桜並木と私と君と。
春、校舎の中から見える景色に校門まで続く桃色の桜並木が追加される季節。
そんな季節が今年もまた、近づいてきていた。
校庭に降り積もる雪が溶け、蕾が目に見えるくらい成長し自分の出番を今か今かと待ち続ける並木たちに囲まれた校門まで続く道は、学校の誇れる場所で私のお気に入り。
私ももうすぐ先輩かぁ、どんな後輩が入ってくれるのかな。
誰もが進級するときに思うことを私も考え、その日もまた同じように校門を出た。
今年の春が私の大切な春になることなんて知ることも無く...。
「つぼみ」
私は澤城 歩凪(さわしろ あゆな)。
今年から高校2年生。
今日は、来年度から入学してくる1年生の準備入学の手伝いのために春休みだけど学校に来てます。
「あゆ~!おはよ~!!」
そう言いながらバックから抱きついてきた親友、黒咲 瑠榎(くろさき るか)は高校からの友達。
「るかち、おはよぉ!」
高校生にしては小柄(?)な私にとって、るかちは理想のスタイル。
私より少し高い身長と校則ギリギリのスカートからスラッと伸びる白い足。おまけに胸まで。
前世でどんなに徳を積んだら、あんなモデル体型になるんだろう、。
私は身長159と、もう少しで、160にいきそうだったのに、惜しくも成長期は終了、伸びる予感がしない。足もスラッと長くはないし白...さはあるかもだけど校則ギリギリにする勇気もない、
「あゆ、今日なに担当だっけ??」
「私は新入生に教科書とか教材渡すから、図書室前かなぁ。るかちは?」
「るかは、受付~。説明の会場とか各クラスに散りばめられてるから、名簿見てクラス教えるの」
「そっかぁ、じゃあ帰りまで会えないんだ......。
まぁ、新入生のためだし!頑張りますか!」
2人で"おー!"と楽しく腕を上にあげて、お互いの指定場所に移動した。
指定場所について30分後くらいに、るかちからLINEが、きた。
新入生が、続々と受付を済ませているらしい。
私のところにも早い人はそろそろ来そうだな。
準備しなきゃ、!
そう思った私は料金を受け取った後、お金の入った封筒を保管するケースを自分の座っていた椅子に置き、立ち上がった。
すると、ぞろぞろと新入生とその保護者が図書室前にやってきた。
"ご入学おめでとうございます"と言いながら自分の任された仕事をこなしていく。
もちろん、名前の確認も忘れずに。
「ご入学おめでとうございます!えっと、白橋 爽哉(しらはし そうや)さんで間違いないですか?」
「はい。」
「ありがとうございます、こちら、教材です。」
同じ場所に5~6人くらい担当者がいるとは思えないくらいの忙しさだったが、落ち着きを見せ始めた行列は、あっという間に説明が行われる体育館に流れていった。
「咲き乱れ」
あれが去年の出来事か......月日の流れって早いなぁ、早すぎて追いつけないくらい。
私も、
もう、今年で卒業なんだなぁ、。
受験生になる年の卒業シーズンも、私の学校の桜並木は卒業する先輩たちに祝福の意味を込めてか綺麗に咲き誇っていた。
3年生というだけで過ごす教室は階がかわり、クラスのメンバーが変わるだけなのに、すごく新しい感じがするから私は春が大好き。
最後の年くらいは悔いなく終わるために、やりたいことなんでもチャレンジして行こうと、私は最後の1年を図書委員で過ごすことにした。
大学入学希望者は想像より多く、毎日10名は勉強をしに図書室を利用している。
その中でも本を借りる人のために貸し出し作業をするのが、私、図書委員の仕事だ。
委員会の仕事内容も覚え、慣れ始めた5月。
最近、気になる人ができた。
学年は、制服のマークを見る限り1つ下の男の子。
週に3回は図書室を、利用していて名前は白橋くんというらしい、貸し出し作業で覚えていた。
相手も私のことは認識しているらしく、通学路でもよく見かけるため家は近いのかもしれない。
「先輩、貸し出しお願いしていいですか」
今日も来てたんだ...。
