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掌編小説や詩作

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#掌編小説

掌編小説「箱庭の孤独」

 『ジオラマ』と聞いて俺が最初に連想するのは、米津玄師が最初にインディーズで出したアルバム「diorama」だ。 『ここは誰かのジオラマなのだ』  って歌詞があった。  でも、実は『diorama』は英語では『ダイオラマ』と発音される。  ダイオラマ、だいおらま。  なんと間抜けな響きだろう。  何だか日本の昔話か神話に出てくるバケモノみたいな名前だ。  だいおらまぼっち、とか。 ——ん?  『だいおらま』は『ぼっち』なのか。  俺は自分で思いついた戯れ言に自ら妙な引っ

写真を見て書く掌編:「真冬の薔薇」

 真冬だというのに薔薇が咲いていた。と言っても歩道の脇に一輪だけで、しかも折れてて、他の花はもう枯れちゃったみたいだ。あたしは花の名前とか全然詳しくないけど、なんかこの花の気品というか、哀愁漂ってる感じ、でも茎にちゃんと棘があるのを見て、ああ多分薔薇だなーって思った。    前に一度、植物園的な所で薔薇園的なゾーンを見たことがある。県下最大っていう謳い文句は結構ホントで、薔薇だけじゃなく紫陽花とか珍しい花とかもあったけど、あたしはやっぱり薔薇に目を奪われた。あそこの薔薇は、

写真を見て書く掌編:「とこしえに」

 駅前広場にある時計の存在を、彼は最初無視していた。 広場にあるベンチに腰掛けコンビニで買ったサンドイッチを貪りながら初めて目を遣り、まだ二時ならゆっくり出来るな等と考えたが、会議が長引いて昼休憩を取れたのが二時過ぎだった。  慌てて腕時計を見ると、そちらは十一時半を指していた。混乱した彼はスマートフォンを取り出したが、液晶には午後九時十二分と表示されていたので彼は更に狼狽し、立ち上がって駅前のロータリー周辺の建物をぐるりと見渡した。一つの雑居ビルは古くさい電飾に時刻と気温

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#1 【掌編小説】音楽の実際

 音楽は僕のエネルギー源だ。実際問題として。  道を歩いている時もひとりで学食をいただいている時も、あるいは授業中でも、とても嬉しい時も、絶望の最中でさえも。実際問題として。  今、実際問題として、ヘッドホンから僕の両耳に注入される音塊は、脳の酸素とか血液とかセロトニンとかを適度に活性化させて、心臓に届いては血管から全身に行き渡り、手足に歩行を促せる。だから僕は人混みの多い駅前広場をもこうしてすたすたと歩いて、改札を経て山手線に乗ることができる。混み合った車内で僕より背の高い