箱の世界〜愛が導いた奇跡〜⑦

6th world 大切って何?


ガチャっと開かれたドアから入ってきたのは華鈴ちゃんと香澄くんだった。

「瑚々、大丈夫......ってその顔じゃあ大丈夫そうだね。あっ、それ先生からの手紙?受け取ったんだ。良かった。」

「えと......なんで2人はここにいるの?」

色々なことが重なりすぎてパニックになりそう。

「瑚々が倒れて、動かなくなっちゃったから騒ぎにならないうちに皆を落ち着かせようとしたら宮槻が先生のこと呼びに行ってくれたの。ね?」

そう華鈴ちゃんに言われて今まで何一つ口を開かなかった香澄くんが口を開いた。

『なんか、ただのことじゃないって思って......』

「で、瑚々早退しちゃったからお見舞いに行くっていったら着いていきたいっていうから一緒に......。」

「二人ともありがとう。心配してくれて......」

「夏月先生ね、宮槻の言葉聞いて、血相を変えて教室に飛び込んできたの。
瑚々のこと抱きかかえて、泣く子供に大丈夫って囁いてる親みたいな顔でゆっくり、慎重に保健室つれてっていったんだよ。」

まさか、好意を抱いていた人に意識のないうちに抱きかかえられてしまうなんて。

その時意識がなかったのを・・・その時発作が起こったことをこれほどまでに後悔したことはないくらい驚きより、ショックが大きかった。

皆に病気のこと言わないでくれた。夏月先生には感謝してもしきれないくらいの想いが込み上げた。

「ん、じゃあ私は帰るね。瑚々の元気になった顔見れたし、プリントとかはお母さんに渡しといたから」

『あっじゃあ俺も......』

あっ......。

っつ。言わ......なきゃ。

「あの、2人共、待って。

「どうしたの瑚々。」

帰ることを引き止めた私は緊張と不安で心臓の音がこれでもかというくらい頭に響いていて。

でも、もう言わなきゃ。

「あの、大事な......話が......あるの。」

途切れ途切れで喋る私を見て2人はベットに近づいてくれて華鈴ちゃんは手を握ってくれた。

「2人に話さなきゃいけないと思ってたことがあるの。聞いてくれる?」

「あ......うん」

良かった。先生にもさっき勇気もらったから言える。今なら。

「私が今日倒れたのは、多分というか。理由がハッキリとしていてね。......わたし、病気なの」

『へ......?びょうきって......』

声を出したのは香澄くんで、隣にいた華鈴ちゃんは・・・・何も感情が湧き出てこないような・・・。考えていることが分からなかった。

「うん。多分聞いた事ないと思うんだけど、感覚神経失感症っていう病気」

2人は、あの時と同じ・・夏月先生に話したときと同じ。聞いた事無いって顔をしていた。

『まって、調べる......』

「調べても出てこないと思うよ。珍しい病気なの。」

どうしても、華鈴ちゃんは顔を上げてくれない。私と目を合わせてはくれなかった。

病気の症状、酷くなったときに起こりうること、完治する可能性。

全部話した。もう嘘をついているのが辛くなったから。

話し終わるまで香澄くんは何も話さずにただ、どこか辛そうな目を部屋の床に落としていた。話し終わって「ごめんね。隠してて」とだけ追加で伝えると、

『それ、いつから......?』

少し震えた声で聞いてきたのは、いつもとは違うかなり動揺した香澄くんだった。

「転校して虹丘中に来たときには、もう・・・。なってた。かな。」

その言葉を聞いて、華鈴ちゃんは踵を返し、部屋から出て行った。

......。今の私には、友達を辞めないで。という資格は無いんだ・・・。

あっやばい......なんか涙出てきた......。

『瑚々ちゃん......。』

私の名前を呼んだ香澄くんの声は、これでもかと言うくらい弱弱しくて。

もう、香澄くんも......、クラスの皆とも......。

あれ......。なんで、こんなこと思ってるんだろ。

お友達(仮)なのに。

香澄くんは、まだ、こんなに・・・嘘をついていた私のこと......。

そう思って下を向いていた顔を香澄くんのほうに向けた。

でも、無理だった。

香澄くんを見た途端、我慢していた苦しみと悲しみが溢れ出して、涙が......。

「っ......。だからね、もう香澄くんが......好きっ......て言ってくれ......た私じゃ......

『もう黙って』

その言葉と同時に口に柔らかいものが触れた。

最後まで言いたかった言葉は香澄くんによってかき消された。

香澄くんの唇によって......。

『あのね、君が何を言いたいのか分かりきってはいないけど俺は今でも君のことが好きだよ』

離れた口から告げられた言葉と今自分に何が起こったのか分からなくてフリーズしていると、目の前で手を上下に振られた。

『あっ生きてた。ごめんね。こんなことして』

『こんなこと......って』

『あっ、えっと今僕が君にしたこと分かるよね?キスしたの。分かる?』

............えっ  んっ?

