カバーで楽しむ、V2「背徳の瞳〜Eyes of Venus〜」

2020/04/25


前回の記事では、globeの楽曲を足がかりに、TM NETWORKの小室哲哉とX JAPANのYOSHIKIという2人の作曲家の音楽と向き合った。こうなると、どうしても聴きたくなってくる音楽がある。
 このビッグネーム2人が組んで結成したユニットが、V2。僕の音楽鑑賞歴の中でも最も深く心に刺さる「背徳の瞳」を1992年にリリースした。あれから30年近い月日が経とうとしているが、これに匹敵するほど心への高い震撼度を持つ曲には、片手で数えられる位しか出会えていない。初めて聴いたときの全身に鳥肌が立つあの感覚は未だに忘れられない。衝撃的だった。
 今回は、この稀代の名曲「背徳の瞳」をカバーしてインターネット上に公開した曲の中からピックアップする。同じ曲でも表現者によって様々な解釈がある。その違いを楽しんでいただきたい。
KODA「背徳の瞳」
掲載場所:You Tubeチャンネル・KODATUBE

 まずはピアノ・ソロによるインストゥルメンタルから。V2のオリジナル版では見られない、大胆なテンポの上げ下げでドラマを展開。この演奏形態で、いかに聴かせるかを練った仕上がりだ。随所に見られる独自のオカズも、自分ならこう弾く!という主張が感じられる。ここも面白く鑑賞できるポイント。あとはやっぱり、アーティスト本人たちを意識した衣装かな。単に腕が立つというだけよりも、こういう映像の方がファンの心を揺さぶるってもの。
 腕自慢のプレイヤーで、「俺には視覚的効果なんぞ不要。音声だけでもリスナーのハートを鷲掴みにする自信がある」という方こそ、一度は「何もここまでしなくても」ってなくらい、衣装にこだわってみてはいかがだろう。初めて見る視聴者にとっては「どうせ見かけ倒しだろ」から「ゲェー、めっちゃ上手い!」へというギャップ萌えを生み出す効果が期待できる。

ハヤシヨシノリ「背徳の瞳」
掲載場所:You Tubeチャンネル・【ROCKボイパ】ハヤシヨシノリ

 You Tubeで見られる、ドラム奏者による演奏してみた動画は「弾いてみた」と同時に「叩いてみた」というワードでも検索できる。この「叩いてみた」の後に続く楽曲名が「背徳の瞳」だと、それだけで僕にとっては驚愕ポイントだ。この動画はさらに「ボイパ」まで乗っかっている(ボイパ=ボイス・パーカッションの略)。
 この動画タイトルの字面を見ただけで「いやまて、無理無理無理!ンなもん、できるわきゃねえ!」と、即ツッコミを入れたくなったのだが、いざ再生してみたら…ホントーにやってた!見終わった後は口アングリになったまま、しばらく動けませんでしたとさ。
 基本的なことだけど、ボイス・パーカッションの場合、表現行為は「弾く」と言うのも「叩く」と言うのも、なんだかしっくりこないよなあ。奏者自身は何て言ってるんだろうか。

