見出し画像

クトゥルフ神話TRPGシナリオ「暁のレコンキスタ」

#同じ映画から作る千差万別TRPGシナリオ
#ムビシナ

修正版をBOOTHに公開しました。
https://8works.booth.pm/items/2164738

noteのシナリオは修正前のものになるため、BOOTH版を推奨します。

◆シナリオ情報
ゲームシステム:クトゥルフ神話TRPG
シナリオ名:「暁のレコンキスタ」
舞台:現代日本(オカルト/ホラー)
プレイヤー数:1~3名程度
想定プレイ時間:2~4時間

◆はじめに
これは、矢鹿(やしか)@TRPG&ボドゲ勢 ボドゲ製作中(@rusty_keeper)さんの呼びかけた #同じ映画から作る千差万別TRPGシナリオ #ムビシナ の企画用のシナリオです。
今回テーマとなったのは「キングダム」です。

◆イントロダクション
 いつまでも続くと思っていた平穏で幸福な日常は、唐突に破られた。失踪した姉を探す探索者たちは、いつしか自分たちを翻弄する恐ろしい「敵」と向き合うことになる。

◆シナリオコンセプト
 探索者たちは日常を取り戻すために、協力して失踪したNPCを探索し、敵と戦います。戦いのあと、自分が何に巻き込まれているのかを知り、重大な決断を迫られます。覚悟してプレイしてください。
 また、このシナリオは探索者①が主人公になります。最終的な決断が一人のプレイヤーに委ねられる展開になるため、注意してください。

◆ハンドアウト  
 
探索者①:このシナリオの主人公(男性でも女性でも良い)。中学生または高校生。社会人の姉と二人暮らし。親とは死別しているが、家は遺してくれたため、ゆとりはないが仲良く幸せな生活を送っている。このPCは好感を持たれやすく、友人・知人が多い。
探索者②~③:探索者①の友人・知人・親戚・恋人・バイト仲間等。探索者①のことを大事に思っている。

◆NPC       
彩香(あやか):(姓は探索者①と同じ)女性・24歳・会社員(事務員)
探索者①の姉。名前はキーパーが任意に変更して良い。柔和な性格で面倒見がよい。しっかり者を自任しているが、案外うっかりなところもある。重度の小麦アレルギー体質で、意識障害を起こす。
なによりも家族想いな彼女が失踪したことから事件が始まる。

◆ストーリー(粗筋)
 平穏な日常を暮らしていたPCたちは、彩香が失踪を知る。この事件では警察を頼れないため、仲間たちと捜索するうちに、彼女が廃墟となったショッピングモールに囚われていることを知り、救出に向かう。強敵を倒して彼女のもとに辿り着くが、「敵」は彩香の意識を奪い、対峙する。彩香を救うことができるのは、探索者たちだけだ。
 救出後、探索者①は自分自身についてある決断を迫られる。

◆登場する神話生物 
シャッガイからの昆虫(シャン):ルールブック(6版)179頁参照
ザイクロトルからの怪物:ルールブック(6版)178頁参照

◆シナリオの展開  
1.シナリオ導入部
シナリオ導入部の目的は、PCやNPCの関係性を演出することです。キーパーはプレイヤーに「彩香を救出しなくてはならない」という動機付けをさせる演出を行ないます。また、PC間の関係性についても演出できると良い。
1-1.日常描写
 学校(塾・バイト先・遊びに行った先)からの帰り道、探索者たちは探索者①の姉の彩香とばったり会う。彩香は仕事帰りで、夕食の材料を買いに来ていたところだ。彼女はにこやかに家族以外の探索者を夕食に誘う。同行すれば美味しい夕食と楽しい時間を過ごすことができる。断っても、彼女に対して良い印象を抱くことになる。食事中、彩香は探索者①のことを間違って「徹(とおる)」と呼ぶ。家族や知人にそうした名前の者はいないので、なぜそのような間違いをするのかわからないが、時おり彩香は探索者①の名前を間違える。
1-2. いつもの朝
 彩香は翌朝も探索者より早く起きて出勤していく。行ってきますの声と朝食の香りで目覚めた探索者①は、姉の作ってくれた朝食を摂り、学校へ向かう。
1-3. いつもと違う夜
 普段であれば、夕方には帰宅する姉が帰宅していない。連絡しようにもスマートフォンの調子が悪いのか、画面が真っ黒なまま反応しないため連絡できない。心配した探索者は落ち着かない夜を過ごす(この時点から捜索を開始しても良い。その場合には次項からの時間の表現を変えて進めるものとする)。