白橋くんは俗に言うイケメンである。
容姿端麗、喜怒哀楽がわかりやすい顔立ちをしているため、多分......モテる。
そんな彼を気づくと目で追っているため分かられているような違うような、そんな感覚。
ある日、母の頼みで知り合いに届け物をすることになった。
初めて通る道だが、家からさほど遠い訳でもないので言われた住所をスマホのナビ機能に入れ、確認しながら進んでいく。
「あ、ここだ。」
チャイムを鳴らし、中の人に渡し、帰ろうとした。帰り道で呼び止められるまでは。
「先輩...?」
部活帰りなのかそこには高校のジャージを着て自転車を、押す白橋くんの姿が。
「あ、こんにちわ。部活帰り?」
「はい、部活終わって帰り道に先輩がいたので声かけちゃって...この辺なんですか?家。」
「うん、ここから歩いて15分くらいかな。白橋くん家も近いの?」
「あ、いや、ここ、なんですけど。」
そう言い指で指したのは私が今届け物をした家の隣の建物。
「そうなんだ!意外と近かったんだね、!こんなに近いならまた会えそう。」
本音をポロッとこぼしてしまい、"あ、"と思ったが、聞こえてなかったみたい。
「あの、先輩。聞いて欲しいことが、あるんですけど今時間いいですか。」
「うん。?いいよ。」
「先輩のこと、ずっと、いや、出会ったときからずっと好きでした...! 付き合ってもらえませんか...!」
突然だった。
目の前の白橋くんは耳まで赤くして下を向いている。
気になっていたから、普通なら喜ぶのだろうけど、困惑で頭がいっぱいだった。
「え。えっと......か、考えさせてくれない?」
「も、もちろんです、!」
じゃ、じゃあ、また、。といい、自宅に入っていく白橋くんと同じタイミングで私は帰路についた。
突然、告白を受けてからは図書室にも、なかなか白橋くんは来ず、そのまま2週間は過ぎていた。
るかちとプリクラを撮った帰りにスーパーで買い物を頼まれた私は、頼まれたものを買い、撮影したプリクラを見ながら帰った。
帰り道でわいわい騒いでいる声が聞こえたので、そっちを少し覗くと、そこはこの前告白を受けた白橋くんの家の近くだった。
そして、騒ぎの中心にいるのはその本人。
私はそっと帰ろうとしたが、その中の1人にジェスチャーでそこにいて、と言われたのでその場に留まることに。
よく分からないけど、目の前の公園にいる人達は伝言ゲームとやらをしているらしい。
何人かで列になって最後尾からの言葉を文に繋げていくゲーム。
見ていて理解したことは、現在の題材は私だということ。
伝言を受け取って伝える度に、遊んでいる子達が私の方を見ていた。
その行動が面白くて微笑みを向けていると、最後の白橋くんの番になっていた。
白橋くんは伝言を受け取った途端に、私の方を勢いよく振り返り、唖然とした表情だった。
「な、なんで、いるんすか、」
「えっと、帰りにスーパーで買い物してて。賑やかな声が聞こえたから来てみたらここだった...です。」
日本語おかしいけど今の私にはそれが精一杯。
なぜなら今しかないと思っているから。
「先輩、告白のこと...なんですけど」
「うん、ごめんね待たせて。」
「い、いえ、!そ、それで、...。」
少しずつ消え入りそうな声に耳を傾けながら私は自分の意思を伝えようとする。
「か、考えたんだけど、あの、わ、私、受験生だし、色々合わないと思うんだけど......」
「わかってます、!それを理解しても俺の気持ちは変えられなかったです、。」
そんな、まっすぐ私のこと.......。
「先輩、俺、一目惚れなんです、先輩に。
覚えているかわからないですけど、1年生になる時の準備入学の日、俺、教材受け取るのに先輩に会ってるんです。まぁ、お互い面識なんて無かったですけど。その時に、先輩が、可愛くて、惚れました。それからずっと名前もクラスも分からない先輩を想ってたんです。受験なんかじゃ、俺の気持ちは折れません。」
一目惚れ......こんな私に?
