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理想的なチームバランスだった2009年読売巨人軍


''球春到来''

何度経験しても良いものである。

 長いシーズンオフを経て、再びチームが再集結。
前年のような活躍を期待される主力メンバー、昨季の悔しさを晴らそうと目の色を変えて望む実力者、今季こそはとがむしゃらに首脳陣へアピールする若武者、高い期待をされて来日した大物助っ人...
皆それぞれの思いを持って、2月1日 読売巨人軍は宮崎にキャンプインした。

 昨季達成できなかった「日本一」の目標を達成するには、これらの選手が上手く噛み合わないとなかなか難しいだろう。
 今季のチームの陣容を見てみると、あるシーズンを思い出す。今から11年前の2009年シーズンである。


1.昨オフのチームの動き

 まず巨人軍は昨オフ、どのようなストーブリーグを過ごしたのか振り返ってみよう。

2020年 主な入団選手】
・A.サンチェス … 韓国SK
・T.ビエイラ      … 3Aシャーロット
・堀田賢慎         … ドラフト1位 青森山田高
・太田龍             … ドラフト2位 JR東日本
・井上温大         … 前橋商業高
・田中豊樹         … 日本ハム
・山瀬慎之助     … ドラフト5位 星稜高
・菊田拡和         … ドラフト3位 常総学院高
・G.パーラ         … MLB ナショナルズ
・伊藤海斗         … ドラフト6位 酒田南高
・八百板卓丸     … 東北楽天

 FAで連敗したものの、MLBから通算1312安打のバリバリメジャーリーガーG.パーラ、韓国球界からは昨季17勝のA.サンチェス、更にはブラジル出身の最速167km/h右腕T.ビエイラと、3名の外国人を迎えた。
 ドラフトでは支配下指名6名中、5名が高卒というフレッシュな面々になっている。

 次に退団選手を見てみよう。

2020年 主な退団選手】
・山口俊                 … MLB ブルージェイズへ
・上原浩治             … 現役引退
・森福允彦             … 戦力外
・坂本工宜             … 戦力外
・S.マシソン         … 現役引退
・R.クック             … 自由契約
・T.ヤングマン      … 自由契約
・S.アダメス         … 自由契約
・阿部慎之助         … 現役引退→巨人二軍監督就任
・C.ビヤヌエバ     … 自由契約→日本ハムへ
・J.マルティネス … 自由契約
・A.ゲレーロ         … 自由契約

 投打のレジェンドである上原と阿部、昨季チームの勝ち頭でリーグ2冠の山口、長年チームのブルペンを支えた鉄腕マシソンと抜けた穴は大きい。
また外国人選手はR.デラロサとC.C.メルセデス以外は全員退団(支配下選手のみ)となっており今季に関しては、退団選手>新加入選手 となった感は否めない。


2.2009年シーズン概要

 次に2009年シーズンの概要を振り返る。

ペナント 89勝46敗9分 勝率.659 【リーグ優勝】
CS (対中日) 4勝1敗
日本シリーズ (対日本ハム) 4勝2敗 【日本一】

 開幕から首位を走り、一時2位中日に1.5ゲーム差まで迫られるも最後は12ゲーム差を付けてリーグ3連覇を果たした。
またCSでは中日を、日本シリーズでは日本ハムを下して7年振りの日本一に輝いた。

 この年のチーム編成を振り返ると2020年の巨人軍と通ずる部分も少なくない。


3.2009年 選手陣容

 ここで2009年の選手陣容を振り返ってみよう。

【先発投手】
・内海哲也                 179.2回   9勝11敗 防2.96
・D.ゴンザレス             162回 15勝2敗   防2.11
・S.グライシンガー     161回 13勝6敗   防3.47
・東野峻                     153.1回   8勝8敗    防3.17
・高橋尚成                     144回 10勝6敗   防2.94
・W.オビスポ                58.2回   6勝1敗   防2.45

 投手陣の大黒柱の上原浩治が抜けた穴は大きいかと思われたが、次世代エース内海が好不調の波もありながらもチームトップの179.2回を投げ防御率も2点台と踏ん張り、同じ左腕の高橋尚は9月以降で5連勝するなど10勝。2年ぶりに規定投球回もクリアしチームに貢献した。また、5年目の東野が苦しみながらも153.1回を投げキャリアハイの8勝をマークするなど若い投手の踏ん張りも見られた。
そしてなんと言ってもこの年はゴンザレス、グライシンガーの助っ人右腕が勝ち頭としてローテを引っ張った。
 ヤクルトから移籍のゴンザレスは年間通して抜群の安定感を誇りリーグ2位の15勝、防御率は2.11とエース級の働き。同じくヤクルトから2008年に移籍し2年連続最多勝のグライシンガーは開幕投手も務め13勝。防御率は悪化したがローテーションを支えた。
 また、育成出身のオビスポがブレイク。育成出身投手初の完投勝利を挙げるなど6勝。防御率も2.45でシーズン優勝投手にもなるなど、飛躍の1年となった。