2.彩香の失踪と捜索
いつも通りに外出した彩香が戻らないことに気が付いた探索者たちが捜索を開始するシーン。警察に通報することができない異常性を演出する。また、彩香がエピペン(食物アレルギーなどによるアナフィラキシーに対する緊急補助治療用のアドレナリン注射液自己注射キット製剤)を忘れていったことに探索者たちが気が付く演出を行なう(重要)。
2-1. 彩香の捜索
 探索者①は他の探索者と協力して姉の捜索を始めるが、姉の勤務先に連絡しても手掛かりは掴めない(昨日は普通通りに退勤したとの話)。姉の持ち物から手掛かりが得られないか探してみると、いつも持ち歩いているエピペンを忘れていっていることに気が付く。
困り果てていると、壊れたと思っていた探索者①のスマートフォンの画面に文字が表示される(SAN判定0/1d2)。
「警察には言うな。姉を助けたければ、今夜10時に隣町のショッピングモール跡地に来い」
2-2. (警察に通報した場合)
 警察に通報したり、警察署に行ったりした場合、スマートフォンから彩香が苦痛の叫び声をあげる音声が流れる(SAN判定1d3/1d6)。数秒後に画面に「警察は追い返せ」という文字が表示される。それもすぐに消える。警察は探索者たちが勘違いでした、等と言えば特に事件化せずに引き上げる。敢えて事件化に固執した場合、警察が確認できないタイミングでスマートフォンに次々とちぎり取られた指や耳、目玉等の身体部位が映し出され、最終的には「ゲームオーバー」の表示とともに連絡は途絶える。警察にショッピングモール跡地のことを伝えた場合、身体部位を傷つけた画像は送られてこない代わりに、ショッピングモールで言葉も感情も失って涎を垂らしながら虚空を見つめる彩香が発見される(バッドエンド)。

