箱の世界〜愛が導いた奇跡〜⑥

5th world 神様はすぐそこに

避難訓練で4校時目がほとんど無くなってそのまま給食だったらしいけどずっと保健室にいた私には恐怖と授業に出れなかった罪悪感しか残っていなかった。
学校が終わって私は部活に行かずに家に帰った。きっと、お母さんに連絡がいってるはずだから、早く大丈夫な姿をみせないと。と思って。
「ただいま。」
「おかえり。って瑚々、部活は?もしかして調子悪いの?」意外にも、お母さんに連絡はいっていなかった。今日のことを話そうか迷ったけど酷く心配するだろうから「大丈夫」とだけ言って部屋に続く階段を上った。
部屋に入ったときにはある決意を固めていた。
夏月先生に病気のことを話すこと。きっと不自然に思ったと思う。
起きたと思った生徒が目の前で急に眠ったから。明日、ううん、今日のうちに華鈴ちゃんには話しておこう。お母さんより心配させてるはずだから。
そう思って私はすぐに華鈴ちゃんとのトーク画面を開いた。一緒に訓練できなかったことを謝ると思ってもいなかった返答が返ってきた。
「「宮槻も心配してたよ」」
と言われ、なんで香澄くんが倒れたことを知ってるの?と返した。今日の避難訓練のとき廊下で気を失っていた私を見つけて先生を呼んでくれたのは香澄くんだった。
「すっごい焦ってたよ。人数が1人足りなくてその人をすぐ瑚々だって気づいて探しにいったんだから」
そうだったんだ。てっきり先生が......。でも・・・香澄くんにはお礼は言うけど病気のことはまだ言わないでおくことにした。
次の日になって、私はHRが終わってすぐ、夏月先生に昼休み話したいことがある。と言って話す約束をした。
朝、薬を飲んだことを薬メモに書き記していると隣から視線を感じた。
ふっと隣をみると香澄くんと目があった。
『それ何書いてるの?』と薬メモを指差しながら聞いてきたのでまだ病気のこと言ってない香澄くんには、今日の一日の予定を確認していた。と伝えた。でも、嘘をついてしまったことの罪悪感はいつまでも残って不思議な感覚。 

昼休みになって、先生と約束していた数学準備室に行った。先生は『どうしたの?話したいことがあるなんて』と聞いてきた。
私は、人に初めて話すことから緊張と恐怖心を抱いていた。「先生、私 感覚神経失感症という病気なんです。」
唐突に病名を話しちゃったけど先生には気を楽にして話せている気がした。
病名を聞いた先生は、聞いたことないという顔をしていたけど私は話し続けた。
「この前の避難訓練の日に私は気がついたら保健室にいました。先生は話しかけてくれたけど、実はあの時病気の発作が起こっていて私は先生の言っている言葉が聞こえませんでした。私の病気は五感が感じにくくなる病気です」
人に病気のことを告げることにこんなに緊張するなんて思わなかった。
話しているときは目の前に好きな人がいることを忘れて誤解させないように話すことに必死で......。
先生は、『言いづらいことなのに話してくれてありがとう』と優しく微笑んでくれた。
数学準備室から出ようとしたとき、話すことが出来たことからか足が震えて歩けなくなった。
『無理しなくていいよ。僕もまだここにいるから少し休んでいって』
「はい」
その後、私は昼休みが終わるまで数学準備室にいた。教室に戻る廊下を歩きながら私は次の定期通院の日に人に言ったんだってことを星城先生に話そうと思った。人に説明すると自分の病気を認めたみたい......。
『そっか。でも良かったね。言いたいと思った人に言えたのは進歩だと思うよ。』
定期通院の日に言おうと決めていたことを全部話して星城先生から言われた言葉。
『進歩できたってことは、治療も切り替えて治していく方向でいいのかな?』
今までは発作を抑制することを目的としていたけど......もう私の中に迷いというものはなく、先生の目をみて「はい」と返事をした。 
今日は5回目の定期通院で前から受けていた全部の検査結果が分かる日。
『検査結果だけど、特に異常は無かったよ。頑張って薬飲んでるからかもね。』
その言葉を聞いてホッとした。異常があったら入院とかになっちゃうと聞いていたから。
でも、検査に異常が見られなかったからって治ったわけじゃない。そう思って学校で発作みたいなものを感じたことをほし先生に説明した。
『なるほどね。聴覚の部分に発作がでた......か。』
「しっ、しばらくしたら治ったんですけど怖くなって......。」
今でも夏月先生が話していることが聞こえなかったあのときを思い出すと不安になる。
『大丈夫。発作は確かに何時ごろ起こるとは決まってないけど抑制することはできる。 だから、今瑚々ちゃんは僕の声が聞こえるし顔も見えてる、この診察室のいかにも病院っぽい消毒液の匂いだって感じられてるでしょ?』
言われたことが全部分かることに対しての安心感が不安を消し去っていった。
『治す方向に切り替えるからってこれまでの事が特別変わるってわけではないから、普通よりも体調管理に気をつけてストレスだったりを溜め込みすぎないこと......ね。』
「はい。」
『ん。じゃあ今日の診察は終わり。薬もらってかえってね』「ありがとうございました。失礼します。」
先生に挨拶をしていつも通り薬を受け取りにいった。

