箱の世界〜愛が導いた奇跡〜⑫

11th world  月日が経ってもたくさんの愛を


成人式という一大イベントも終わって看護師になるための勉強に励んでいる今日。

虹丘中学校でタイムカプセルを掘り出す集まりのお知らせがきた。

そういえば、私も、華鈴ちゃんと書いたな~。病院でだけど。

なんて書いたんだっけ。

確か、20歳の自分に宛てた手紙だった気がする。

日にちは1ヶ月後の土曜日......に、虹丘中でって書いてある。

気になるし、行こう。

参加に○をつけてハガキを送り返して、また勉強。

どうしても、看護師さんになりたい。

入院してたとき、色々面倒みてくれてすごく憧れたから私もなって同じように苦しんでる子の為になることをしたい。

資格をとって働く前に、もう一つの夢である病児保育士さんの資格もとるつもり。

保育士さんは保育園で働くけど、病児保育士は、病気や病気をもつ小さい子の家に訪問して親御さんの代わりに保育をすることもあるし、病院内に併設された場所で入院中の子供の面倒もみれる仕事。

元々、小さい子と一緒に過ごすのが好きだし、看護師と両方持ってれば意外とすごいから目指すことになった。

今の学校で資格とれるから、看護師になる人の倍は勉強しなきゃだけど頑張るんだ!



1ヶ月って短いもので、もうタイムカプセル掘り出す日になっちゃった。

動きやすい服で。って書いてあったから膝丈くらいのショートパンツに夏だけど日焼けあんまりしたくないからカーディガンはおって家を出た。

会場に。っていうか懐かしい母校に到着して校舎をみつめていると今回の主催者の人が集合の合図をだしてイベントが始まった。

みんなで自分の名前が書かれた手紙をみつけて読んで大はしゃぎ。

あ、あった!

自分の名前が書かれた手紙を開いて、読んだけど封筒の中に手紙以外の違和感を感じて中身を全部出すと、1枚の写真が大きさぴったりの袋にはいって出てきた。

なんで......院内着のまま私と宮槻くんが写っているの?

これは、どこからどう見ても私と宮槻くんで、裏の日にちも入院し始めたときのが私の文字で記されている。

宮槻くんなら何か知ってるかも......!

近くにいた人に今日来てるか聞いたけど、今日は大学で有名な教授のセミナーがあるから来てない。と言われた。

人の中を探し回っているうちに華鈴ちゃんに会った。

「華鈴ちゃん!宮槻くんのメッセージアドレス知らない!?」

「えっ?急にどうしたの。電話番号もアドレスも知ってるけど......。」

良かった。華鈴ちゃんが知っててくれた。

「教えてくれない?どうしても聞きたいことがあるの。」

「いいよ。てか知らなかったんだ。はい。スマホ出して。」

華鈴ちゃんに送ってもらったアドレスと番号をすぐ登録して、華鈴ちゃんから宮槻くんに教えたことをいってもらうことにした。

タイムカプセルの手紙も何か違和感のある文があったから、手紙をもって家に帰った。

"香澄くんのこと今でも好きですか?"