正直、すごく嬉しかった。
「私もね、!図書室で、来る度見てたんだ笑
モテるんだろうなぁって思ってた。」
そんな彼がずっと私のことを想っててくれたなんて。
ほんとは信じられない。でも、彼の瞳が、嘘をついているようには見えなかった。
「......先輩、付き合って、もらえませんか。」
2週間前の告白より消え入りそうな声で言われたけど私の耳にはハッキリと届いていた、。
「私でよければ、!」
そう返した途端に、白橋くんは私を抱きしめてきた。
すごく、喜びが伝わるような、優しい抱きしめ方。
「先輩、名前で、呼んでもいいですか。」
「あ、うん、えっと、......」
「俺の下の名前、覚えてたりしますかw?」
ドキドキするような表情で見られたけど、図書室での出来事を遡り、思い出した名前を口にした。
「爽哉...くん。」
「......やばいっすねw 破壊力、...可愛すぎておかしくなりそう、やばい、嬉しすぎる......w」
どうやら当たってたみたい...よかったぁ。
「あ、じゃあ、俺は......あ、あの、先輩って付けなくても...?いいですか。」
歳が違うから、迷ってくれてるのかな。
少し可愛いかも。w
「付けなくても、いいよ。だって...その、彼氏、だもん。」
「あーも、ほんとかわいい、。歩凪...。」
初めて名前を呼ばれてこんなにドキドキしてる、。
爽哉くんも、顔を赤らめながら笑顔を浮かべている。
そんな夕暮れの出来事。
私たちの気持ちが通じあい、名前を誇らしく感じた日。
また、春が来て、その日は私の入試の合格発表だった。
母と会場に行き、指定の場所に向かう。
緊張で、内臓が出てきそうだったけど、冬休みにもらった優しい黄色のお守りを片手に自分の受験番号を、探した。
ひとつひとつ、確認し、
自分の番号を、みつけた。
嬉しくて私はその場に泣き崩れた。
母と抱き合い、手続きに必要な書類を取りに行った。
"伝えたい人がいる"
母にそう伝え、私は、あの日、買い物を頼まれたスーパーで、下ろしてもらった。
まだ、少し肌寒い。
私は小走りで、大好きな人の家に向かった。
チャイムを鳴らし、人が出てくるのを待った。
ドアを開けた人物が、爽哉くんだった途端、私は抱きついた。
「え!?、あ、あゆ、な、?」
「受かった!!」
「......え、!ほ、ほんとに!?」
爽哉くんの腕の中で一生懸命に頷く。
抱きしめながら"おめでとう"と言われ、その言葉でまた、目標を叶えられたことを実感し、涙が出てくる。
「あゆな、泣いてる?」
「だ、だって、怖かった......もし、受かってなかったら......応援してくれたのに、って。」
涙で視界は歪んでいる。
でも、次の瞬間、柔らかいものが視界をクリアにした。
チュッという効果音付きで。
「大丈夫、あゆなは受かったんだよ。もしものことなんて、もう考えなくていいんだよ!」
目の前で少し涙を浮かべる爽哉くんは、キスされて固まっている私を見て、時間差で自分の行動に恥じらいを感じたみたい。
少し沈黙が続いた後に、私は勇気を振り絞って、爽哉くんの、名前を呼んだ。
ん?と私を見た目の前の爽哉くんに向かって、うんと、背伸びをし、ちゅっとキスをした。
離れる唇には、笑みを浮かべて。
「爽哉くん、大好きだよ!!」
私が笑顔で言ったのを見て
「俺も!」
と、再び抱きしめあった。
次の春から、過ごす場所は違うけど、それでも平気。
こんなに、愛してくれる人が私にはいるから。
そう、心で確認して抱きしめあってる腕の中で笑みを浮かべた。
end.