Plot:1stシーズン*夏海の章
【プロフィール】
東京都多摩市生まれ。中堅商社の受付嬢。カメラマンの母と専業主夫の父。学生時代にNGOを立ち上げた長女と劇団女優の次女。周りから「夏海ちゃんの家族は変わってる」と言われ続け、友達とは違う自分の境遇がコン
プレックスになっている。その反動で「ふつうの結婚」「ふつうの幸せ」に憧れている、依存度高めの甘え女子。
【だって結婚したいんだもん】
28歳の誕生日。子どもの頃から「ふつうの結婚」に憧れている夏海は、2年付き合っている彼(智也)からのプロポーズを期待していた。
けれど結婚話の代わりに聞かされたのは、長野県茅野市へ転勤するという報告。しかも、「会社の寮に住むし、3年で戻るから、今のままでいようよ」と言う智也の言葉にショックを受ける。友達に「もうすぐ結婚」を匂わせている手前、遠距離恋愛になる訳にはいかない。
智也の反対を押し切ってネットで家と仕事を探し、カフェ・ロッコの住み込み店員のバイトを決めると、結婚資金用の定期預金を解約して勢いで茅野市に引っ越した。
こうして始まった初めての田舎暮らし。夕陽に染まる八ヶ岳には心癒されるけれど、都会に比べてゆるやかな時の流れや濃密な人間関係に戸惑う日々(虫にも!)。けれどカフェのオーナー梢ちゃんのおかげで、ドタバタな生活も少しずつ落ち着いてきた。
そんなある日、突然と日奈子(母)と成生(父)がカフェ・ロッコにやって来た。
【揺れる価値観】
突然訪ねてきた日奈子に「武装解除したの?」と不意打ちされて以来、夏海は心がザワザワする日々を送っている。東京の友達にはインスタで、「お洒落なカフェで好きな仕事をして、彼とも仲良くしながら人生を楽しむ毎日」をアピールしているけれど、自分を飾らず素直に生きる梢ちゃんに比べて自分の人生は薄っぺらいと思うようになる。
カフェに野菜の配達に来るそらも気になる。同じ歳なのに浮ついたところのないそらは、台風災害の夜も心強い存在だった。
田舎での出会いで夏海の価値観が揺らいでいく。そんな時、会社の都合で智也が急きょ本社に戻ることに。あんなに結婚したかったのに、「一緒に帰ろう」と言ってくれた智也に対して、なぜか素直に「うん」と言えない自分に戸惑う夏海。
答えが出ないまま智也とドライブに出かけた日、エコーラインの先に見える八ヶ岳にハッとする。幼い頃、成生の故郷・奄美で見たある風景に似ていたからだ。それは夏海の原風景でもあった。
【よく見ればわかる】
幼少の一時期を過ごした奄美の加計呂麻島。島の記憶が蘇ると、夏海の心はますますざわついた。おじいと一緒に海に沈む夕陽を見ていると、なぜか泣きたいような気持ちになった。夕陽に染まる八ヶ岳も夏海を同じ気持ちにさせる。「わたしは何に執着しているのかな」夏海は、今までこだわってきたものを一度手放してみようと思い立つ。もう少し茅野で一人暮らしを続けよう。夏海は初めて自分の意思で自分自身のことを決めた。自立の一歩として、そらに習いながら梢ちゃんの自家栽培を手伝うようにもなった。
9月、千秋を誘って八ヶ岳絵本美術館に行く。一冊の絵本をきっかけにお互いの過去をシェアする中で、千秋の「自由」や「ふつう」の価値観が夏海に刺さる。もっと話したいと思ったのに、千秋は「よく見るの。よく見ればわかるから」と置き手紙を残して立ち去った。
智也は時々、東京からやって来る。仕事や人生の話もするようになり、関係は深まっているように感じつつも、お互いの価値観の違いを意識するようにもなった。
【さよならふつう】
冬のカフェ・ロッコは静かだ。夏海はぼんやり考える。
ささやかな日常をだいじにしている梢ちゃん。自由に生きているように見える日奈子さんと成生くん。この地で自分と戦っているそら。自分なりの和菓子作りに夢中な紗雪。「よく見ればわかる」という千秋の言葉が蘇る。
自分はなぜあんなにも「ふつう」にこだわってきたのか? 夏海は茅野に来てからの色濃かった日々を振り返る。
4月。八ヶ岳は春めいてきたけれど、まだ少し肌寒い。夏海は意を決して、智也に隠し続けてきたメガネ姿でデートに出かける。息で曇るレンズを智也が指先でそっと拭いた。
冬の間にそらから野菜作りを学んだ夏海は、梢ちゃんの畑を借りて初めての自家栽培にチャレンジしようと計画中だ。まだ耕してもいない畑を写真に撮って、久しぶりにインスタに投稿する。
「茅野に来て二度目の春。知らない世界を見てみたい。もっと遠くまで行ってみたい。さよならふつう」