【救援投手】
・山口鉄也      73試 9勝1敗 35H 防1.27
・越智大祐      66試 8勝3敗 24H 防3.30
・豊田清          46試 2勝2敗 15H 防1.99
・M.クルーン 46試 1勝3敗 27S  防1.26

・M・中村      29試 1勝2敗    5H 防6.18
・藤田宗一      19試 1勝0敗    2H 防2.08

 救援陣は全盛期の山口、越智による「風神・雷神」コンビが年間通してフル稼働し、度々故障で離脱しながらも27S 防御率1.26と守護神として君臨したクルーンに繋ぐ方程式は磐石だった。
 移籍組でもクルーン不在時にクローザーを務めた豊田の他、登板数は減ったが随所で勝負強さを見せた藤田、成績は不本意で苦しんだが敗戦処理など辛い役割も担ってくれたM・中村ら、かつてのパ・リーグ救援タイトル獲得者の縁の下での存在も忘れてはならない。

続いて野手を見てみよう。

【野手】
・坂本勇人     141試(581-178).306 18本   62打点
・A.ラミレス 144試(577-186).322 31本 103打点
・小笠原道大 139試(514-159).309 31本 107打点
・亀井義行     134試(490-142).290 25本    71打点
・阿部慎之助 123試(409-120).293 32本    76打点
・松本哲也     129試(372-109).293   0本    15打点
・谷佳知         101試(287-95).331   11本    48打点
・李承燁           77試(223-51).229    16本    36打点
・鈴木尚広     122試(202-53).262      1本      8打点
・木村拓也       86試(186-43).231      2本    16打点

 タイトルにもある、「理想的なチームバランス」というのは、野手陣を見ると特に分かりやすいのではないか。

 二岡智宏、清水隆行と一時代を支えたメンバーが抜けたが、チームの大黒柱として、絶対的正捕手の阿部(31)がドッシリ構えた。
 移籍組の小笠原(36)、ラミレス(35)の中軸2人が揃って3割30本100打点をクリアし打線の土台となると、その強固な基礎の上で高卒3年目の坂本(21)が初の打率3割到達、育成出身の松本哲(25)が攻守で駆け抜け育成出身野手史上初の新人王を受賞すれば、亀井(27)は初の規定打席到達&25本塁打&71打点と、サプライズ選出されたWBCの疲れも感じさせない働きっぷり見せるなど若手〜中堅の選手がのびのびとプレーできた。
 また、スタメン代打問わず結果を残した谷(36)、本職ではないもののチームの緊急事態にキャッチャーを務め、窮地を救ったユーティリティープレイヤー木村拓(37)など、いぶし銀の選手たちの活躍も大きかった。
 加えて、日韓通算447本塁打を誇るアジアの大砲 李承燁(33)や足のスペシャリストで代走の切り札として重宝した鈴木尚(31)がベンチでスタンバイするなど選手層の厚さは12球団トップクラスであった。

 また、脇谷亮太(28)はCSでシリーズMVPに輝きチームの勝利に貢献したし、21年目の大ベテラン大道典嘉(40)もCS、日本シリーズとここぞの場面での貴重な一打でチームの日本一に貢献するなど、日替わりでヒーローが生まれた点も良いポイントだった。

 このように2009年の巨人軍は、投手野手共に、若手、中堅、ベテラン、外国人とそれぞれが与えられた役割をしっかりこなし、故障者が出てもすぐに新たなニューヒーローが出てきてカバーし合い、短期決戦でもシリーズ男が生まれるなど、まさに"ONE TEAM"としてバランスの取れた理想のチームだったと言える。


4.2020年巨人軍との照らし合わせ

 これまで振り返ってきた2009年の巨人軍は、2020年の巨人軍が目指すべきチーム像に近いと感じる。

 先発陣は、先発・中継ぎと両方こなせた山口の抜けた穴が大きいが、エース菅野智之が本来の実力を出し、新外国人のサンチェスが2桁勝てるようならカバーは出来そう。また、同じ育成出身のメルセデスはオビスポの3倍近い投球回数、5年目の桜井俊貴は東野以上の成績が当然求められ、高橋優貴戸郷翔征ら2年目コンビがジンクスを破れれば2009年以上のローテーションが出来上がる可能性だってある。若手の底上げがあれば9年目の今村信貴だってモタモタしていられないだろう。

 救援陣は、守護神デラロサへ繋ぐ7.8回を中川皓太澤村拓一で「新 風神・雷神コンビ」が組めると面白い。
 生え抜きではパワー系左腕の戸根千明、スクランブル登板にも対応出来る高木京介がおり、10年目宮國椋丞、9年目田原誠次、4年目池田駿らも焦っていないわけが無い。
移籍組でも昨季復活を遂げた大竹寛を刺激に野上亮磨には奮起してもらいたいし、鍵谷陽平は昨季同様、痺れる場面での登板も期待される。また、岩隈久志は生ける教材としてのみではなく、まだマウンドで投げて欲しいと切に願う。

