箱の世界〜愛が導いた奇跡〜⑪

10th world  願い続けて縮む距離

私には、意識がなかったときの記憶がうっすらと残ってる。
毎日、隣にいてくれた女性。これはきっとお母さん。
お医者さんっぽい人もいた。
それと、どんな人だったかは思い出せないけど、毎日ではなくてたまに、病室に来ては私の手をずっと握ってくれてた人。
でも、その人のことは起きてからは思い出せない。
その代わりに、クラスメイトの宮槻くんという子が週に1度会いにきてくれて、学校のお便りを持ってきてくれる。
華鈴ちゃんという仲良しの子もいて、今は病気が辛くない。
大好きなアーティストさんもできた。
病室でその人達の曲を聴いたり投稿してる動画をみたりして気づいたら好きになってて......。
今も、発作がないとは言えないけど、だいぶいい調子だとお医者さんから聞いている。
学校に行けるくらい回復はしてないから院内学校に週に3回行って少しずつ取り戻そうとしてる。
高校も、私立のほうが良いってお母さんと話し合って決めて私立を受験するつもり。
発作が起きなければ普通の子と同じなのに病気は意地悪だからここぞというときに発作が起きてしまう。
でも、発作の対処法とかも急に視覚に起きない限り、慣れてきて自分で分かったり周りの人に説明できるくらいにはなった。
我ながらすごいと思う。
毎日検査もあるし、体力を使わない検査なんてないけど、さっき言った好きなアーティストさんの曲とか聞いたり見たりしてると発作が起きてないことへの安心感が大きくなってく。
だから、辛くはない。むしろ、生きていられて発作が起きなくて好きなものもあってすごく幸せだと感じることが増えた。もう少ししたら心から幸せって言う感情に出会ってみたい。とか夢見たりしてて......。
早く現れないかなぁ~。私の王子様......。
どれだけ少女マンガ脳なんだろう。と自分でも思った。
異性のことを「「王子様」」と呼ぶ日がくるなんて。


毎日好きなことを病院のベットの上でしていたときから色とりどりの四季が5回過ぎた。
今、私は看護師になるための学校に通う19歳。
まだ病気は治ってないし、完治する可能性もあがってはいない。でも、中学校を卒業
してから、1度も入院をしていない。
こんなにあっという間に5回ずつ季節が終わっていってしまうなんて不思議だな~って、まだ夢見る世界に住んでる。   ......とでも言うと思った?
実は3ヶ月前に少し進展......というか新しい気持ち......?みたいなことがあって......。

3ヶ月前の日曜日......
退院してから私立の女子高に通っていた私には世間一般的に言う「出会い」というのが全くなくて、定期的に行く検査診察のときに見かけるちょっと上くらいの男の人で気になっていた人はいたけど、この前彼女らしき人と院内を仲良く歩いているのを見かけて勝手に失恋。
失恋の傷を癒すのは看護学校の目の前にある動物カフェ。
看護学校に入学してからなにかあるたびにここに通う。
子猫や子犬など、割と生まれたばかりの小さな動物がいるこのカフェは犬と猫だけではなく、ハリネズミやウサギ、ハムスターにひよこ、レッサーパンダなど数えきれないくらいのミニアニマルがいて癒してくれる。
いつものようにカフェに通っていた私に後ろから名前を呼んで話しかけてきた男性がいた。
『松森......さん?』
「えっ?」
その日はハムスターに癒してもらおうと手に乗っけて満足感を感じていたときに話しかけられてビックリした。
でも、後ろには見たことある人がいて......。
「......もしかして、西丘......くん?」
『そう!良かった。覚えててくれて。』
「前にお見舞い来てくれたでしょ?忘れないよ。」
あの時は、隣に宮槻くんもいたし友達だって紹介されて知りあった。
『もう、元気なの?』
「うん。すっかり元気だよ。定期的に病院には行くけど、あれから入院とかはしてない!」
懐かしい人とこんなところで会えるなんて思ってもなかった。
「なんで、西丘くんはここにいるの?」
『苗字じゃなくて名前でいいよ。呼びにくいでしょ?』
「あっ。じゃあ、迅くんで。」
納得したような顔で隣に座った迅くんもここの常連さんなんだって。
「常連同士なのに今までなんで会わなかったんだろね。」
ふと思ったことを聞いてみたけど、
『俺は何回か見つけたことあったよ?松森さんが気づいてなかっただけじゃない?でも、気づかなくてもおかしくないかも。いつも楽しそうに動物たちと遊んでたから。』
そんなとこまで見てたのか......。ちょっと恥ずかしい。
『あっ、そういえば、これ......。』
そう言って迅くんが見せてきたのは2ヶ月後にある成人式のお知らせ。
あと、1ヶ月で誕生日だから成人式の頃には20歳かぁ~。
『松森さん来るでしょ?』
「うん!行くよ!」
『それで、式の後に同窓会てきなのも計画してるんだけど......来れる?』
同窓会......。なんか大人の会話みたいで楽しい!
『中学校のやつら来るからあんまり無理強いはしないけど......。』
迅くんが心配してくれてるのは私が入院してたからだよね......。
でも、久しぶりの機会で知ってる人が一人もいないわけじゃないし・・。
「行こうかな・・同窓会。」
『ホントに!?』
「あ、でも、私一応病気持ちだし、お酒飲めないけど......。」
『大丈夫。ウーロン茶でもジュースでも。それより、体は?結構賑やかになると思うけど、』
「うん。そのことなら平気。良いことなのか分からないけど私、結構この病気に慣れてるから。」
明るく話すと、そっか。と笑って返してくれる。
『松森さん来るなら、あいつも来てくれるかな......。』
ボソッと迅くんが言っていたことは私の耳に届く前に泡のように消えてしまった。
それから、今日に至る。
いよいよ明日に迫った成人式は虹丘中の近くで行われる。
お医者さんにも同窓会に行くこと話して「行っておいで」と言われたのでめちゃくちゃ楽しみで、仕方ない。
みんな、私のこと分かるのかな・・・・。という不安も楽しみな気持ちで消えてしまうくらい楽しみ。




