法務の価値は何に基づく?#LegalAC

このnoteは、法務系Advent Calendar2023のエントリーです。GVA時代の後輩、Tatsuro Yamadaからバトンをいただきました!


はじめに/自己紹介

みなさま初めまして!弁護士の仲沢と申します。略歴は以下のとおりです。

  • GVA法律事務所でスタートアップ支援

  • GVA TECH株式会社でプロダクト開発、PMM、リーガル部門統括etc...

  • 独立開業(スタートアップ・ベンチャー専門の一人事務所)

今年の9月1日に独立開業したので(GVAの皆様には本当に感謝です。この場を借りてお礼申し上げます。)、独立体験記を書こうと思っていたのですが、まだ3ヶ月。早い。シフトチェンジして、最近の頭のもやもやをそのまま書き出してみようと思います。

すなわち、「法務の価値は何に基づくか」です。

「法」とは?

一つ目のもやもやは、「法務」の「法」ってなんぞや?という点です。
私は、「法」=「現実の利害調整ツール」だと理解しています。

誤解がないように付け足すと、この理解は「法」の価値を低くみているわけでも、高くみているわけでもなく、シンプルにそう思っているだけです。

法律は、事前にルールを示すことで、揉めごとや不公平な結果によって集団生活に問題が生じるのを予防したり、問題を起こした人を罰することで同種の問題を予防するためにあると理解しています。言い換えると、法を「機能ベース」で理解していると言えそうです。

一方、「法」は「世の中でこういう価値が実現されるべき」「こういう社会であるべき」という現在の多数派が考える社会や価値を示すツールでもあるとも思っています。純粋なロジックではなく、「こうあってほしい」「こうあるべき」という「価値」を示すものという理解です。

そして、両者は矛盾せず、両立すると思います。こうあってほしいという実定法に込められた価値(たとえば、自由市場や公平な競争が良いこと、データの活用促進は必要だがプライバシー保護と調和を図る必要があること等)は、現実の利害調整の結果であり、社会が推す価値が達成すべきゴールとして示されます。自由主義、民主主義などは最たる例です。

「法務」とは?

ここまでの「法」とは?から飛躍が著しいですが、そんな「法」の冠がついた「法務」という職種とはいったい何なのでしょうか?
見渡すと、会社や法律事務所で以下の業務等に従事する人は法務パーソンと呼ばれています。

  • 契約書チェック

  • 規程類の作成・管理

  • 各種レギュレーション対応

  • 紛争・訴訟

  • コーポレート

  • M&A等

  • ルールメイキング

  • 知財業務

  • etc…

では、こうした仕事の価値は何に基づくのでしょうか。
ここでも2つの立場があると思います。一つを「独自価値説」と呼び、もう一つを「企業価値説」と呼びましょう。

まず、独自価値説は、「法務自体に独自の価値がある」という立場です。
例えば、法令を守るため、事業部の暴走を止めるため等、主に社会に及ぼす悪影響を小さくすることなどを価値の源泉とします。

他方、企業価値説は、「会社の目的=事業の目的=法務の目的」と捉え、法務の価値はその仕事が生み出す利益に基づくと考える立場です。建前上、株式会社はゴーイングコンサーンであり、利益の獲得を目的とする組織です。(昨今「パーパス」という形で、利益以外の存在理由を掲げる企業が多くなっています。個人的には好きな考え方ですが、今回は捨象します。)

その一機能である法務も、その成果がどれだけ利益に寄与したか、で価値が決まる立場ともいえます。いわゆる「攻めの法務」と言われるものは、大なり小なりこうした考え方が背景にある気がします。

法務と財務諸表

企業価値説の一例として、法務業務と事業の結果たる財務諸表との関係を考えてみたいのですが、、、私の頭では足りないので、ChatGPTに聞いてみました。回答結果は以下のとおりです。
※飛ばしてOKです※

【バランスシート(B/S)への影響】
■資産の保護と増加
知的財産権の取得・管理
::法務部門は特許や商標の取得と管理を担当し、これらの無形資産がバランスシート上で適切に評価されるようにします。例えば、新技術の特許を取得することで、企業の無形資産価値が増加し、それがバランスシート上の総資産に反映されます。
■負債の最小化
リスク管理
:契約交渉におけるリスク管理は、予期せぬ負債や賠償責任の発生を防ぎます。適切な契約書の作成と監視により、潜在的な訴訟リスクや違約金などの負債を抑えることが可能です。
訴訟回避:効果的な法的対応と紛争解決は、企業が直面する可能性のある法的負債を軽減します。例えば、特許侵害の可能性がある場合、事前のリスク評価と交渉により、訴訟による費用と損失を避けることができます。