なんで、下の名前で書いてあるのか。「今でも」という言葉の意味をどうしても思い出せない。けど、

確かに宮槻くんの下の名前は香澄だ。

家に帰ってからメッセージを送る。

「久しぶり。突然ごめんね。タイムカプセルのこととかで聞きたいことがあります。近いうちに会えませんか?」

私のメッセージネーム知らないだろうから、松森瑚々。と名前も打った。

宮槻くんから返信が送られてきたのは、その日の夜。私がお風呂から部屋に戻ったときだった。

『分かった。近いうちだと、来週の水曜日か金曜日なら都合があうかも。どっちか空いてる?』

華鈴ちゃんから送られたメッセージも読んだみたいで動揺した文はなかった。

来週だと、金曜日......かな。

カレンダーを見ながら、授業予定を確認して返事を打つ。

「じゃあ、金曜日でお願いします」

『了解。虹丘中学校近くの○○駅南口で13時半ごろに会おう。』

日が回らないうちに返事と約束が出来たので安心して眠りにつけた。


約束の日。

私は久しぶりに会うから普通のお出かけする服とは別の少しオシャレした服で向かった。

13時ちょっと過ぎについて、駅のなかを歩き南口に出ると、宮槻くんは時間よりも早いのにもう来ていた。

「宮槻くん!」

駆け寄りながら名前を呼ぶと、振り返って手を振ってくれた。

『久しぶり。瑚々ちゃん。』

「久しぶり。成人式の同窓会以来かな?ごめんね。待たせて」

『全然。午前中にこの近くで予定があったから早く着いちゃったんだ』

微笑みながら話してくれる宮槻くんは病院で初めて会ったときと同じ口調で安心した。

『ここだと、ゆっくり話せないから近くにあるカフェでお茶しながら話そう。パンケーキとパフェが美味しいお店があるんだ。』

「うん!そこ行こう!パンケーキもパフェも大好き!」

歩きながら話していると、宮槻くんの耳が赤いことに気づいた。

「宮槻くん、耳赤い。どうしたの?」

『どうしたもこうしたも、こんな可愛い服で隣歩かれたら、どんな男でもこうなるよ』

サラッと可愛いと言われ嬉しくなった。

「着いた。ここだよ。」

目の前にあるカフェは平日でも中が人でいっぱいのオシャレなカフェだった。

待たずに中に入れたのはきっと休日じゃなかったからだと思う。それくらい人気っぽいお店だった。

「何にする?」

宮槻くんはモテそうだから、こういう場所もこういうときの話し方も慣れてるな~。

「んー。このストロベリーアイスパフェも気になるけど、このふわふわパンケーキいちごクリームのせ。ってのも気になる......。」

思っていること全部言うと宮槻くんは店員さんを呼んだ。

『ストロベリーアイスパフェとふわふわパンケーキいちごクリームのせをひとつずつ』

「えっ。宮槻くんのは!?」

『大丈夫。俺も、これ気になってたから半分ちょうだい。』

と言って、コーヒーを注文した。

『瑚々ちゃんは?飲み物。何にする?』

「あっ。じゃあ、ストロベリーティーで。」

宮槻くんは慣れた様子で注文を店員さんに伝えた。

『瑚々ちゃん、いちご好きなの?』

「うん。いちご関係のお菓子とかも大好き!」

注文したものがほとんどいちごで早く食べてみたい。

『それで、聞きたいことがあるって言ってたよね。どうしたの?』

「あ、あのね。この写真なんだけど......」

タイムカプセルを掘り出した日のことを交えながら説明していくと『懐かしい』と言った宮槻くん。

『これは、瑚々ちゃんのお見舞いに行った日に撮った写真で、日にち書くっていうから下の名前で書いて。って言ったの。』

だから、手紙のなかにも下の名前だったんだ......。じゃなくて!

