見出し画像

HAYATO SUMINO CONCERT TOUR 2023”Reimagine” 【岡山シンフォニーホール】

2023年1月29日(日)16:00~
岡山シンフォニーホール
〖プログラム〗
《第1部》
J.S.バッハ:インヴェンション第1番 ハ長調 BWV772
ラモー:新クラヴサン組曲集 第2番 (第5組曲) 雌鶏、未開人
グルダ:プレリュードとフーガ 変ホ短調
角野隼斗:追憶
J.S.バッハ:主よ、人の望みの喜びよ BWV147
J.S.バッハ:パルティータ第2番 ハ短調 BWV 826
     I. Sinfonia
     II. Allemande
     III. Courante
     IV. Sarabande
     V. Rondeau
     VI. Capriccio
《第2部》
角野隼斗:胎動
角野隼斗:Human Universe
カプースチン: 8つの演奏会用エチュード 作品40
     Ⅰ. 前奏曲
     II. 夢
     III. トッカティーナ
J.S.バッハ:インヴェンション第13番 イ短調
カプースチン: 8つの演奏会用エチュード 作品40
     IV. 思い出
     V. 冗談
 J.S.バッハ:インヴェンション第4番 ニ短調
カプースチン: 8つの演奏会用エチュード 作品40
     VI. パストラール
J.S.バッハ:インヴェンション第14番 変ロ長調
カプースチン: 8つの演奏会用エチュード 作品40
     VII. 間奏曲
     VIII. フィナーレ
《アンコール》
久石譲:人生のメリーゴーランド
J.S.バッハ: 羊は安らかに草を食み
きらきら星変奏曲(Cateen Version)*撮影OK

【ドキドキが止まらない!】

いよいよ始まった、待望の全国ツアー。
昨年の全国ツアー時期はコロナ禍の真っ最中で、せっかく近くのホールに来てくれるのに泣く泣く諦め、闇落ちから当分抜け出せなかったものだ。

そして今回。
心底熱望し焦がれ続けていた初のソロコンサートにやっと行ける事になった。角野隼斗というピアニストを知ってから約4年、私が彼の生演奏を聴くのは、去年のポーランド国立放送交響楽団 来日ツアーに次いで2回目。
もうドキドキしないわけがない。何なら開催日が近付くにつれ、ドキドキし過ぎて胸まで痛くなり、連日寝不足になったぐらいだ。
しかし今回、それとは別のドキドキが直前まで付き纏っていた。そう、10年に1度という大寒波がやって来たのだ。

都会とは程遠い、地方住みの私。
新幹線発着の駅に行くには、車で峠越えをするか、ローカル線で行くかの二択で、それも風雪や積雪量によってはどちらもOUTの可能性が高く、そうなればもう岡山には行けない。ただでさえ年に1度行けるか行けないかのコンサート、これで駄目になったらもう立ち直れない……。
前日まで予報に無かった暴風雪が続き、半ば諦めかけていたけれど、当日朝、列車が動いている事を確認して一安心。これで彼の所まで行ける!!逸る胸の内をなだめすかし、列車に乗り込んだ。

【初めてづくし】

角野氏のソロコンサートが初めてなら、岡山シンフォニーホールに来るのも初めて。写真を撮り忘れてしまったが、ステンドグラスの素敵なホールだった。
そして今回の目玉、彼の初めてのグッズ販売!!勿論 全種類1つづつの4点セットで購入(トートバッグは直前まで悩んで黒をチョイス。白も欲しかったかも。タンブラー、2個買えば良かったなぁ)
無事にお宝もゲット出来て、ほくほくしながら指定の席へ。
ほぼ中央の、表情も手元もバッチリ見える良席に、動悸と顔の綻びが止まらない私(笑)
とても素敵なパンフレットを眺めながら待つこと暫し、ついに開演の時間となった。

素敵すぎて並んで写る勇気無し(笑)

【対極と融合 そしてその先へ】

今回のツアーで全体的に感じた事は『対極にあるものの融合と美』だった。
ステージは明と暗という巧みなライティングにより視覚と感情を効果的に高められ、プログラムそのものも、古典と近代・静と動という相対するものが違和感無く且つ美しく融合されていて、とても印象深かった。
『ジャンルの垣根を越えたピアニスト』とよく言われるが、全方位に興味のアンテナを立て、それぞれの音に真摯に向き合ってきた彼でこそのプログラムであり、それを成し得る所が彼の才能なのだと思う。
(これぞ正にReimagine~再構築!)