3.ショッピングモールでの戦い
ショッピングモールで強敵「ザイクロトロルからの怪物」との戦いになる。探索によるヒントから相手を弱体化させることができれば、勝つことができる。
3-1. 廃墟となったショッピングモールの探索
このシーンは夜に限定する。指定されたショッピングモール跡地は収益悪化で閉鎖され廃墟となっている。探索者たちは鍵のかかっていないスタッフ用通用口から中に入る。かろうじて常夜灯のみ点々と灯っているが、薄暗く、割れたガラスや衣料品店のマネキンが佇む空間は、非常に不気味だ。商品は概ね撤去されているが、残されているものもある。探索者たちはここで入手したいものがあればキーパーの許可のもとで入手することができる(これは戦闘中等の不適切なタイミングを除けば、いつでも可能である)。
フードコートで白骨死体を発見する。肉のない白骨はひとかたまりになっていて、衣服はないが、ファスナーや硬貨といった金属が一緒に落ちている。なぜか全体的に少し湿っている。床には何か大きなものを引きずったような跡が残っている。
(これはザイクロトルからの怪物が食べた人間の残りカスを吐き出したものである。床の跡はザイクロトルからの怪物の通った『足跡』だ)
ペットショップに行くと、ペットはおらず、水槽も半分近くが割れている。残った水槽も濁って中は見えない。アイディアや生物学、博物学等の判定に成功すれば、割れていない水槽は全て海洋生物のものだということがわかる。
(ザイクロトルからの怪物はペットショップに残されていた生物を捕食したが、塩水を嫌っているため海洋生物の水槽には手を出していない)
 探索していると、スマートフォンに写真付きでメッセージが送られてくる。エスカレーターホールにいる彩香の顔の下半分だけ写った写真と「朝までに助けられなければ、死ぬ」とのメッセージ(シャンは夜間しか憑りついた相手をコントロールできないため夜明けまでに決着させようとしている。演出的には制限時間を設けられ、プレイヤーを焦らせることができる)。
3-2. 不良グループとの喧嘩
ショッピングモールのなかをうろついていると、面白半分に入り込んだ不良グループの男たちと出くわす。退屈していた彼らは探索者たちを見つけると、狩りをするように追い立てて殴りかかってくる。
4人いる不良の能力値は下記の通り(一人だけ鉄パイプを持っている)
| STR:12  DEX:10  INT:8 アイディア:40
| CON:10  APP:9  POW:8  幸 運:40
| SIZ:12 SAN:40 EDU:9 知 識:45
| H P:11  M P:8  回避:20  ダメージボーナス:0
| こぶし60% ダメージ1d3
| キック50% ダメージ1d6
| 鉄パイプ40% ダメージ1d8
不良たちは探索者たちを殺そうとしているわけではないので、降伏したり逃げようとしたりした場合には特にムキになって攻撃しようとはしない(小突いたり脅かしたりして楽しもうとする)。
1ターンの戦闘が終わると、新たに錯乱したように慌てた二人の男がエスカレーターホールのほうから走ってくる。彼らは不良グループの仲間ですが、恐慌状態に陥っている。仲間の一人が木の化け物に食われたと呂律の回らない口調で話す。不良グループたちは確認のためにエスカレーターホールに向かう。
 エスカレーターホールでは7~8メートルほどの高さの筒から触手が生えた木のような形状の生物がゆっくりと動き回っている。筒の頭頂部には牙の生えた大きな口があり、下半身まで怪物に飲み込まれた男が苦痛の叫び声をあげている(SAN0/1d6)。
ザイクロトルからの怪物の能力値は以下の通り。
| STR:51  DEX:14  INT:7 アイディア:--
| CON:34  APP:--  POW:10  幸 運:--
| SIZ:44 SAN:-- EDU:-- 知 識:--
| H P:39  M P:--  回避:28  ダメージボーナス:5d6
| 装甲:8ポイントの皮
| 触肢(6回) 50% ダメージ5d6÷2
|   +つかむ抵抗(STR抵抗判定)失敗時には口へ
| 咀嚼 100% ダメージ5d6(一人を呑み込んだ後なので、残りSIZ32まで)
| 隠れる60% 隠れているものを見つける50% 忍び歩き60%
不良グループとザイクロトルからの怪物が戦うが、一方的に不良グループがやられ、何人かは食われる。探索者たちはこれを目撃することで、ザイクロトルからの怪物とまっとうに戦っても勝ち目がないことを悟る。
目星の判定に成功すると、不良グループの男たちの攻撃は化け物の分厚い外皮に阻まれてダメージを与えられている様子がないが、一部焼け焦げている場所については外皮がボロボロになっていることに気づく。
アイディア・生物学・博物学・薬学・オカルト・クトゥルフ神話の判定で成功した場合には、相手は化け物だが特性としては外見通り植物に近いのではないかと推理できる。植物を枯らす効果のある手段を用いればダメージを与えられるのではないかとも。
目星または探す行動を行なった探索者はエスカレーターホール2階に彩香の姿を見つけることができる。吹き抜け構造の2階部分の手すりにもたれて下を見下ろすような姿勢になっているが、陰になっていて表情や意識の有無はわからない。

