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【競馬コラム】武豊は何度でも帰還する

それほどまでに思い詰めていたのだろうか。
勝利騎手インタビューでの第一声で聞かれたのは、10年前の「あのセリフ」をセルフカバーしたものだった。

「ドウデュースも私も帰ってきました!」

13年にキズナで日本ダービーを制した時の「僕は帰ってきました」は本当に胸を打つものがあった。落馬負傷での大ケガがあり、復帰後は以前とまるで別人のように勝てず、強い馬が次々と彼のもとを離れていった。そんな中で巡り合ったディープインパクト産駒の期待馬で日本ダービーを制覇。誰もが「おかえり」と言いたくなるような復活劇がそこにあった。

対して今年はどうだろう。

ケガで2ヶ月の戦線離脱があったとはいえ、勝ち星は70勝を越え、春にはジャックドールで大阪杯を制すなど54歳にしてまだまだ健在ぶりを示す1年だったように映る。だが、本来ならもっと早く戻れたはずの負傷がなかなか癒えず、逆らいようのないフィジカルの衰えに焦りや苛立ちを覚えていたのかもしれない。「ドウデュースがいなかったら年内の復帰は諦めていたかも」というコメントも、人馬の絆を物語ると同時にこの人らしくない弱音のようにも聞こえた。先週に復帰を果たしたとはいえ騎乗数も最小限に絞っているし、まだコンディションはギリギリなのだろう。

だからこそ勝利の喜びもまた格別で、中山競馬場を包む祝福の声も大きかった。

序盤はゆっくり構え、2周目3角から早めのスパート。ドウデュース特有の小刻みなフットワークは、コーナリングも巧みにグイグイとポジションを押し上げていく。あっという間に3番手まで取り付くと、直線は前方を行くタイトルホルダーめがけて末脚一閃。坂を上がったところで先頭に躍り出ると、内から迫るスターズオンアースも抑えて復活のゴールへ飛び込んだ。

3歳時にイクイノックスを抑えて日本ダービーを制しながら、秋の凱旋門賞で大敗を喫し今春はアクシデントでドバイターフを無念の出走取り消し。そして秋には天皇賞→ジャパンCと完敗が続き、このまま消えていってしまってもおかしくない道のりを歩んでいた。ここで巻き返せるドウデュースもまた大したもんである。
来年は凱旋門賞再挑戦なんて声も。無理とかそんなもんは関係ない。この馬に携わるすべての人が夢見る舞台なのだから、行きたければ行けばよい。

苦難を乗り越えた彼らにはその資格がある。

2着のスターズオンアースもまたお見事。大外枠を引いた時点で詰んだ雰囲気さえあったが、抜群のスタートを決め早々に2番手を確保。テンに多少の無理をしたこともあって最後は少し甘くなったが、負けて強しとはまさにこのこと。今季はついに一度も勝つことはできなかったが、それでも充実したシーズンだったように思う。

タイトルホルダーは久々にこの馬らしい逃げ粘りが見られた。昨年の春、天皇賞→宝塚記念を圧巻の強さで制したことを思えばこれが本来の姿。胸を張って種牡馬入りできる。おつかれさま。

対照的に不完全燃焼に終わったのがジャスティンパレス。ある程度じっくり構えるのは仕方ないとして最後方待機はさすがに..ドウデュースが押し上げていったタイミングでも動けず、4角で大外を回る形になってしまうとさすがにつらい。横山武史はソールオリエンスを降ろされ、体よくこの馬とのコンビ継続が実現したとはいえ「汚名返上」とはならなかったどころか今後ますます信頼を寄せるには難しい騎乗をしてしまったように思う。

スルーセブンシーズは外枠でもタメて行ければワンチャン..と思っていたが引っ掛かってしまって不発。ジワッと出て流れに乗りたかった。
ソールオリエンスとタスティエーラの凡走は現時点での実力としか。やはり今春の牡馬クラシックはレベルが低かった。

馬券は週アタマからドウデュース本命と決めていたので単勝は的中。あとは馬連でスルーセブンシーズとジャスティンパレスの組み合わせだけ持ってたのでまあまあ..って感じかな。スターズオンアースまで拾おうと思うとだいぶ手を広げなければいけなかったので。

個人的に今年は過去イチで競馬離れが著しい1年だったけど、最後にまた心が震えるレースが見られたことで来年も楽しめそう。競馬ファンとしての魂を取り戻させてくれたのがレジェンドであったこともまたうれしい。

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