【2つの音色に魅入られて】

さて、ここからツアーの詳細に触れていこうと思うのだが、何せ日数が経ち脆弱な脳細胞の記憶が頼りなので、MCのタイミングや内容があやふやなのはご容赦願いたい。

万雷の拍手の中、颯爽と登場した角野氏。そして皆が大好きなあのお辞儀をし、最初の曲『インヴェンション』が始まった。
幾人かの方は『ねぴらぼ』を思い出されたのではないだろうか。そして勿論 私もその1人だ(あのシリーズは是非円盤化して頂きたい)

1度舞台袖に戻った後、再びの登場。そしてラモーとグルダを続けての演奏。
角野氏の指先から産まれる雌鳥が1羽2羽と増えていく様が面白い。
『未開人』とグルダは、マズルカが得意でリズムのある曲が好きという彼の面目躍如といったところか。ノリノリで、思わず此方の身体が揺らいでしまいそうになる。

そしてここで最初のMC。
去年のツアーに来てくれた方はとの質問から(手を上げられなかったのが悔しい笑)岡山はこれで3度目だと言う事。今回は右手からはアップライトの、左手からはグランドの手元が見える親切設計だという説明(こういうお茶目な所が好き)それからアップライトピアノの音色にハマっているという話。
本当に音楽というものに無知な私は、今までとても失礼な事に、アップライトピアノはグランドピアノの2番手という認識しか無かったのだが、角野氏のアップライトの音色を聴いてからは、その包み込まれるように柔らかでどこか懐かしい、優しくノスタルジックな音色が大好きになった。
勿論、グランドピアノの紡ぎ出す繊細で透き通った音色も大好きだ。そんな2つの音色を同時に体感出来るなんて、今回のコンサートの何と贅沢な事か。

MCの最後に次の演奏曲『追憶』を『ショパンとの想い出の曲です』と紹介された時に、胸に迫って泣きそうになってしまった。
やはりあのコンクールは、私にとっても特別なものだったから………。
けれども柔らかな闇の中 灯るライトを背に鍵盤をなぞる彼の音色に悲しさや悲壮さは微塵も無く、甘やかなノスタルジーは感じさせつつもただ優しく、広いホールを満たしていった。
続く『主よ~』『パルティータ』は
………はい。天に召されました。
目に映るのは、教会でパイプオルガンを弾く角野氏。少し物悲しくも美しく荘厳な……アップライトピアノってこんな音色も出せるんだ。
例えばフランダースの犬の最終回のように、天から一筋の光が射して、魂ごと連れ去られる様な感覚(本当に召されはしてないけど笑)
角野氏が退場し、第1部が終わり休憩に入っても、暫くは余韻が抜けなかった。この一連の流れ、反則でしょ。

【角野隼斗という宇宙】

休憩の間に舞台のセッティングがされ、今回のツアーの肝、2進数を表す4本のライトが立てられた。何人かの人達が舞台前まで近寄って撮影をしていると、係員の方が『撮影が終わったらお下がりください』とアナウンスされていたので、ここは撮影OKな会場なんだと安心し、私もパチリ。
勿論 演奏を聴きに来ているのだけど、やはり形として残っていると、後に鮮明に思い出す事が出来て嬉しい。

第2部の始まりは『胎動』
他の曲もだけれど、生角野氏が2回目(実質初)の私にとって、今まで画面越しでしか聴いて(見て)いなかった曲を目の前で弾いてくれているこの感激と言ったらもう泣
本物の力とはこういう事かと、深く納得。

ここで再びのMC。
宇宙と人の脳は似ているという話だったが、それを聴いて私の脳内に浮かんだのは、今も果てなき宇宙を旅するボイジャーだった。
地球の声を詰め込んだディスクを積んで、まだ見ぬ生命を探し、孤独な闇をゆく探査機ボイジャー。
未知なる宇宙を知る為に
未知なるヒトというものを知る為に
『僕はここに居るよ。もっと君の事が知りたいんだ。何処にいるの?逢いたいよ』
このMCの後に演奏された角野氏作『Human Universe』は、そんな壮大な宇宙の物語を垣間見せてくれた。
彼の内包する宇宙は深く広く、果てしない。
もっと知りたいという熱病に取りつかれた私は、生涯彼を追い続ける事になるのだろう。
こんな素晴らしい曲がこれきりで聴けないなんて、勿体なさすぎる!他のオリジナル曲と合わせて円盤化を強く希望(そればっかりだけど笑)

