが見つかるのか。見つかったとしても、歌う方が楽曲を気に入って歌う気になるかどうかは、また別問題。せっかくの名曲も、絵に描いた餅のまま終わってもおかしくないところだったが、ボーカリストのNanaoがしっかりこれに応えた。この上なく良い歌い手にもらわれて、めでたしめでたし。

  Nanaoの持ち歌の数はまだ少なくて、ワンマンライブはもとより、ショッピングモールでインストアライブを行うにも、オリジナル曲だけでは持ち時間を埋めるのは厳しいかも知れない。だが、まだまだライブを行うには世の中の情勢的に障壁が高すぎる。じっくりと時間をかけて準備していけばいいのではないか。

 「GLORIA」が良かったから、Nanaoの他の歌も聴いてみよう!という気になった方へは、彼女のYouTubeチャンネルに掲載されている、TM NETWORK「BEYOND THE TIME」をお勧めする。記事執筆時点では最も再生数の多い楽曲だ。リスナーの総数もだが、リピート率も高いのではないかと思われる。僕も何度もリピった動画だ。並みのシンガーだと、歌唱において音程が上がれば上がるほど、音の芯は薄くなっていく。だがNanaoの場合は音程が高くなっても音の芯は残ったままだ。これが彼女の歌声のチャームポイントのひとつだろう。「GLORIA」もそうだが、「BEYOND THE TIME」でも、そうした側面が味わえる。

 「BEYOND THE TIME」に続いてもう一曲ということになると、どれがいいだろうか。なんといっても200本以上の動画があるからね。初めて訪れたらどこから手をつけていいのか分かんないと思う。そこで、「BEYOND THE TIME」が好きなリスナーが興味を持ってそうな曲を僕が選んで聴いてみた。僕がクリックしたのは以下5曲。

See Saw「あんなに一緒だったのに」

TM NETWORK「STILL LOVE HER」

TM NETWORK「Get Wild」

杏里「CAT'S EYE」

PSY・S「Angel Night~天使のいる場所~」

 この中から、どれを真っ先にクリックすればいいかというと、PSY・S「Angel Night~天使のいる場所~」だ。この曲は中盤のフェイクの部分がネックになって、誰でもやすやすと挑戦できる曲ではない。フェイク・パートの音程が当たる当たらない以前の問題として、そもそもどんな音程になっているか辿ることもできずに、歌詞のついている部分しか歌えないという歌い手だっていくらでもいるだろう。他の4曲はもう一歩踏み込んだ仕上がりだったらなあ、とか、この曲は他所でも散々歌われているよなあ、とか思ったりする。だから、Nanaoのチャンネルでは「Angel Night~天使のいる場所~」をお楽しみいただけたら、と思った次第だ。

 歌唱力の高さはこれまで言及してきた通りだが、映像の方も日本語詞に加えて英語詞も付記されているのがポイント。日本人の僕には英語詞の部分はとりたてて必要はないのだが、単純に見た目がカッコ良いなあというのと、日本のアニメは海外でも人気だから、外国の視聴者に配慮した画面構成だよね。日本の音楽番組に洋楽アーティストが出演する際も、歌詞テロップがまったく表示されないよりは、対訳がある方が、知らない曲にしたってまだ興味が持てる。そういうことを思い出した。


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