「皆さん、成人おめでとうございます。今日から~~~~......。」
市長さんの長い話が終わり、成人式が終わって袴を借りたお店に戻り同窓会の準備の為家に一時帰宅。
同窓会が始まるのは18時で今は、15時だから、時間が少しある。
いつもより頑張ってオシャレしてみようかな。
そう思って、鏡台の前に座りメイク道具を出すと、メッセージの着信音がなった。
送り主は華鈴ちゃん。
今から、家に行っていいか。ということだった。
いいよ。と返事をすると30分後に華鈴ちゃんがきた。
鏡台に並べられたメイク道具一式をみて華鈴ちゃんは少し意気込んだように見えた。
「瑚々、今日のメイク私に任せてくれない?」
「えっ!いいの?私、プロの人にしてもらうの初めて!!」
「まだ、プロじゃないって。目指してはいるけどアシスタントだから。今は。」
華鈴ちゃんは、共学の高校を卒業後、美容の短期大学に入学して、ヘアメイクなどの技術を学んでいる。
「瑚々は元がいいから、こんなに使わなくても可愛くなれるよ。」
そう言って、椅子に私を座らせると横にメイク道具を並べて美容室みたいなスタイルになった。
中には私のものじゃない道具も入っていて、華鈴ちゃんのものだとすぐに分かった。
「じゃあ、始めていくね!」
「よろしくお願いします。」
華鈴ちゃんが私の顔に色んなものをつけたり、フサフサしたものをポンポンあてたりし始めてから30分。
「出来たよ!」
そう言われて鏡を見ると、まるで別人かと思うくらいの人がうつっていた。
「誰?」
「いや、瑚々だから。」
「私、こんなに可愛くない!華鈴ちゃんすごい!魔法使いみたい!」
「よかった。私の夢は可愛いの魔法をかける人だから。そう言ってもらえて嬉しい。」
さ、じゃあ私もちゃちゃっとやっちゃいますか!といって自分の顔にもメイクをし始めた華鈴ちゃんが器用すぎて羨ましかった。
華鈴ちゃんのメイクが終わり、家を出たのは同窓会が始まる30分前。
なかなか、やばいけど今日は遅刻するより、楽しかった。
「みんな、わたしのこと分かるかな......。」
ボソッと言った声はハッキリと華鈴ちゃんの耳に届いたようで......
「だいじょーぶ。覚えてるよ、皆。逆に、可愛すぎて分からないかも......。」
こういうときに励ましてくれてる華鈴ちゃんはずっと変わらない......。大切な友達。
「可愛すぎてもっと、惚れられるかも!」
「惚れられるって、誰に?」
「あっ。ううん。なんでもない。さっ!急ご!みんなに可愛い瑚々みせちゃうよ!」
「うん!」
その後、無事時間前に到着したけど、もうほとんどの人が揃ってて......。
「おまたせ!」
という華鈴ちゃんの声と共に会場に入ったけど、みんな私のことをみて声を出さない。
やっぱり、全然学校行ってなかった私のことは覚えてないよね......。
『......え、もしかして、松森さん?』
長い沈黙を破ったのはクラスのムードメイカーだった一人の男の子。
「え、あ、はい。」
返事、聞こえたかな......。
でも、その心配はすぐになくなった。
「「ヤバッッ!ちょー可愛いっつ!ちょ、松森さん、こっち来て!」」
来て早々賑やかになってしまってちょっとビックリしたけど、みんな覚えててくれて良かった。
と、みんなのところへ寄ろうとしたとき、一人の女の子がムードメイカーの肩をトントンとして入り口のほうを向かせると、そのこは息を呑んだように静かになった。
不思議におもって私も入り口のほうをみると、そこには宮槻くんと迅くんが立ってて、お酒を選んでいる最中だった。
皆が息を呑んで、静かになったのを今度はあちら側の王子様方が不思議に思ったようで、
『みんな、久しぶり!どうした?急に静かになって。』
沈黙を破ったのは宮槻くん。
驚くほど、身長が高くてモデルさんみたいだった。
でも、その隣にいる迅くんもこの前会ったときより全然ちがくて、
この前会ったときはメガネをしてて普通に20前後の男性って感じだったけど、
今日は、メガネもコンタクトにしたのか髪をワックスで無造作にセットされ、その辺にいる男性とは......いやその辺にいる男性に失礼だけど、全然比べ物にならないくらいカッコよかった。
オレンジジュースを持ったまま固まっていると、宮槻くんが近づいてきて......。
『もしかして。瑚々ちゃん?』
「うん。久しぶり。宮槻くん。」
目の前で話し始まったのと同時に周りは元の賑やかなところに戻って普通に話しても怪しまれないくらいになっていた。
『体は大丈夫なの?こんなに賑やかなのに......。』
「もう元気だよ。病気は治ってないけどほとんど普通に生活できてるから。」
『そっか』
そう言った宮槻くんの顔は何故か切なげで胸が不思議と締め付けられた。