toku-mei子「背徳の瞳」
掲載場所:You Tubeチャンネル・toku-mei子

 続いてはギター奏者によるカバー。V2のメンバーは2人ともギタリストではないのだが、それでもギターでカバーしたいと思わせるほどに、この楽曲には波及力の高さがあるということなのだろう。
 V2結成時には、ここにTHE ALFEEの高見沢俊彦が加わる説もあった。だが、それぞれに人気が確立して活動も軌道に乗っている、所属の異なるプロ・ミュージシャンが集まって、共作したものを商業ベースに乗せるとなると、本人たち以外の所でも余計な口出しをする存在はきっとある。まあ無理だったんだろう。憶測になるけどね。
 この動画を見ていると、そんな幻の高見沢俊彦加入説が現実のものとなっていたら、こうなっていたんじゃないだろうか、と思える。楽曲全体の構成をしっかり咀嚼した上で、緩急をつけたアレンジを施しているのが一聴して分かる。間奏明けの「Close your eyes」へ入っていく際の、音程を駆け上がるギターソロのフレーズが僕のツボ。演奏者自身の主張も多分に感じられる、聴いていてワクワクする動画だ。
 動画掲載者の思惑としては、第一に見て欲しいのは演奏の腕前だろう。録音についてはラフ・ミックスなのは十分承知しているし、ここをつつくのは野暮な話だが、それでも「これを本職のMix師がレコーディングしていたら、まだこの上があるよなあ…」と思わずにはいられない。
 とにかく聴き応え抜群のギター演奏だ。ぜひとも再生していただきたい。

人斬り歌うたい「背徳の瞳」
掲載場所:You Tubeチャンネル・人斬り歌うたい

 最後は歌の入った動画。やっぱりボーカルが入っているのが一番聴きやすいよね。V2のオリジナル版で歌っているのは、ボーカルが本職ではない小室哲哉。だが、もしこれを本職のボーカリストが歌っていたら…という空想を抱いたことがあるのは、きっと僕だけではないはずだ。
 僕もこの曲のリリース当時、TM NETWORKの宇都宮隆やX JAPANのToshIが歌っていたら、という仮想は何度も立てたものだ。今になってみると、この2人をボーカリストに立ててしまうと、V2(いやV3になるのか)の人数配分がTM NETWORK・X JAPANのどちらかに寄ってしまい、きれいな正三角形にはならない。故にボーカリストとして立つのは、TM NETWORK・X JAPANのどちらのメンバーでもない人物がいいのだろうと思える。
 そこへ来ての、この動画のコンセプトは非常に面白い。もしHYDEがカバーしたら、こうなるのでは?というものだ。着眼点が良いねぇー。アーティストへの愛情たっぷりで、僕は大好きだ。
 見どころは楽曲の進行中に自らのテイクに対して入る、文字テロップによるセルフツッコミ。「彷徨う…」の歌い回しへの僕の返答は「アリアリアリ!全然OK」だ。終盤では「Venus」の音の末尾も、ちょっと細工してある。これも好きだなー。何度もリピートして心底楽曲を気に入っている人ならではの発想だよね。上っ面をなぞってるだけじゃないのがすぐ分かる。
 先の3曲は食い入るように見ていたが、これに限っては笑いをこらえるのが大変だった。本当に歌の好きな人が大真面目に遊ぶからこそ、こうなるのだろう。ラストのコメントがとどめになって、声出して笑っちゃったけどね。視聴する前に一言つけるならば、人の多い電車内など声を立てられない場所にいるのなら、帰宅するまで待つべきだということかな。
 聴き終わったら、「HYDEくの瞳」なんてワードが思い浮かんでしまったよ。僕よりとっくの前に同じようなこと閃いた人、何人もいるよなあ。
 概要欄には、気分を害したらすぐ削除しますとあるのが心配だ。削除なんかされたら、僕の気分が害されるんだけど。長く残しておいて欲しいなー。
 でもこれホント、実現したら盆と正月がいっぺんに来るなあ。なんとかYOSHIKIの方から打診して欲しい。そしたらglobeの企画盤「globe#20th SPECIAL COVER BEST」で「DEPARTURES」を制作したときのように「この曲の歌唱依頼を受けて、断る理由が見つからなかった(キリッ!)」とか言って、「背徳の瞳」をHYDEが歌ってくれればいいのに。

第一興商が提供するカラオケの録音・録画サイト・DAM★ともでは、僕も過去に「背徳の瞳」を歌う他のユーザーのテイクを聴いて、気に入ったものに自分のコーラスをつけて公開したこともある。そのときはTM NETWORKのファン同士のコラボだったが、同じ曲をX JAPANのファンとコラボするのも面白そうだ。