香澄side 

瑚々ちゃん、、何か最近元気なさそう。隣でノートと黒板を交互に見ている顔は傍から見たら普通通りに見えるだろう。でも、なんか表情が曇っている気が・・・・いや、もしかしたら本当に勘違いの考え過ぎかもしれない。1度告白して断られてはいるが、その後も好きでい続ける許可はもらった。今度は完全に振り向かせて告白に「はい」と言わせる......!
「「じゃあ、ここを宮槻読んでくれ」」
突然と先生から名前を呼ばれて今が授業中だと思い出す。『えっ、あ。えっと......』
やばい、聞いてなかった。違うことに集中しすぎた。
『すみません。どこか分かりません。』
「「珍しいな、おまえが話を聞いてないなんて・・・。まあ今日はいい。松森、宮槻に教えてやってくれ。」」
はい。という細いのに聞く側を和ませるような声で俺に読むべき場所を教えてくる俺の天使。もうこのまま1年間席替えなんてしなくていいと思う。席替えなんてしたら確実に連続で隣の席になるなんてあり得ない。
「宮槻くん、大丈夫......?」
可愛い小動物のような顔でこちらを覗くので『何が?』と答えようとしたら「「宮槻、、、早く読んでくれ。」」若干怒り気味の声が黒板付近から聞こえてきたので、我に返り指定されたとこを読んだ。
いつもはあんまり当てられないのに......。と授業が終わってから思うと、隣から少し賑やかな声が聞こえてきた。
そっか、今日弁当日だった。早く準備しよう。
気づけば昼ごはん、そして次に気づいた時は清掃の時間なんてことが最近増えた。
きっと理由は、隣の天然小動物が可愛すぎるから。ノートに黒板の内容をまとめているところもペアで英語の音読練習をしているところも。何してても俺を和ませてくれる。もう後戻りはできない気がする。こんなに心をかき乱されて心臓はあり得ないほど狂いの音をあげていて。
後戻りできないほど彼女に心を奪われた。愛しすぎる存在に今日も微笑み続ける。   
                                                                                   香澄sideFin                                                                                

あれ・・・?箸が、ない。今日は半年に一度のお弁当日・・なのに・・・・。
「瑚々っ!一緒に食べよ!」
「華鈴ちゃん・・」
「どしたの。瑚々。何があったら可愛い顔がそんな落ち込んだ顔になるの・・?」
「は、箸忘れちゃって」
「なんだ。良かった重大なことじゃなくて。だったら借りに行こう。職員室でお弁当の日だけ貸し出してるから」
「えっ?ほんと?」
「うん。私も1年のとき忘れちゃって借りたことあるよ」
安心した。お母さんが今日は好きなもの入れたって言ってたからお弁当が楽しみだった。
「夏月先生いるはずだから、呼べば言えるでしょ?私も行くから。」
「ありがとう。」
「じゃあ、早く行こう。時間なくなっちゃう。」
華鈴ちゃんと早足で職員室へと向かった。
職員室が見えてきたとき、予想もしてないことが起こった。「あの、すみません。ここの生徒さんですよね?」
後ろから声を掛けてきたその人は、いかにも清楚という言葉が似合う二十歳くらいの女性だった。
「そうですけど。」
「よかった~!職員室ってどこにありますか?」
「あっ、えと私達も今から行くのでついて来てもらって良いですか?」
「ありがとう!そうしてくれると助かるっ!」
とても美人なその人は安心したような表情をしていた。
微笑んだその人が夏月先生に似ていたなんて思いたくなかったけど......。
「ここです。」
「ありがとう。じゃあ先に用済ませちゃっていいよ?」「あ、はい。」
失礼します。と言って入ったけど何回来ても、すごく広いな。職員室。夏月先生に用件を伝えて箸を借りることができたからすごく安心した。
「あれ......?先生お昼ご飯は?」
何も持ってないから聞いてしまった。
『ああ、忘れちゃって。今からコンビニに走ろうかと。』「あっ、じゃあ先に食べてても良いですか?」
『うん。学級委員に伝えてくれると助かる』
「はい。分かりました」
『ありがとう。すぐ行くから』
そう言って職員室を出て行こうとした夏月先生が入り口で『は・・?』と声をあげた。