好きとか書いてあったこと......どう言おう。

色々迷っているうちに、いちごずくしのスイーツたちが運ばれてきた。

目の前に置かれた瞬間、幸せな気分になった。

『さ、食べよ。』

宮槻くんの一言で悩むのをやめて、スプーンを持っていちご王国に出かけた。

「あ~!美味しかったぁ。」

食べ終わって、カフェを出ると、なにやら宮槻くんがよそよそしい感じになった。

「どうしたの?」

『あのさ、もう一つ行きたい所があるんだけど、時間大丈夫?』

「うん。平気だけど......。」

私の返事を聞いて、宮槻くんと向かった場所は学校近くの公園だった。

「懐かしい~!ここでよく華鈴ちゃんとお喋りしたな~。」

遊具とか植物を見ていると、宮槻くんが突然、
『瑚々ちゃん。好きだ。』

「へ?」

『病院で見たときから。ずっと好きだった。』

「ホントに。ずっとだね。」

自分に起こる可能性すらも諦めていたのに......ずっと想ってくれてた人が私にもいた。

『俺と付き合ってください!』

緊張してるのか、顔と耳がほんのり赤い。

その時、タイムカプセルの手紙の文を思い出した。

好きですか?という内容。

きっとこのとき、私は宮槻くんに片思いしてたんだ。

宮槻くんも病院でって言ってるし、私たち、隠れ両想いだったんだ。

「こんな、私でよかったら、よろしくお願いします。」

宮槻くんにそう言った途端、ぎゅっと抱きしめてきた。

それが嬉しくて、私も抱きしめ返した。

この行動が思い出すきっかけの一つで、抱きしめあったり、好き。とお互いに言い合うことが初めてじゃないなんてこのときは知る由もなかった。


宮槻くんと付き合ってから1ヶ月。

今日は、デートの日。

オシャレして、この前と同じ駅で待ち合わせをしている。

時間より早く着いちゃって、駅の広場で時間を潰そうと向かうと、後ろから声を掛けられた。

『可愛いね~。俺達と遊ばない?女の子とか紹介してよ~!』

えっ、これってナンパ!?

掴まれた腕にゾクッッと鳥肌がたって嫌!と声をあげようとしたら
『こんにちは。お兄さん。香澄っていうの。よろしくね』

宮槻くんが女の子みたいな声でナンパの人達の耳元で話した。

『ちっ。彼氏持ちかよ。』

行こうぜ!と言って離れていったけど、まだ恐怖で震えが止まらない。

『ごめんね。瑚々ちゃん。遅くなって。大丈夫?』

「あっ、うん。大丈夫。」

怖くて、声も震えている状態でしか話せなかった。

『嘘はダメだよ。まだ怖いんでしょ?あそこのベンチで休もう?』

宮槻くんは優しくベンチまで手を握っててくれて少しずつ落ち着いていった。

『ごめん。こんな人通り多いところだったら大丈夫かと思ったけどこれからは俺が先に着いとくから。』

シュン......。という効果音がついてもいいくらいに隣で落ち込んでいる宮槻くんがとんでもなく可愛く見えた。

「ううん。これからもここでいいよ。声掛けられても無視して拒否するから。」

それでも心配......。と宮槻くんは言うけど、ここは私の頑固さで勝った。

「それより、今日はどこ行くの?」

『あれ、言ってなかったっけ?なら、着いてからのお楽しみってことで。』

それからは、ほんとに何も教えてくれなくて、ただ宮槻くんの隣を歩いた。

電車に乗って、30分した頃、『降りるよ』と言って降りた先は、

「......ここ!」

『うん。今が旬だから。』

宮槻くんが連れてきてくれたのは、いちご農園だった。

ビニールハウスの外で受付の列に並ぶのかと思いきや、入り口の人に

『予約していた宮槻です』と言って、長い列に並ばずに案内された。

予約しててくれたんだ......。

案内されたビニールハウスは外にいるのにいちごの香りが漂っていて、もう幸せだった。

制限時間はあるけど中に入ってからは、まるで、いちごに溺れているのかと思うくらい幸せな時間を過ごした。

それから1時間、宮槻くんと一緒に甘~いいちごを食べた。

「宮槻くん、ありがとう。いちご狩り、すっごく楽しかった!」

『よかった。俺も、瑚々ちゃんの笑顔たくさんみれて楽しかったよ。』

どこまでも、照れさせるようなことを言う宮槻くんだけど帰り際にいつもの公園に寄っていいか。と聞かれたので、もちろんおっけーをし、公園に行った。

ここで、1ヶ月前、告白されたんだよね。

今でも、宮槻くんみたいなカッコいい人と付き合っているなんて実感が中途半端で縁結びの神様に毎日お礼を言ってる。

『瑚々ちゃん。こっち来て。』

そう言われて、宮槻くんの隣に座ると、バックから何かを取り出した。

『これ、1ヶ月記念に。』

そう言って渡してくれたのは、白い花の造花鉢植え。

手にとった途端、たくさんの情景が頭の中を駆け巡った。



そして、口から出た言葉は

「白いアザレアの花言葉は、あなたに愛されて幸せ。永遠の愛。だったよね。
前にもらったときより嬉しい。ありがとう。香澄くん。」

『えっ?』

「あれ......?なんで前にもらったなんて......。それに香澄くん......って。」

自分の口から出た言葉に不思議な感情を抱いていると、涙を浮かべながら抱きしめてきた宮槻くん。

『瑚々ちゃん。いや、瑚々。思い出してくれてありがとう』

思い出す......?

っつ!!!

