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ポーランド国立放送交響楽団×角野隼斗【福岡サンパレスホール】

2022年9月13日(火) 19:00~
福岡サンパレスホテル&ホール

【演奏曲 】
バツェヴィチ:序曲
~Overture For Symphonic Orchestra~
ショパン:ピアノ協奏曲第1番ホ短調 作品11
ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調
                                 ~新世界より~
〖ソリストアンコール〗
角野隼斗:大猫のワルツ
〖アンコール〗
モニューシュコ :「歌劇ハルカ」第1幕 
                                    マズルカ
モニューシュコ :「歌劇ハルカ」 第3幕 
                                    高地の踊り

出演者 :ポーランド国立放送交響楽団
指揮:マリン・オルソップ
ピアノ:角野隼斗 

《序章:始まりのお話》

私はクラシックを知らない。

勿論 文字通りの意味では無く、昔から好きで聴いてはいたけれど、ただのBGM的な感覚でしか聴いていなかったのだと今なら思う。
本当の『クラシック』を知ったのは3年前の夏、角野隼斗という類稀なるピアニストに出逢ってからだった。

ほぼJ-pop以外の音楽や諸々の楽器というモノ全般に関わる事無く生きてきた私が、クラシックの『曲』自体ではなく『演者の音色そのもの』に惹かれたのは彼が初めてで、私にとってはかなりの衝撃だった。何?このキラキラな音色は。何なの?この美しい指の動きは。他の人とは全然違う、この人一体何者なの⁉️そう、まさに一目惚れ(一耳惚れ?)という奴。 私の、角野隼斗という新しいジャンルの音楽との旅が始まった瞬間だった。

彼の音楽との出逢いは、私の人生を変えたと言っても過言では無い。
これ以降 あれこれと動画を見漁って、あっという間に至福の底なし沼に落ちていくのだが、そうこうしている間にあの運命のショパンコンクールが開催される。

経緯はもう、沢山の方がご存知だろうし、私と同じく傷を引きずったままの方も多かったと思う。
そこにきて今回のこの全国ツアーの発表だ。
心惹かれる公演の殆どが都会に集中している昨今、地方住みの私はただでさえ行くのは困難な上に、コロナという厄介な敵が世界中に蔓延し、例え隣の県でも遠征をはばかられる状況に。結局 これまでどの公演にも行く事が叶わず、どれ程の絶望感を味わってきた事か.....。
けれども角野本人に『完結』と言わしめたこの公演だけはどうしても諦める事が出来なず、悩みに悩んで行く事を決断したのだった。
そして遂にやってきた、今日この時。口から飛び出しそうな心臓の鼓動を何とか宥めつつ、指定の席に着く。彼の音楽と出逢ってから3年、焦がれ続けた初めての生角野氏とその生音にやっと逢える...。
さあ、夢にまで見た舞台の幕開けだ!!

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ホール入口外観

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持参のオペラグラス必要無し!お顔も手元も見える良席✨

《第1楽章:
バツェヴィチ/序曲~Overture For Symphonic Orchestra~》

高揚感と緊張感。いつの間にか、祈るように胸の前で組んでいた手に力が入る。
そうこうしている間に開演のブザーが鳴り、注意喚起の放送の後に団員の皆様がステージに登場。か、格好良い!!
海外の方なので体格がいいというのもあるだろうが、楽器を携えて颯爽と入場される姿に惚れ惚れしてしまった。
続いて指揮者オルソップの登場。間を置かずに演奏に入る。
さあ、行くよ!と言わんばかりの、力強く華やかなメロディ。丁寧な音だなというのが、私のこのオケに対する第一印象だった。(ここからは基礎も何も知らない素人の言葉だとご笑納下さると嬉しいです笑)
勿論、丁寧だからと縮こまっているとかそういう意味では無くて、しっかり統率がとれているというか、まとまっている、みたいな感じ?そしてアップテンポの時のオルソップの指揮する後ろ姿が、まるでリズムに乗って踊っているようで、見ていて楽しい。こういう所が、リズムのある曲が好きと言っていた角野と気が合うのではないだろうか。
曲の終わり、ジャン!と弦楽器の弓を皆が一斉に振り上げた所でもう一度
『か、格好よすぎでしょ!!』
1曲目でもうこのオケの虜になってしまった私、簡単ぎじゃない?(笑)