「あっ!なづくん。良かった。会えて」
『お前、なんでここに......』
用が済んだ私は職員室をあとにしようと夏月先生をよけて出ようとした。次の会話を聞くまでは・・・。
「なんでって、なづくんが家にお弁当忘れてたから届けにきた」
『マジで!? はぁ~良かった。ありがとう。しづ。』
えっ?まって今なんて・・・・。
聞かなかったことにして立ち去りたかったけど足が上手く動かない。
「ううん。なづくん困ってるかもって思ったし今日大学、建設記念日で休みだったから」
その女性は私にとってのとどめを刺すようなことを口にして先生にお弁当を渡して立ち去っていった。
「瑚......々、落ち着いて、教室、行こう。大丈夫。あとで私が聞いとく。」
華鈴ちゃんが優しくそう言ってくれてなかったら、あの場を立ち去ることなんてできなかった。だって、あの時の先生、すごく笑ってた。 
教室に戻って華鈴ちゃんとお弁当を食べたけど、好きなおかずの味もよく分からなかった。
きっとこれは発作じゃない。
心が動揺を隠し切れずにいるんだ。
あんなことがあったから、午後の授業は受けられそうも無くて私は保健室にいた。
5時間目、先生の道徳だったけど、今先生の顔は見たくない。だんだん、さっきのことを思い出してきちゃって私は自分を抑えようと眠りに着いた。

次に目を開けたのは眠ってから1時間たった頃だった。もう5時間目は終わっていたので私は教室に戻ろうと保健の先生に伝え教室へ戻った。正直、もう家に帰りたい気分だけど。教室に戻ってすぐ、華鈴ちゃんが近くに来てくれた。「瑚々、もう大丈夫。あの人彼女じゃない!」
「えっ......?」
彼女じゃない......?だって2人共すっごく笑ってたし、それに、なづくんって......。しづ......っ。って。
「瑚々が保健室行ってから、先生に探りいれたの。それでね、あの人は先生の6つ下の妹!」
「いもうとさん......。」
「そう。あの女性の名前は、東條 紫月さん(とうじょう しづき)。先生の6つ下だけど婚約者がいる大学生って先生言ってた......」
その言葉を聞いて、悩んでいたこと全部無くなって体が軽くなった気がした。
「これで、彼女かもしれない問題は解決!後残り少ない夏月先生と過ごせる時間を安心して過ごせるね。」
「うん。ありがとう聞いてくれて」
「いえいえ、可愛い瑚々の為なら、お礼なんていらないよ」華鈴ちゃんもここまでしてくれるんだから、あとは私が勇気を出して伝えなきゃ
「華鈴ちゃん、私頑張る。」
「うん。あと3日しかないもんね。頑張れ!」

夏月先生と過ごせる日がカウントダウンされ始まった次の日の朝。私はいつもと変わらないように過ごしているように思われているが毎日伝え方について悩んでしかいなかった。『松森さん......瑚々ちゃん。』
「へ?」
『ボーッとしてたの??次、君の番。ここの英文』
ああ、そうだった。今ペア音読の時間だった。
「うん。ありがとう」
だんだん頭が狂いそうなほど夏月先生しか考えられなくなりそう......だけど、授業はちゃんと受けよう。
悩んでたって仕方ない。今の自分の気持ちを伝えよう。
英語の授業や苦手な体育の授業を一生懸命取り組んでとにかく全力でその日の授業を終えた。
あと2日。そう考えて家のベットで意識を手放した。
次の日の朝になると、なぜか具合が悪かった。身体が何か自分より重いものによってベットにおしつけられているような感覚で激しい倦怠感と熱も微熱だけどあるみたい私は人より体調には気をつけなければいけない。
はやくお母さんに言わなきゃ。そう思っていても、身体が素直に動くわけも無く・・・・無事に階段を下りてお母さんに話すことが出来たのは起きてから30分が経ったときだった。
お母さんに言ってからの物事の進むスピードは付いていけなくなるくらい速くて。
テレビ電話で担当医であるほし先生の診察を受けて、熱が下がるまで睡眠をとった。

ん。あれ......?
ここ、保健室じゃない。あ......、そっか。私、体調崩して......。
あと、2日だったのに・・明日で最後になっちゃう。
体が普通じゃない自分が情けなくて、なんだか涙が出てきた。
なんとか、目から零さないように上を向いて嗚咽を漏らしながら泣いていた時、お母さんが部屋に入ってきた。泣いてたから、お母さんが「苦しいの!?」とか焦ってたけど「大丈夫だよ」と言ってゼリーを食べた後薬を飲んで、ラスト2日に迫った1日に幕を下ろした。
次の日の朝。今日で、先生が来なくなっちゃう。と思うと学校へ行く足取りが重く感じる。
でも1週間後には終業式で冬休みが始まる。
今日の放課後、伝えるんだ。先生に。笑顔でさよならしよう。
学校へ着くと華鈴ちゃんが目をキラキラさせて近寄ってきた。
「あのね、夏月先生今日で最後だから後ろの黒板にメッセージ描こうってことになったの」
「あっじゃあ私も描く!描いてもいい!?」
「もちろん!ビックリさせよ!さ、じゃあ急ごっか。先生来ちゃう!」
急いでバックの中の物を机にしまって後ろの黒板に手を伸ばした。