香澄side
この前の成人式の日にあった同窓会で瑚々に会った。
瑚々が付き合っていたことを記憶障害で忘れてから、受験生ということもあってか会う回数が少なくなっていった。
すごく、会いたくて会いたくて病院の前まで行ったこともあったが、会いに行って「瑚々」と名前を呼んでも、驚かれて『宮槻くん』と呼ばれる。
5年たった今、久しぶりに瑚々が入院していた病院である人を待っている。
『宮槻くん......かな?』
待合フロアで待っていた俺に声を掛けてきたのは、5年たってもほとんど見た目が変わっていない瑚々の担当医。
俺は、今日この人に会いに来た。
『驚いたよ。まさか、ここまでカッコよくなってるなんて』
案内されたのは、瑚々が記憶障害と聞かされた診察室。
久しぶりに嗅ぐこの病院特有の消毒液の匂いが俺の鼻をくすぐりながら瑚々の担当医は淡々と話し始める。
『今日は、どうしたの?具合悪いわけじゃなさそうだけど』『あの、瑚々のこと、まだ担当してますよね。』
入院していなかったから担当医が変わっているかもしれない。と思ってた部分もあって確認のためにきいたことが、相手には何を今日しにきたかが伝わったらしい。
『今でも、僕は瑚々ちゃんの担当医だよ。宮槻くん、やっぱり記憶のこと......かな?』
『は......い。まだ、瑚々の記憶が戻ってないんです。こんなに長い間戻らないことって、あるんですか!?』
『そうだよね。残念だけど、今の医療状態も5年前と何も変わってない。でも瑚々ちゃんは定期診察に来るだびに少しずつ大人っぽく変わったなーとは思うけど、状態が悪化したことは、この5年間一度もないよ。』
悪化してないと聞いて安心した反面、このまま、もしも。という考えが頭から離れない。
『今は、瑚々ちゃんとは会ってる?』
「この前の、成人式の日偶然同窓会で。でもやっぱり思い出してないみたいで。』
『もう、成人かぁ~。早いね。」
感慨深いような表情をしてるけど、やっぱりまだ、医療の力では無理なのか。
何年後かは、いや。何十年後かもしれない。
医療の進歩があって、記憶障害も治せるようになっていてほしいと心から願うことしか出来ない。
色々質問したけど何もヒントになりそうなことはなかった。
お礼を言って帰ってきたけど、もうそろそろ限界なんだよな。実際大学通ってて全くモテないわけじゃないし。ていうかモテまくりだし。
でも、どうしても、瑚々が好きで、あれきり誰とも付き合ってない。
告白されても、好きな人がいるといって断り続けて今もなおそのまま。
今度会ったら、というか会えるのか。さえ分からないけど、もうただのクラスメイトだった人じゃないし気持ちを伝えても大丈夫なのではないか。
もう、5年たったけど今も瑚々に恋焦がれ続けている。

瑚々、そろそろ思い出してよ。
                                 香澄sideFin