 昨年、夏場の連投にロングリリーフもこなしフル回転だった田口麗斗は個人的に先発で見たいし、スペ体質な畠世周も、持った能力を見ると期待しない訳にはいかない。

 こうして投手陣を見ると、もはや2009年よりもチーム内競争のレベルは高いし、選手層も厚く感じる。

 続いて野手陣だが、こちらも2009年のチーム構成に似た部分が多い。
坂本勇人という大黒柱がドッシリ構え、丸佳浩パーラの移籍組が打線の土台となると、その上で若き4番岡本和真、スペ体質で首脳陣やファンをヤキモキさせているが怪我が無ければセカンドレギュラー最有力な吉川尚輝らを更に成長させる構図が浮かぶ。山下航汰は同じ育成出身の松本哲のように新人王を狙って欲しいし、亀井善行中島宏之らは谷の様な起用法が予想される。
 そしてチームの次世代を担うことが期待される「93年組」と呼ばれるメンバーも台頭が求められる。
 重信慎之介の脚力は足のスペシャリストになれるレベルだし、増田大輝の守備力は一軍でも通用しており、ユーティリティ性も兼ね備えているため、木村拓のような便利屋として重宝される。山本泰寛若林晃弘田中俊太らは脇谷の様なここぞでの一打や寺内崇幸の様な堅実さが身に付くとレギュラー争いも激化しそう。
 移籍組も負けていられない。陽岱鋼は今キャンプから一塁に挑戦しているが、その姿を見ると、同じ外野出身ながら一塁手としてもスタメンに名を連ねていた当時の亀井を思い出すと同時に、試合に出るために必死なのが伝わる。石川慎吾はここぞの場面での一打が増えており、スタメンでも使いたい打力があるが、レギュラー奪取には守備力向上が最重要課題になる。

 2009年と違う点として、捕手3人制が挙げられる。当時は阿部が正捕手を担い、2番手捕手として鶴岡一成や加藤健が控える という形だったが、今季は昨季同様、小林誠司炭谷銀仁朗大城卓三の3名が"併用"という形が敷かれそう。長いシーズンを戦う上で、疲労を分配できるという意味では得策だと思うし、実際昨季1年間この形を取ってみて、捕手の故障者は出なかったし、運用次第で十分戦えることが証明できた。

 投手・野手共に見て、今季の展望的な内容になった部分もあるが、基本的なチーム構成は似た部分が多く、その一方で相違点も何点か出てきた。

2009年と2020年の共通点】
① 大黒柱、土台となる選手が明確で、その上で成長させたい若手がいる という構図。
② 若手、中堅、ベテランのバランス
③ドラフトでの指名傾向(両年共に指名6名中5名が高卒選手)
④ 育成出身選手の台頭が期待できる
(09年 山口鉄、オビスポ、松本哲)
(20年 メルセデス、増田大輝、山下航汰)
⑤ 所属選手の多国籍性
2009年と2020年の相違点】
① 20年は外国人野手が支配下で新外国人パーラ1人のみと偏っており、投打で配置バランスが悪い。
② 20年は投打の軸に置く外国人選手が共に1年目のため、蓋を開けてみないと分からない部分が多い(サンチェス、パーラ)
③ 09年に比べて20年は若手の選手が多いため、同年代でのレギュラー争いが激化。↔ 仲良しこよしな雰囲気での練習にならないか懸念。
④ 捕手3人制
⑤ 外部コーチの招聘(20年 石井琢朗)


5.まとめ

 今回は、理想的な「チームバランスだった2009年読売巨人軍」というテーマで、今季の巨人軍との比較や、今季の巨人軍の目指すべきチーム像として09年との共通点や相違点を探してみた。
 チーム構成は似た部分が多いため、目指すべきチーム像としては間違っていないが、今季は若い選手や新外国人が多く、09年とは計算できる戦力の量には違いがある。いわゆる「駒はあるが未知数」といった側面がある事は念頭に置いておくべきだろう。
しかしそれは決してネガティブ要素だけではなく、未知数な駒を試せるだけの磐石な土台があるチームになったと捉えた方が良い。
 2010年からは徐々にアラフォーの土台が衰退していったが、今季はそうでは無い。みんなまだ若いしこれから脂が乗ってくる選手ばかりだ。

 これからキャンプを通して今季のチーム像が徐々に見えてくるだろう。
 圧倒的に強かった09年よりもレベルが高いチームになる要因は多いし、新たな黄金時代を築いて欲しいと切に願う。

 まとまりに欠け大変長くなりましたが、最後に2月4日の紅白戦で3安打2打点と結果を残したにも関わらず、翌日のスポーツ報知に掲載された「今季のポジション争い」の欄に名前が無かった立岡宗一郎の奮起を切に願い〆とさせていただきます。

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