そうだ、私は、宮槻くん......ううん。香澄くんと付き合ってた。中学生のときに。もちろん、入院する前から。

「かす......みくん?」

思い出した記憶の中で一番大きい幸せ。

私は、香澄くんが好きで、香澄くんも私に大好きって言っててくれた。

入院してたときに撮ったって写真も、私が撮ろうって言ったもの、今ひざの上にあるアザレアの造花鉢植えも香澄くんが花言葉と一緒に渡してくれたもの。

なんで、こんな大事なこと忘れてたんだろう......。

涙が頬をつたい、嬉しいのに、切ない気持ちでいっぱいだった。

「私、......なんで......」

『部分的記憶障害。瑚々は俺と付き合っていたことを忘れちゃってたんだ。病気の影響だよ』

それから、香澄くんの話を聞いた。

香澄くんからこの造花をもらった日に意識が危うくなったこと、危険な状態で記憶を失う可能性を先生から聞いたこと、目を覚ましたとき、初めましてにしようとお母さんと話し合ったこと。

確かに最初、目が覚めたとき私は、目の前にいた男の子に名前を呼ばれた記憶がある。

あれは、香澄くんだったんだ。

「ごめんね。忘れ......ちゃってて」

涙が止まらない。香澄くんの辛かった気持ち。苦しいほどに目から伝わってくる。

『ありがとう。』

「なんでお礼言うの?」

私、忘れちゃってたんだよ?大好きだった人と過ごした記憶......。

『だって、思い出してくれたじゃん。今こうやって。瑚々は......帰ってきてくれた。俺の記憶の中の瑚々に。......おかえり。瑚々。』

そう言いながら、香澄くんは私の隣に座った。

香澄くんの目にも涙が浮かんでて、でも、大好きな笑顔。

『実はさ、このまま戻らないかもって言われたんだ。記憶。』

「いつ?」

『成人式よりちょっと後に。瑚々の担当医の先生に。』

どうしても、思い出して欲しくて、何回か話しに行ってた。と香澄くんは言うけど、

どうしても、涙は止まってくれない。

なんで、もっと早く思い出さなかったんだろう。

香澄くんは目が覚めた後、覚えていない私に宮槻くんとして、何回もお見舞いに来てくれたのに。

ずっと、病室にあった造花の鉢植え。

これ、どうしたの?とお母さんに聞いても、お父さんが持ってきたんだよ。としか言ってなかった。でも、確かに鉢植えについて聞くと、決まってお母さんは少し動揺するのだ。

退院した後も、家に飾ってあるアザレアを見てきたのに、なんで思い出さなかったんだろう。

香澄くん......。辛いのに、記憶のこと知ってたのに。会いにきてくれてたんだ。

『瑚々』

香澄くんに名前を呼ばれ俯いてた顔を上げると、ちゅっという音と共に香澄くんの唇と私のが重なった。

そのまま、香澄くんは私の目から止まることの知らない涙をキスしながらとってくれた。

『しょっぱい。(笑)』

香澄くんが笑うと、私もつられて笑っちゃう。

『瑚々、ありがとう。思い出してくれて。』

「ううん。わたしこそ。待っててくれてありがとう。」

『瑚々』

愛してる。

そう耳元で香澄くんが囁いた。

大好きな人に名前を呼ばれると特別な気持ちになれて、名前が誇りに思える。

「私も。愛してる」

お互いに、気持ちが同じで

お互いに、大好きで

お互いに、愛し合ってて。

今日、もう無理かもといわれていたらしい私の記憶が

大好きな人に愛されてるっていう実感と、大好きって言ってくれる人を大好きって思ったことで、私のなによりも大切な時間が戻ってきた。

信じて待っててくれた香澄くん。

忘れていても、ずっと好きでいてくれた香澄くん。

今日、2回目のプレゼントで、愛を確かめ合えるアザレアの花を贈ってくれた香澄くん。

大好きな人が信じてくれていたおかげで、奇跡が起きた。

だから、今日は奇跡の記念日。

大好きな人と一緒に迎えることが何よりも幸せな記念日が出来た。

私とあなたの、愛が導いてくれた「奇跡の日」。

                                                         


次回、エピローグ!!ついに、物語が完結します!!
お楽しみに!!