箱の世界〜愛が導いた奇跡〜⑤

4th world  崩れる日常と心の春

次に目を開けた時は朝だった。
私......話聞いたあと寝ちゃったんだ......。
でもなんだか昨日より調子がいい。体が軽い。
んー。と背伸びをして1階に降りるとお母さんと鉢合わせた。
「おはよう。お母さん」
「おはよう瑚々。急なんだけど今日学校を休んで病院に行かない?」
「え?私元気だよ?」
「昨日、起きてる時に発作が起こって、瑚々にも病気のことを話したでしょう?これ以上、お母さんたちの口から話すより診断してくれたお医者様から聞いた方がいいと思うのよ。」
たしかに、お母さんの言う通りだけど、私には1つ引っかかることがあった。
「お母さん、起きてる時ってどう言うこと?」
「あ、あのね。今までも発作は起きていたはずなのよ。ただそれは寝てるときで、ほら寝てるときって視覚とかはつかわないじゃない?だから害がなかったのよ。」
だからと言っても寝てる時って......なんか怖い。
「わかった。今日は病院に行く。」
パジャマから着替えるために1度部屋に戻り、着替え終わった頃にお母さんがノックをして部屋に入ってきた。
「瑚々、終わったならもう行くわよ。病院、少し遠いの。」
その声は少し焦っているように感じたので、私はすぐに支度をして家を出た。

「松森さーーん!」
病院について、少し待った後、看護師さんから呼ばれてお母さんと一緒に少し大きめの診察室に入った。
ファイルがたくさん詰まった棚があったり、嗅ぎなれないくらいの消毒の香りがした。
慣れない光景にあちこちみていると、後ろから声をかけられた。
声をかけてきたのは白衣を着た30代くらいの若い男性。
『松森 瑚々ちゃんだね?』と聞かれたので、わたしはすぐ「はい」と答えた。
『私はこれから瑚々ちゃんを担当する星城(せいじょう)です。好きに呼んでいいからね。』
そう言って微笑んだ顔がどことなく夏月先生に似ていて、少しドキッとした。

『さっそくだけど、瑚々ちゃんの病気について説明するけど大丈夫??』
「はい。」
とても砕けた感じで話しかけてくれる星城先生はお医者さんという私の中のイメージとはかけ離れていたけれど、目の前でカタカタとパソコンを使っている横顔は間違いなくお医者さんだった。
『瑚々ちゃんの病気は、後天性感覚神経失感症(こうてんせいかんかくしんけいしっかんしょう)という病気で、先天性で患う人はいるんだけど瑚々ちゃんくらい大きくなってから患う人は5000万人に1人くらいですごく珍しい病気なんだ。主に症状は視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の感覚神経が少しの間働かなくなってそのせいで感じなくなるというのが症状。』
お母さん達から聞いていたことを改めて説明されているだけだから理解はできた。
『で、ここからが多分初耳だと思うんだけど、今言った症状が抑制できる薬があるんだけど瑚々ちゃんくらい大きくなってしまうと量が多くなって副作用がでてきてしまう可能性があるんだ。もちろん、そのことを踏まえて副作用を抑える薬も飲まないといけなくなる。』
「ようするに、薬をたくさん飲まないと行けなくなるということですか?」
今まで後ろにいたお母さんが初めて口を開いた。
『はい。そういうことになります。ですが、定期的に診察に通っていただければ少しの変化も見落とさず徐々に薬を減らしていけると思います。』
私の後ろで真剣に話を聞くお母さんを見て病気ということを改めて自分のなかで感じた気がした。
説明をし終わってパソコンを打ちにくるっと向きを変えた星城先生は『これから一緒に頑張ろうね』と私に微笑んでくれた。
やっぱりその顔は正面から見ても夏月先生に似ていた。そのあと薬をもらって私は家に帰った。

次の日になって私は薬を飲んでから学校に行った。
華鈴ちゃんには病気のことを言わないと決めて代わりにいちばん話すべきだと思ったことを話すことにした。
「瑚々〜!!おはよう!もう大丈夫なの??」
お母さんが体調不良と伝えてくれたおかげで余計な心配はかけずに華鈴ちゃんが安心しきった顔で近づいてきてくれた。
「うん。もう大丈夫だよ。あ、華鈴ちゃん。話したいことがあるの。ちょっと一緒に来てくれない?」
「うん。わかった。」
華鈴ちゃんは呼んだ時の声色で察してくれたような気がしたけど、ごめん。まだ言えないんだ。という罪悪感に心を囚われた。
「あの......恋バナなんだけど......」
「瑚々が!!?誰!どこの!だれ!」目の前の華鈴ちゃんは少しワクワクしているように見えて私も話す口が止まらなくなった。
「あのね、夏月先生なんだけど......」
「やっぱりかぁぁぁぁー」
え?
「華鈴ちゃん。やっぱりって??」
「んー?ずっと分かってたよ。瑚々めちゃくちゃ顔に出てたもん。」
バレてたんだ......。
「それで?告白するの?」
目をキラキラさせて明らかに楽しんでるように見える華鈴ちゃんがすごく可愛く見えた。でも......
「告白!?相手、先生だけど!?」
「先生だから!するんじゃん!え、まさかしないの。あと少ししか一緒に過ごせる時間ないよ?」
「わ、わかってるけど......」
「恋に自覚したならあとはアタックしなきゃ!応援するよ!」
いつになく華鈴ちゃんは私のことを応援してくれて少し前向きな気持ちになった。

