【ファンタジー・職人】あたたかな雪の光(760文字)

ラジオが遠方の初雪を語り出して、
ああそういえばここもこの数日急に冷えた、と思い当たる。
雪の日は近いのだろう。
となれば、私の冬の仕事が始まるということだ。


私はランプ職人をしている。
十八歳で弟子入りし、ランプを作り始めてもう七年。
一年前から独立してこの街に戻ってきた。

私が扱うランプはまあまあ特殊なもので、
季節ごとの特色を持つ、完全受注生産品だ。

冬のランプの予約はあと二、三件でもういっぱい
というところまで来ている。
独立したばかりとはいえ、
この辺りに同じようなランプ職人はいないので、
ありがたいことに商売繁盛だ。

冬のランプは特に人気が高い。
はじめて冬のランプを手にした人は春を待ちながら
それが部屋を照らすのを眺める。

次の年からは、そう、
このところのような冷え込みに合わせて
物置から引っ張り出してくる人が多いのだろう。

かくいう私も一昨日からテーブルに置いている。
私がはじめてひとりで完成させた冬のランプだ。

作業は分厚い手袋をして、というわけにはいかない。
ストーブで暖まった部屋でも
末端冷え性の私の手は冷えている。
それでもランプを手元に置けば
作業も快適に進めることができる。
私の冬の仕事のための大事な大事な相棒だ。

冬のランプの光は雪の力を使うが、
その光はとてもあたたかい。
光のやわらかさは雪を思えば連想しやすいと思うけれど、
この四季のランプを知らない人は
雪の力で照らすランプと聞いた時、
その光は冷たいものだと思うことが多いようだ。


四季のある場所であれば、
必ず冬の後には春がやってくる。
どうも雪は春に恋をしているらしい。
ランプにすると自分の持つ冷たさを発揮するのではなく、
その恋心が暖かく辺りを照らしてくれる。

と、師匠が言っていた。
本当のことは知らない。だけど。
その話が素敵だと思ったから、
私は弟子入りを決めたようなものだ。


あと少しで白い恋心が舞い落ちる。
私はその恋の力を借りて、
あたたかな光を灯すランプを今年もこの手で作り上げる。

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