そして3度目のMC。
プログラム公開後に、ツアー開始前から話題沸騰だった2進数の話。こういった角野氏らしい理数系全開の仕掛けが楽しい。
かと言ってMCで聞かれたが、私は理数系はさっぱりなので、超ひも理論など理解が及ぶべくも無く、彼曰くの『ただそこにある音楽を楽しむ』事に専念するのみである(苦笑)

MCの後はいよいよクライマックス、カプースチンとバッハのスペシャル・ミックスゾーン!
何度も言うが、私は本当に音楽と縁のない世界で生きてきたので、ショパンやバッハは兎も角(しかし詳しくは無い)グールドやカプースチン等は、全て角野氏から知識を得たものばかりだ。
けれども少しの予備知識で、この組み合わせがどれだけ挑戦しているのかは分かる。そう、例えれば異種格闘技戦とでもいったところか。
それなのに、いざ演奏が始まってみると、一連の流れに違和感は一切無く、ただ踊る音符に身を任せる自分がいた。
ロマンチックな調べにうっとりし、トッカティーナでニヤリとし、彼お得意の、これもきっと皆が大好きな指パッチンを目の前で見られてまたニヤニヤして、ノリノリのカプースチンやロックなバッハに身体を揺らし。
あぁ、なんて楽しいんだろう!この時間が永遠に続けばいいのに………。

2進数を表す4本のライト。遠い昔に習った様な(笑)

【夢よ、あと少しだけ】

とうとう残すはアンコールだけとなってしまった。去年のNOSPRとのツアー同様、どうやら今回もアンコールが毎回変わるらしい。自宅待機組も、何度も会場に足を運ぶ人も楽しめる(本人も楽しんでいるのだろうが)仕掛けをいつも提供してくれる、そういう所がやっぱり好きだ(何度目の好き(笑))

まず1曲目、グランドピアノに向かって弾き始めたのは………わぁあ!ハウルだ!!
私が大好きな久石譲さんの曲を、大好きなピアニストが弾いてくれている。これ程贅沢な事があろうか。
続けて演奏されたのは、これもまた生で聴いてみたかった『羊は安らかに草を食み』
角野氏の繊細で美しく優しい調べに胸がいっぱいになってしまった。泣ける……。

ここで最終曲の前に、角野氏から一言
『撮影OKにすると拍手が小さくなっちゃって寂しいので、たくさん拍手して下さい』
(確かそんなニュアンスだったと思う)
皆がクスクス笑って、一気に柔らかな空気になった。本当にお茶目な人だなぁ、もう笑

そして奏でられた『きらきら星変奏曲』
時が変わる毎に、会場が変わる毎にブラッシュアップされる彼の音楽はまさに一期一会。
一つとして同じものがないから、目が離せない。叶うなら全部聴きたい、体感したい。叶わない願いだけど……。

鳴り止まない拍手に、最後はグランドピアノの蓋をそっと閉じ、胸の前で『もう弾けないよ、ごめんね』というように手を合わせて小さくお辞儀。

bravo!角野隼斗!!
貴方は私にとって、最高で最上のピアニストです。また絶対、聴きに来るからね。

【夢の終わりに】

こうして私の、初めてのソロコンサート体験は終わりを告げた。本当に、夢のようなひと時だった。
地方住みで休みも思うように取れない私が、次はいつ彼の演奏を生で聴けるかは分からない。
ほんの数年前までは、まさか自分が、クラシックでこんなにズブズブな沼にハマるとは思ってもいなかった。
けれども出逢ってしまった、規格外で無限の可能性を秘めた『角野隼斗』という音楽は、最早 私の人生の1部となり、私を支えてくれる大切な存在となっている。
だからこれからも彼の音楽と共に生き、その行き着く先を見届けたいと思う。
いや、終点なんて無いんだろうな。だって彼の音楽は、何時だって最新が最高なのだから。