「みんな、おはよー!HR始めるから席に戻ってぇー!」
私たちが教室に戻ってすぐ、夏月先生がきた。
『あ、松森さん、きてる!おはよう。もう大丈夫なの?』
「はい。大丈夫です。」
『よかったぁぁぁー』
あぁー!今日もカッコよすぎ!!
ひとり悶える私をおいて夏月先生は教卓の前に行き出席簿をてにした。
『じゃあ、出席とりまーす。』
そう言って一人一人名前を呼んでいく姿すらも私にはすごくかっこよく見えた。
『松森さん』
「は、はいっ!」
『wwwどうしたの??』
「あ、い、いえ。なんでもないです笑」
わぁぁぁぁー!今まで私どうやって名前呼ばれるのに耐えてたんだっけ!?
名前呼ばれるのさえドキドキしてしまう私は、恋したら盲目なタイプなのかもしれない。
『じゃあ、最後に今日の予定です。えっと、今日は避難訓練があります。災害用アラームが校内に鳴り響くようなので、鳴っても慌てず落ち着いて行動してください。では、HRを終わります。』
先生の一言で学級委員が挨拶をしみんないっせいに1時間目の授業準備にうつっていったが、私は1人沈んだ気持ちだった。

「華鈴ちゃーん(泣)」
「どうしたの、瑚々。」
「私、あの、災害用アラーム怖いから嫌いなんだけど......いつなるか分からないんだよね(泣)」
「あー。あれ、急に鳴る割には音大きくてビビるよね。大丈夫だよ。私と一緒に行動しよ。」
「うぅー。ありがとう華鈴ちゃん。」
それから私たちはいつ来るか分からない避難指示放送に気を取られることなく授業を受けていった。
そして、いまは3時間目が終わったところ。
次は理科で制服からジャージに着替えなければならず華鈴ちゃんと一緒に更衣室に来た。
「あ、華鈴ちゃん、私お手洗い行ってくるから先に教室に行ってて。」
「わかった。時間ないからなるべく早くね。」
華鈴ちゃんにそういいお手洗いに向かい着いたそのとき。
「「ジリリリリリリリリーーーーー!!」」
避難指示を意味する音が校内に鳴り響いた。
「え、え、なんで......いま。」
こ、怖い......やだ。動けない。
全身に鳥肌が立ち足が震え始めた。
そ、そうだ......ひ、避難......。私は必死に進もうとしたけど震える足は思うように動いてはくれない。

そしてとうとう私は廊下の真ん中でしゃがみこみ目の前がだんだん真っ暗になっていきそのまま意識を手放した。

......ここ。どこ??
目を開けると、私は見慣れた保健室のベットにいた。
近くにあった時計を見ると、いまはもう昼休みになっていた。
私かなり寝てたんだなぁ......。
はぁ。とため息をつきベットを降りると保健室内の椅子に夏月先生が座って眠っていた。
「え!?先生!?」
『ん?あっ......』
私を見て目をゴシゴシする先生はまだ眠たそうだったけど
私はそんな夏月先生が見れて少し嬉しくなった。
『まつも..................??』
え??
「先生、今なんて......?」
目の前で口をパクパクしているからきっと喋っているはずなのに、私の耳には言葉が届かなかった。
そのとき、私の脳内には病院で星城先生から言われた病気の症状が思い出された。
急に怖くなった。
......なんで......薬飲んだのに。
今飲んでるのは抑制剤......発作を引き起こさないとは限らない。
わたしがあたふたしていたのを見て夏月先生が近くの椅子に座らせてくれた。
「だ......い??まつも......ん??」
変わらず口は動いているけど私の耳には所々しか届かない。
すると、夏月先生は優しく私の背中をさすってくれた。
パニックになって発作を起こしたんだろうから必死に自分の気持ちを整理したかった。
でも無理だった。
好きになってしまったから。
落ち着かせるより、ふいに向けられた優しさを感じて嬉しいが勝ってしまって口元が緩んだ。
私は安心しきって涙を流してしまっていて、それを見た夏月先生は一瞬戸惑った表情をしたけど、すぐに微笑んで私の背中をさすり続けてくれた。

そして、私は目の前の机に体を預けて意識を手放した。
目が覚めると私はベットにいた。
保健室には落ち着いた音楽が流れていて音が聴こえることに私は安心していた。
そこに夏月先生はいなかったけど、不思議とさっきとは見違えるくらい調子が良かった。
教室に戻ろうと、私はベットから降りドアに向かった。
すると、起きている時にはなかった1枚の紙が机の上にあった。
すぐに開いて私は誰の字なのかを理解した。
『『調子が良くないまま起きてしまったのか、また寝てしまったので、ベットに運んでしまいました。そこは許してね。調子が良くなってからでいいから、教室に戻っておいで。  東條  夏月』』

さっき起きたのは昼休みで、今の時刻は6時間目の始まる少し前。
調子もよく、休み時間中だったため、私は手紙をたたみ教室へともどった。

                                                                                       次回へ続く