3-3. ザイクロトルからの怪物との戦い
探索者たちはザイクロトルからの怪物を排除して2階へ行かねばならない。

 ザイクロトルからの怪物に効果があるもの
(1)火
 火による攻撃を与えることで外皮にダメージを与え、装甲の効果を無効化できる。HPにはダメージを与えることはない。キャンプ用品のオイルや食品売場やフードコートで食用油などを入手可能。油をかけ、火をつける場合の成功判定は、こぶし又は投擲で行なう。化学・博物学・物理学に成功すると火炎瓶を作ることができる。火炎瓶の命中判定は、投擲+30%で行なう。火が付くとザイクロトルからの怪物は火に注意がそれるため、すべての判定の成功率が半分になる。この効果は他の修正と合わせて累積する。攻撃がスペシャル以上の成功だった場合、触肢を1d6本燃やすことができる。ファンブルした場合には、自分に火が付くことでダメージ1d3。
(2)塩水
 塩水を嫌うザイクロトルからの怪物の動きを鈍くすることができる。ザイクロトルからの怪物の判定の成功率はすべて半分になる。炎と違い、外皮には影響しないが装甲の効果と無関係にHPにダメージを与えることができる。塩はフードコートや食品売場で入手可能。
 バケツ一杯分の塩水のダメージは1d10。命中率は50%。
 水鉄砲等を用いた場合のダメージは1d6。命中率は70%。
 (バケツも水鉄砲も1回使うと塩水を入れなおすまで次の攻撃は行えない)
クリティカル時にはダメージダイスをもう一度振り、結果を加算する。ファンブル時してもペナルティは発生しない。
(3)除草剤
ザイクロトルからの怪物に対して最も強いダメージ効果を発揮する。上記の塩水同様バケツ等を用いて振りかけることで、著しいダメージを与えることができる。この攻撃は塩水と異なり、装甲の効果を受ける。
 バケツ一杯分の塩水のダメージは2d10。命中率は50%。
 水鉄砲等を用いた場合のダメージは2d6。命中率は70%。
 (バケツも水鉄砲も1回使うと塩水を入れなおすまで次の攻撃は行えない)
攻撃が命中した場合、ザイクロトルからの怪物はもだえ苦しむため、次の自身の行動ターンにて判定を行なうことができなくなる(攻撃できなくなる)。

