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『白花のゆくえ』

目の前で花が散った。

向こう岸に見えるあの人の姿が次第に遠くなっていく。

手を伸ばして腕を振るう。
花びらが扇状に舞って目の前が少し眩み、視界が白で染まった。


鬱陶しい花びらを手で掻き分けて、視界の向こうを追う。
この花は綺麗な花だったけれど、今は綺麗さなんていらない。ぐちゃぐちゃの姿でいい。だから、どうか、待って。










視界が開けたとき、もうあの人はいなかった。

地面には花びらが落ちている。端が少し茶になっていて、もうあの綺麗な面影はない。
グシャリとそれを踏んだ気がしたが、何も感じなかった。


見通しの良い景色が広がり、さっきまであの人がいたことなんて嘘の様に感じた。



「……せいせいした」



私の口からはそんな言葉が漏れた。

本当は「行かないで」と言いたかったのに。


2023/9/11

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