何割かは自分を疑う

こだわりや思い入れ、あるいは自分の能力や見解に対する自負、現状の不足に対する義憤、こうしたものを持っているジャンルでの議論ではついつい熱が入ってしまうのだけど、それが行き過ぎて悪い方向に出てしまうときがあるのでその自戒。

心の内の何割かは自分が知らないだけ、あるいは愚かなだけかもしれねぇと思えていないと、自分の見識・見解をアップデートする機会を逃しやすくなる。それに、自説を押す姿勢が強いあるいは多いと、その姿勢を見た他者から「あいつと喋るとカロリー使うから本当は言いたいことあるけど今回は黙っとこう」などと思われそうで怖い。

自分を疑う余地がないと、意見が「完全に」一致しない他人からの指摘を受け入れることが難しくなる。たぶんその状態にある人は、ひとりよがりさとか傲慢さの類が出ていて、言葉の端々からは語気の強さが出てしまったりする。きっとその状態は愚か者と紙一重なんだろうなと思う。

怖いのは、そうした兆候は1か0かのものではなく、日常の会話のキャッチボールの中に潜んでいるということ。その場その場の会話・議論で「口出しようと思えるかどうか」のテンションにグラデーションがある。他人から見たときの自分が、そのグラデーション上で平均的に「必要な議論だと思うけどこいつ相手だとカロリー使うから黙っとこう」寄りに位置していたらすごく嫌だなと思う。行き着くその先は多分「裸の王様」だと思っている。他人は自分との議論を避けやすくなるので、見解を広げたり修正したりする機会もちょっとずつ逃していく。そして何年もかけて、気づかないうちに、ゆるやかに「話ができない奴」に向かっていくんだろうなと思う。

一度強いカードを切ってしまったら、後でそれを間違いと認めるのは難しい。「いや、自分は間違いを認められるし、謝れるから大丈夫」と思っていたとしても、それもきっと信用できない。それってあくまでお前の自意識、自己評価ですよね?周囲の遠慮・配慮によって成立しているコミュニケーションを自分の人柄や人格のおかげだと勘違いしてませんか?みたいなことを考えたりする。

かくいう自分も、仕事の側面であれば割と自分の間違った意見は撤回できる方だと思っている(自惚れかもしれない)。でも、今の私の環境には建設的な議論ができる同僚氏が多いと思うので、その前提ありきで初めてそう振る舞えてるだけで、お前自身はどれほどのもんなんだよ?と考えるとあまり自信はない。

完全に「間違った」意見なら、ある意味撤回しやすい部分がある(余計に引っ込みつかなくなるパターンもあるけど)。問題は「間違ってる」と認められるまでの過程で、おそらくここは相当に意識的に改善しづらい。

それに、間違いや正解を言い切れない、価値観の尺度が濃く出るトピックにおいてどこまで聡明になれるかどうか?という話もある。少なくとも IT エンジニアという職業では、だいたいの仕事における細かい意思決定はそういう性質があると思う。特にコーディングの世界だとそういう話は山ほどある。
で、正直これも今の自分では自信がない。

まあ、この文章の主旨は「自分の考えを疑え」なので、「俺は十分に好ましい振る舞いができてる!」と確信するほどの自意識・自己評価だったら逆に問題ありの兆候では?と思った方が良い。だから自信がないくらいが健全なのかもしれない。

冒頭で言ったような要素をひとくくりにするなら「自我」とか「こだわり」という言葉になるんだろうか??ともかく、自分はそういうものをどこか避けるように見ている節がある。これは、たぶん過去のやらかしの反動だと思う。

成人して間もないころ、「こだわり」に悪い意味で囚われてしまって、自分の主張を通そうと躍起になって、散々な有り様になってしまったことがある。その結果周囲との関係性がどうなったかはお察しである。そのころの自分の傲慢さや愚かさは思い出したくもないが、あれが今の自分の考え方の原体験だったんだろうなと思う。

ここに書いてる考え方の根源は上で書いたように過去の失敗体験なので、自分自身が健全であるためにそうしたいという前向きな意識の裏には「愚か者と思われたくない」「恥ずかしい間違いをしたくない」という後ろ向きな保身の気持ちが含まれている。保身的な意識が好ましくない方向に出てしまうこともあって、自分は思い切りアクセルを踏んで深入りしに行くようなアクションが割と苦手である。うまいことバランスを取って良い面だけ使い分けられたらどれほど良かったかと思うが、まあ、自身のトラウマに関わる話なので、なかなか克服は難しいと感じる。そういう両面の性質をひっくるめて自分の性分なのでだましだましやっていくしかない。

こだわりを持って仕事進めるのはすごく大事なことだし、それは大事な熱源なのでなくさない方が良いと思うのだけど、それとは別に自分の考えが愚かだった可能性はいつでも片隅に残して普段の言動を心がけたいし、柔軟に変化していける心持ちと、ちゃんと受容できる人間だと他人から見てもらえるような外ヅラでいたい。

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