ザイクロトルからの怪物を排除すると2階へ進むことができる。

4.シャンとの対決
「シャッガイからの昆虫」は彩香の脳に憑りついている。彼女の感じる恐怖を堪能するのが目的だ。彼女自身を操って探索者たちを殺そうとする(探索者たちの危機を彼女に見せて恐怖を感じさせる)。探索者たちが彼女を殺してでも止めようとした場合には、愛する家族に殺される恐怖を彼女に体験させることができるので、それも良いと考えている。
シャンは彩香の記憶を読めるので、彼女がアレルギー体質だということは知っているが、本人が自覚していないためエピペンを忘れたことには気づいていない。
4-1. 様子のおかしい彩香
 2階に上がってきた探索者たちを彩香は冷たく突き放す。「長命にして高度な知性を誇る我々にとって、君ら下等生物の感情はとても美味だ。なかでも恐怖と呼ばれる感情の味は特に濃密だ。この女の脳に憑りつくことで、家族や知人が怪物に殺される記憶をこの女に見せて、その苦痛や恐怖を堪能するつもりだったが、君たちは予想以上の力の持ち主だった。まさかザイクロトランを倒すとは。その能力に免じて、君たちに選ばせよう。この女に殺されるか、この女を殺すか。家族に殺される恐怖でも、家族を殺してしまう恐怖でも私としてはどちらでも良い。どちらも違った味わいがあって捨てがたい。さて、どちらを選ぶかね?」
 彩香の能力値は以下の通り。
| STR:9  DEX:9  INT:11 アイディア:55
| CON:10  APP:14  POW:14  幸 運:40
| SIZ:10 SAN:70 EDU:13 知 識:55
| H P:10  M P:14  回避:18  ダメージボーナス:0
| ナイフ(刺身包丁) 50% ダメージ1d6
 彼女の小麦アレルギーを利用した攻撃を行なった場合には、「知っているぞ、この女は小麦アレルギーだな。だが、いつも薬を持ち歩いている」とポケットを探る……が、無い。「なぜだ、なぜ薬がない。この女の記憶では確かにポケットに入れたはずなのに」彩香本人のうっかりした記憶違いまではシャンも把握できずに混乱する。そして、彩香は意識喪失して倒れる。
4-2. シャッガイからの昆虫
 アレルギーを利用したり、押さえ込んだりして彩香を無力化することができると、彼女の頭部から透き通るようにしてシャッガイの昆虫が現れる(SAN0/1d6)。その鳩程度の大きさの虫は、「予想を越える事態というものがあるものだ。我々(脳が3つあるため1個体でも複数形で語る)はこの土地よりもより安全な場所に移動することにした。もはや会うことはないだろう。さらばだ」と言い残し、不格好に飛び去ろうとする。放置すれば、そのままいなくなるが、これまでのいきさつから許せないと思えば攻撃して戦闘することもできる。
 シャッガイからの昆虫の能力は以下の通り。
| STR:2  DEX:31  INT:16 アイディア:--
| CON:2  APP:--  POW:17  幸 運:--
| SIZ:1 SAN:-- EDU:-- 知 識:--
| H P:2  M P:17  回避:62  ダメージボーナス:0
| 神経ムチ 50% ダメージ(MP抵抗判定)※ルールブック179頁参照
 攻撃されたシャンは不思議そうに「なぜ我々を攻撃する? 君たちの目的としていた女はすでに解放された。我々を殺す利点はないはずだ」と言う。感情のないシャッガイからの昆虫にとって、探索者が感情的・心情的にシャンを許せない気持ちについては理解が及ばない。別の人間が被害に遭うかもしれないから予防的に、という考え方もシャンには理解できない(別の人間は別の人間なので、被害を慮る利点がない。また、そもそも人間は人間同士で加害と被害を日常的に生んでいるが、予防的に殺すという考えは一般的ではない。その上、彩香を殺さずに解放したのに一方的にシャンを殺すのは整合性が取れない、と考えている)。シャンが勝っても探索者たちが殺されることはなく、虫は飛び去る。シャンを殺した場合には、「まったく感情のある生物の考え方は、我々にとって理解しがたい」と言い残して死ぬ。
4-3. 脱出
 シャンを殺した場合でも殺さなかった場合でも、シャンがいなくなってから彩香は目を覚ます。意識がはっきりしない様子で、ふにゃふにゃと「徹、いっしょにおうちへ帰りましょう。お姉ちゃん、怖い夢を見てたみたい」と話しかけてくる。一連の出来事に関して記憶は無いようだということがわかる(シャッガイの昆虫は憑依している間の記憶を彩香に戻さなかった。つまみ食いするように、別の恐怖の記憶を与えて楽しんだので、悪夢のような記憶は残っている)。
 エピペンを利用した場合、本来は医療機関への受診が必要だが、彩香がグズるのでとりあえず帰宅することになる。