「き......きすって......。」

『うん。あまりにも酷いこと言われたから口塞ごうかと......』

さらっとファーストキス奪われたような......。

『......今は発作おこってないでしょ?だから耳聞こえるよね?』

耳に手を添えた仕草をしながらきいてきたことよりまだ、現実を理解しきっていなくて......。

「うん。っていうか、ファーストキスだったんだけど!」

少し怒ってるって思わせたほうがと思ったけどその作戦はすぐに崩れ落ちた。

『えっ?俺もだけど......?』

へ......?だって香澄くんモテるんじゃ......

普通なら、お互いが好き同士でお互いにファーストキスとか喜ぶのだろうけど、私の心は驚きの気持ちで支配されていた。

『俺ねファーストキスは自分から好きになった子とって決めてたの。だから今まで告られたことはあるけど、その子達のこと俺は好きじゃなかったから付き合ったりはしなかった。』

「だからって、......!!!」

『ふふっ。良かった。元気になった。』

「えっ......?」

なん......で笑ってるの?

『さっき言った通り、恋愛経験0なのね。俺。だから好きな子の慰め方分かんなくて。なんだっけ......あっそうだ。
確か、病気なこと隠してたから俺が好きだった君じゃない。だっけ?』

「違うの......?」

目の前で、はぁ......とため息をついて私のいるベットに座った香澄くんは本気そうな顔をしていた。

『今から言うことよくきいてね......』

『俺は、どんな瑚々ちゃんでも今も好きなの。』

「えっと、そ、それは現在進行形ってやつですか......?」

『うん。そう』

英語の授業でならった言葉。ing  をつけて使う現在進行形。始まってから終わるまでの間って意味だった気がする。

あまりにもすぐ答えが返ってきたので自分が何を言われているのか全く理解が追いつかない。

『すごく、好き。君のことこんなに大切に思ってるの分からない?』

真っ直ぐ嬉しいことを言ってくれてるはずなのに......。

なんでだろ......。素直に嬉しいって思えない。


「......ねぇ、大切って何?」

自分から冷たくしていた人をこれ以上相手を困らせてはいけないって分かっているのに。

こんな哲学みたいなこと聞いてもきっと分からないって返ってくるって分かっているのに。

咄嗟に聞いていた。

『大切......ね。これから言うのはあくまで俺個人の意見だけど、必ずなくちゃいけないもの......じゃなくて、あることで生きることが楽しかったり心の支えになるものやそういう人、感情を 大切って言うんだと俺は思う。』

驚いた。こんなことにすぐ答えられるなんて......。

開いた口が塞がらない。とは、まさしく今の私の状況を言うんだと思う。

『だからさ、君が......俺は、瑚々ちゃんが好き。大好き。俺と一緒に初めての恋愛経験してみない?』

まっすぐに思いを伝えてくれたのは2回目だな......。

図書室で告白してくれたとき、ホントは嬉しかった。

私も、皆と同じように恋とかしてもいいのかもって思えたから。

病気のせいで、家族関係が変化して両親が過保護になって、たくさん一緒にいてくれるから孤独なはずがないのに......、孤独だった。

誰も、私に楽しいことを教えてはくれなかったから。

でも、今の告白は前とは違う。

そして、前の私とも違う。

「............った。」

『え?』

「香澄くんにファーストキス奪われて一瞬でもときめいちゃった。だから、い、いえす......で。」

『ホントに?本気で言ってるの?』

さっきとはまた別の焦ってる顔・・・。なんか少し可愛く見えてきた。

「......ウソって言ったらどうなる?」

『泣くっ!』

「ぷっ!あはは......www」

『あ......っつ。笑わないで.....(  ・᷄-・᷅ )』

うわぁ......。なにその顔。......めちゃくちゃ可愛い。

ほっぺた膨らませて、不満そうにこっち見てくるの勘弁して欲しい。

『あのさ、もう一回聞いていい?』

「なにを......?」

「......wwwなにをってwww鈍感な瑚々ちゃんも好き。どんな瑚々ちゃんでも好きだよ。大好き。

                     だから、......俺と付き合ってください」

図書室で告白されたときとは違う希望に満ち溢れたような笑顔で、でも、目には涙を浮かべていて。それは、私の大好きな笑顔だった。香澄くんは本気で言ってるってことが見ただけで分かる。

でも、何回好きって言われても心がないと申し訳ないと思っていた気持ちは私の中にはもうすっかりなくて、毎回毎回、違う言葉で、違う顔で、言われた後に違う気持ちを感じさせてくれる香澄くんの好きは私の心にしっかりきれいなメロディーを奏でていた。

もう、香澄くんに......。自分の気持ちに蓋をしなくていいこと。きちんと分かった。

だから、今、私があなたに伝える言葉、ちゃんと分かる。

「どんなわたしでも受け止めて好きって言ってくれる香澄くんのこと大好きで大好きで仕方ないくらい大好き。」

泣いた後だから、目の周りとか真っ赤だろうけど精一杯の笑顔で

「香澄くん、私と、付き合ってください」

『喜んで!!』

ベットの上でで向き合っていた私達は、その拍子にお互いが望んでギュッとハグをしたあと、さっきの不意打ちキスより短いけど、お互いがお互いを愛した気持ちが込もっているキスをした。
                                                                             次回へ続く