その時、感じたことの無い痛みが首から頭にかけてを襲った。

っつ・・・。
立っていられなくなって、チョークと一緒に床に倒れてそのまま私は周りが分からなくなった。
周りが......暗い。ここ、どこ?寒い......。誰か......助けて......。

目を覚ましたところは保健室ではなく家のベットだった。
あれ......?明るい......。何が起こったか分からずにしどろもどろしているとちょうど部屋にお母さんが入ってきた。
「瑚々っ。もう大丈夫なの!?」
「お母さん......なんで私ここにいるの......?」
「あなたの担任の東條先生から呼び出されたの。倒れたって......。」
慌てて時間を確認したけど夜の7時をまわっていて、もう先生に会えないことを確信した。
「っつ......ふっ......なづきせんせい......」
次から次へと目から涙が零れ落ちてくる。
悔しい......。
その様子を見ていたお母さんが私のスマホを探して「ちょっと借りるわね」と言いながらいじって「ねぇ......。」と言ってきた。
「その、東條先生今日で来なくなっちゃうのよね......?」
現実を突きつけられてまた、悲しくなった。
「瑚々を迎えに行った時ね、こんなものもらったのよ。」
そう言ったお母さんから渡されたのは私のスマホと1つの手紙。
それ、あなたにって東條先生からの手紙とこれには......といって私のスマホの画面を明るくした。そこには、3分ほどの録音されたメッセージが記録されていた。
「電話で呼び出されたときに、瑚々の病気のことは知っています。って言われて、近くにあなたのスマホがあればもってきてほしいってお願いされたの。」
「えっ......?」 
「もちろん驚いたわ。でも伝えたいことがあるって言ってたから・・ごめんね勝手なことして」
ロックかけてなかったことにとても安心したし嬉しくなった。
「学校に行ってからお母さんのスマホとそのときだけ連絡先交換して送られてきたのがこのメッセージ。
「「私は医者じゃないから心配してそばにいることしかできなかったので、せめてその録音したのを瑚々さんのスマホに送っておいてもらえませんか」」って言われたの。
その言葉を聞いて、きっと瑚々にとって大切な先生だったんだなって思ったの。
いい?保存した?もうあの先生から送られてきたのは消すわよ?」
優しい口調で語られた全てが嬉しくて仕方なかった。
お母さんの言葉に返事をして、私の心にあった不安や寂しさ、悔しい気持ちは消えていくのを感じた。
イヤホンを取り出してメッセージから聴くことにした。


「「あっ。あー。これ録られてるのか?......まあいいか。」」  
先生らしいところも録音されてておもわず笑っちゃった。 

 「「松森さん、聞こえてますか?これを聞いてるって事は元気になったって思っていいってことだね。良かった。さすがに焦りました。 
 俺は、松森さんの病気を知っていたので2つの方法でメッセージを残そうと思います。
2週間という長いようで短い期間を一緒の教室で過ごしてきたけど毎日が楽しくて気づいたら今日、最終日になっていました。(笑)
松森さんから話したいことがあるって言われて先生は君の病気を知りました。馴染みの無い病名で、きっと言ってくれるのに勇気をつかってくれたんだと思う。
ありがとう。話してくれて。
そして、2週間本当にありがとう。これからも機会があったら学校に行くかもなので見かけたら話しかけてくれると嬉しいです。じゃあ、また。バイバイ。」」    
先生の気遣いが嬉しかった。
嬉しくて仕方ない。途中から泣いたまま聞いてたらしくほっぺが濡れていた。
伝えたかった気持ち、先生分かってる。絶対。
でも、もう大丈夫。気づいたから。私が、ホントに好きなのは......。
私を、暗闇から連れ出してくれた・・・君。
ふふ。っと笑ってイヤホンを取るとお母さんがニコッと笑って「それと......」と言いながら立ち上がった。
お母さんの言葉に耳を傾けていたら予想もしていなかったことをお母さんが口にした。
「ホントはどうしようか迷ったんだけど、瑚々、今元気......よね?」
「......? うん。だいぶ・・というか、すっかり元気だよ」
その返事を聞いたお母さんが微笑み、ガチャっと部屋の扉を開けた。
「あなたにお客さんが来てるの。」

                                                                                次回へ続く