《第2楽章:ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調 作品11》

いよいよこれを聴く時がやってきた。緊張はMAXに(私が演奏する訳では無いのに)
第1楽章。
重厚で哀愁に満ちたオケの響きに、ステージがふっとあのショパコンの舞台に置き変わった。心臓がきゅっとなる。
この痛みは故郷を離れるショパンの痛みなのか、あの時の私の心なのか、それとも...。
けれどもピアノの最初の1音を聴いた途端、すっと痛みが消えた。
そこにあるのは、ただ無心にショパンと向き合う1人の音楽家の、真っ直ぐで真摯な音だった。曲調がどんなに哀愁を帯びていようと、そこに流れているのは、愛。
この曲への愛、ショパンへの愛、そして音楽というもの全てに対する愛。
あぁ
これで漸く、私の呪縛も解き放たれた気がする...。

続く第2楽章は、角野の音の粒立ちが遺憾無く発揮された、素晴らしい音色だった。
きらきらと輝く朝露のような、眩い光を放つ宝石のような、繊細で夢見るようなピアノの音色。儚げで、けれどもしっかりと心に届く弱音。
途中、オルソップが角野を振り返り、ふっと優しい笑みを見せたのが印象的だった。

そして第3楽章
角野の指が鍵盤の上で軽やかに踊る、踊る。まさにお得意、本領発揮といったところか。
オケとの一体感も素晴らしい。先に行かれた皆様が、ピアノに寄り添うように包み込むように等と言われていたのが良く分かる。
Instagram等に沢山アップされているオルソップとの写真に滲み出ているように、2人の相性もピッタリなのだろうと思える音だ。
最後の1音
私のショパコンが昇華された瞬間だった。


《3楽章:ソリストアンコール・角野隼斗/大猫のワルツ》

『自分が楽しいと思った事をやる』
角野は何時もそうだ。そしてそんな彼に巻き込まれて、皆が自然と笑顔になる。
会場毎に変わるソリストアンコール、わくわくしながら待っていると
『僕の曲、大猫のワルツを弾きます』(だったかな?)と言ってすっとピアノに向かう。
特段のアレンジは無し。けれどもやはりこの曲を生で聴けたことが嬉しい(本当はパヴァーヌか追憶・胎動を聴きたかったのは内緒)
弾き終わり、深々と2度のお辞儀。
格好付け過ぎない、ちょっと可愛らしい(と言ったら怒られるだろうか)このお辞儀の仕方が好きなんだよな。

《第4楽章:ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調 作品95~新世界より~》

『新世界』というのはアメリカの事で、アメリカ=新世界からドヴォルザークが故郷ボヘミアを想って書いた曲だそう。
各所で存在感をみせる管楽器の勇壮な響きは、故郷を離れ意気揚々たるドヴォルザークの心情なのだろうか。力強いその旋律に、新天地で一旗上げてやろうという気概が感じられる気がする。
この作品の各所で、印象的に使われているホルン。
『遠き山に日は落ちて』の邦題で有名な第2楽章では、第1楽章とは打って変わって、郷愁を誘う音色を奏でている。この柔らかな音色の響き、好きだな。

曲が激しくなるにつれ、オケの音の迫力に圧倒される。音を浴びるとはこういう事か。
生オケのコンサートは初めてだったけど、この一夜ですっかり虜になってしまった。兎に角格好良い(語彙力)初めてがこんなに素晴らしいオケだなんて贅沢だな、自分。

《第5楽章:アンコール・モニューシュコ /「歌劇ハルカ」第1幕 マズルカ、第3幕 高地の踊り》

何でも終わりというのは寂しいものだ。
この素晴らしい夢のような1夜も、もうすぐ終わってしまう...。
そんな気分では帰らせないよ、という訳では無いだろうが、始終 少し大人しめなスタオベの後に(初心者なのでタイミングがよく分からなくてごめんなさい)アップテンポの軽快なリズムのこのアンコール曲が、最後まで笑顔でいさせてくれた。
テンポが上がると、オルソップの動きも上がる。また、あの踊るような楽しそうなノリノリの指揮。こちらまで身体が揺れそうになる。いや、実際揺れていたかもしれない。
クラシックって本当に、こんなにも格好良くて楽しいものなんだなぁ。
角野さん。貴方の想い、沢山の人に届いてますよ!

《終章:終わりは始まり》

こうして私の、奇跡のような1夜が終わりを告げた。
私が角野の初の生音を聴けた事を、心から喜んでくれたフォロワーさん達には、もう感謝しかない。
正直、こんな機会はもう何度も無いだろう。けれどもこの日、この身体と魂全部で受け止めた音が消えてしまう事も決して無い。
それ程までに、憧れ続けた角野の初めての音色は特別だったし、極上のオーケストラにも魅了された。

彼らの音楽はまだまだ続く。
そしてそれを追い求める私の旅も、まだ始まったばかりなのだ。