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不思議な力を信じている・其の弍

高岡さんが会社で
「八雲がさ〜!!」と事故前の顛末を大々的に話したゆえに、たくさんの同僚に
「え?八雲ちゃん、見えちゃう人なの?」
「霊感強いの?」
「私の後ろになんか、憑いてる?」
などと大騒ぎだった。
………見える訳ねーべ。そんな全て見えてたら多分、職業が違う。

私は自分が霊感があるとは思っていない。
と言うか、昔から何故か思っていた。
例え見えたとしても。例え感じたとしても。
その人を祓い、綺麗にして前向きな人生に導けないのなら軽々しく「見える」と言ってはいけない。

それが出来ないのなら「勘違い」だと思おう。腹の中にしまっておく。そう思っていた。

…そもそも何でそう思ったんだろう?



そうだ。10代半ばの頃。ナイフみたいに尖っては触るもの皆の若かりし頃…父に連れられて嫌々、いわき市にあるお寺へ御祈祷を受けに行った時だ。

大好きだった母が亡くなり、頑固ゴリラのような父←こら
が大嫌いで口も聞いていなかった。

季節はうる覚えだが霜が降りていてめちゃくちゃ寒く、お寺には数名の僧侶の方がいらっしゃり読経をあげて下さった。

今思うと本当に有り難い事なのに、当時の私には退屈で仕方ないだけであった。
「早く帰りたいよ…」
そんな事を思っていたら中庭にお集まり下さいと促され、広い中庭に全員が集まった。
中庭には10数個はある木の樽がグルっと置いてあった。

え?何?大人が酒でも飲むの?

と思う間もなく、白いふんどし姿の僧侶と、おそらく希望者の方もおられたと思う。中庭にすっくと立ち、樽の側に置いてあった手桶に水を汲み、腹の底から響くような大きな声でお経をあげながら……頭の上から思いっきり水をかけた。
1回ではない。何回も、何回も。

「!!!!!!!!」

「何してんの?!さっき水たまりの水、ガチガチに凍ってたよ?こんな事したら風邪引くって!!正気?!」

あまりの迫力と気迫に私はただ呆然と見つめていた。
すると水行をしていらっしゃる方々の体が白く光り始めた。
最初は体温で水が湯気となっているのだとばかり思っていた。

でもそれは四方八方に次第に大きくなってゆく。光りながら空へ、囲む私達の側まで届いている。
「これは何?」
凍てつくほど寒い朝だのに、なぜか体が温かくなって来ているのが分かった。

その時に自身の修行の為だけでなく、水行が出来ない私達の為にこの寒い中、私達を清める為にも水を浴びて下さっているのだと感じた。

「八雲。あなたは周りの人の為に何が出来ますか?」
頭に浮かんだ言葉に、自分で返す言葉が無かった。

恥ずかしいと思った。私達を育てる為に必死で働いている父親に対して、何の配慮も手伝いも出来ていない自分。

かたや、ここにいる方々は…こうして私達をも清めて下さっている

言われた訳でもなく、何となく気がついたら両手を合わせていた。


後日談

その数ヶ月後、またそのお寺に御祈祷に伺う時があった。

住職様は見えないはずのものが、普通に色々と見える方であった。

印象深いお話は
「朝のお経をあげていたら、龍がお堂の中に入って来たんだ。そんな事は無かったからね。きっと何かがあるんだろう……
と思っていたら昭和天皇が崩御された。迎えにいらしてたんだと思うよ。」と。

……そんな、出掛ける前にお迎えの車が来た、みたいに普通に言われても…

と面食らいながら話しを聞いていた。

説法もお開きになり、帰る時間になった時に、その僧侶が私に近づいて来た。
「今日はありがとうございました」
お礼を伝えると笑顔で

「……顔が変わったな。お父さんの手伝いを、よくやるようになって来たな。
お父さんは口下手だから言わないかもしれないけど、とても喜んでいるよ。その調子でお父さんを手助けしなさい。必ず君に幸せとなって返ってくるから」と。

「!!!親父〜!……うちの子が…とか話したな?」

と思い、キッと父の顔を見た。
ゴリラの(もとい)父の目を見開いた驚愕の表情が今も忘れられない。

あ、言ってないんだ。

………こんな事も、あるんだ。

「見えない力を人の為に使う」って、きっとこう言う事を言うんだ。

15歳のガキんちょの腹に
ストンと腑に落ちた出来事であった。


続く


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