5.真夜中の告白
彩香を救出したあと、真夜中に目を覚ました探索者①は暗闇のなかで「もうひとりの自分」と対話する。それは探索者①の脳に憑りついたシャッガイからの昆虫で、彼女の恐怖を消す代償として、これまで通り脳に憑りつき続けることを求められる。
5-1. 覚悟はあるか
 彩香と帰宅したあと、ついウトウトとしてしまった探索者①は寝静まった部屋に人影が佇んでいることに気づく。それが自分の姿だということに気づいて驚く探索者①に、向き合ったもう一人の自分が話しかけてくる。「毎回のこととはいえ、まずは落ち着いてもらいたい。問題が起きたので、我々の間の関係について再度確認を行なうべきだと考えて君の神経回路を操作して我々を君の意識に投影して話している。これは君の姿に見えているだろうが、実際にはそこに存在しない君の意識のなかだけのものだ。落ち着いてきたか? それでは本題に入ろう。我々が君の脳に入り4年、これで相談は5回目になる。今回、我々の同族が君の関係者に対し問題を起こしたことで、今後の君の生活や人間関係においてこれまでのような幸福な生活を脅かす事態が生じるかもしれない。我々は君の脳に棲み、幸福感という感情を味わう代償として君の生活が幸福であるよう便宜を図ってきた。具体的には周囲の人間の記憶を操作し、君との人間関係が良好に保たれるよう働きかけを行なってきた。我々は人間個人が意思決定を行ない、その結果が実を結ぶことで得られる幸福感こそがもっとも美味であると考えているため、それ以上の介入はなるべく行わないようにしている。これは君たち人間が養殖された生物よりも野生、すなわち天然ものの生物のほうが美味であると感じるのと同じ働きだ(従って今回の事件についても介入を行なわなかった)。君に姉を与えて幸福な日常を提供させているが、それは農作物を育てる際に畑を耕すのと同様、環境整備にほかならない。君の元の生活環境は暴力的で破滅的な父親と慢性的な栄養不足で幸福からほど遠いものだった。ちょうどよく姉と弟の二人暮らしという家庭を見つけたので弟を排除し、その立場に君を収めたわけだ。排除? ああ、もちろん君の身体を使って行なった。大丈夫、死体が発見されることはない。わかった、落ち着くまで待とう。……落ち着いたかね? よろしい、話を続ける。我々は問題が起きた際に必ず君に意思を問うている(意思に基づく決定の末に得られる幸福のためだ)。徹を排除する際も、君の意思を確認した上で実行したことは言うまでもない。君の幸福の障害になるから、その記憶は消してあるがね。今回の問題について、君に聞きたいのは我々にどのようにして欲しいかだ。姉の記憶を操作して事件の悪い記憶を消すのもよし、君の友人たちの記憶を操作して事件そのものをなかったことにしても良い。心配なら友人たちを排除するのもいいだろう。だがそもそも我々との協力関係自体に関して不満を感じるようになったのであれば、我々はその意思を尊重して君の脳から立ち去ろう。そうした場合、いずれ君が不正な場所にいることは露見することになるので薦めたくはないが、それでも我々は君の意思を尊重する。また新たな協力者を探せばよいだけのことだ」
探索者①は、自分の脳に憑りついているシャッガイの昆虫に自分の意思を伝えなければならない。

6.エピローグ
彩香を救うために周囲を(あるいは自分も)偽り続けて幸福に生きるか、本当の自分を取り戻し、これまでの幸福を捨てるか。
6-A. 幸福な日常
彩香姉さんがうっかり行先を告げずに友人と旅行に出かけたばっかりに失踪騒ぎになり右往左往したけれど、調子の悪かったスマートフォンが復活したら無事に連絡が取れたし、翌日には姉さんは帰宅した。それからは別に何も変わったことのないいつも通りの平穏な毎日だ。そうそう、大きな事件といえば隣町のショッピングモール跡地で白骨死体が見つかり結構な騒ぎになっていた。あとは本当に何もなく平穏な毎日。みんな笑顔で過ごす、平穏で幸福な毎日……。(シナリオエンド)
6-B. 露見
 「徹はどこ? あなた、いつからここに?」
シャッガイからの昆虫が与えていた偽りの幸福を拒絶した結果、彩香はおかしくなってしまった。何年も家出していたことになっていた探索者①は、アル中で破滅的な父親の元に戻されて、毎日死ぬほど殴られている。友人たちも君が精神を病んだ彩香を利用して偽家族として振舞っていたことに嫌悪感を抱き去っていった。自分の決断は正しかったのか、鏡に写る腫れあがった傷だらけの顔を見るたびに自問自答せずにはいられない。(シナリオエンド)。

◆おわりに      
 10時間で作成したシナリオで見直しもできていないので、「アラ」や「アナ」があるんじゃないかとは思いますが、クトゥルフらしいというかどう転んでもジメっとした終わり方になるシナリオなのでなかなか気に入っています(?)。どこがキングダムだ?!とお怒りで、ハッピーエンドで終わらせたい方は、エピローグ部を省けば、ハッピーエンドで終われますので、そのへんはキーパーにお任せします(個人的には、キングダムの「取り戻す」「強敵と戦わざるを得ない」「願えば叶う感」をホラー表現したつもりですが、結局”寄生獣”や”まどマギ”っぽくなっちゃいましたね、すみません)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?