【損益計算書(P/L)への影響】
収益の保護と増加
契約管理
:法務部門が交渉し、管理する契約は、安定した収益流を確保します。例えば、長期供給契約やライセンス契約を通じて、安定した収益を損益計算書上で確保できます。
■損失の最適化
紛争解決
:商取引における紛争解決は、収益の損失を防ぎます。例えば、顧客との契約違反問題を迅速に解決することで、収益の損失を最小限に抑えることが可能です。
■経費の最適化
法的費用の管理
: 訴訟やコンプライアンス違反に関連する法的費用の管理は、損益計算書上の経費を最適化します。例えば、外部法律顧問の適切な使用や内部リソースの効率的な活用により、法的費用を抑制できます。

キャッシュフロー計算書(C/F)への影響】
■キャッシュフローの維持と最適化
契約交渉
:法務部門は支払い条件や違約金条項などの契約交渉を通じて、キャッシュフローを最適化します。例えば、支払い条件の交渉により、キャッシュフローを安定させることができます。
紛争の迅速な解決:紛争や訴訟が長引くと、それに伴う費用がキャッシュフローに大きな影響を与えます。迅速な解決策を見つけることで、これらの費用を最小限に抑え、キャッシュフローを保護します。
■投資と買収のサポート
デューデリジェンス
:買収や合併の際の法的デューデリジェンスは、投資のリスクを評価し、キャッシュフローへの影響を分析します。例えば、買収対象企業の契約書の分析を通じて、将来的なキャッシュフローへの影響を評価します。

以上の分析により、法務部門の業務が企業の財務諸表に及ぼす具体的な影響が明らかになります。法務は単なる法的問題の解決者ではなく、企業の財務健全性を維持し、成長を促進するための重要な戦略的パートナーであることが理解できます。

ChatGPTの回答

一瞬わかったような気にさせられますが、わかりません(笑)。ただ、法務業務はいずれも財務諸表のどこかへ反映できそうな感じはしますね。

特に、①売上の最大化②損失の最小化③コストの最適化に分類して考えてみると、これらは利益の構成要素であるため、法務業務を会社の目的たる「利益の獲得」に引き直すことができそうです。これらは主にP/L観点ですが、さらに検討を深めるためには、B/Sの観点からも法務の寄与度を測る必要がありそうです(また別の機会に時間をとって検討してみます)。

(イメージとしては↓の法務版を書きたいです…!!)

法務が行う会社への貢献

ここまでのごった煮の内容をまとめます。
企業価値説に立つと、「会社の目的=事業の目的=法務の目的」であればあるほど、法務の評価が高まりやすそうです。そして、表向き、株式会社の究極の目的は利益の創出です。であれば、利益に貢献する度合いが高い法務(or 事業部が「やりたいこと」を実現できる法務)が高く評価されるのではないでしょうか。
具体的にそれは何だ?というと、次のあたりはイメージしやすいかもしれません。

  • 知財 ∵法務コストではなく、事業投資と位置づけ可能

  • レギュレーション対応 ∵事業の成立条件

  • M&A ∵新たな収益源獲得に繋がる

  • 独占禁止法 ∵M&Aの成否にも影響を及ぼす

  • ルールメイキング ∵新しい市場を作ることができる

大穴として、「補助金・助成金」の申請代行業務はもしかしたら法律事務所のサービスとしてメジャーになるかもしれません。なぜなら、費用対効果が明確で、クライアントの利益を確実に大きくできる数少ない業務だからです。私自身は行っていませんが、実は注視しています。

逆に、過度なリスクマネジメントが会社の利益に与える影響は実は小さいかもしれない、、ということを頭の片隅におくと、業務として深掘るべき対象が変わり、会社貢献度を変えられるかもしれません。

例えば、契約書レビュー業務などは、売上を請求する根拠になるのでとても重要な業務です。しかし、ほとんど生じ得ないリスク排除までやっきになって時間をとり・何往復もしても、会社の利益を増やしはしません。極端な例ですが、10万円の取引のために、法務が3時間もかけていたら、会社としては赤字の可能性があります。

事業部と法務

荒れたら嫌だなと思うのですが、もやもやを吐き出すという本noteの性質上、簡単に書きます。法務は事業があってはじめて存在することができますが、事業は法務がなくても存在可能です。
この先後関係について、私自身目を背けず、事業貢献に基づいて法務価値を語れるように仕事をしたいです。自戒でしかないです。

他のバックオフィス部門と法務

財務、会計、税務の場合、ダイレクトにお金を取り扱います。そのため、会社の目的たる利益との関係がわかりやすいです。
他方、法務の場合は、お金の話になるにはワンクッション要するため、より利益への貢献を可視化するハードルが高い職種です。CFOは沢山いるのに、CLOが少ない理由もこの点に起因しているかもしれません。

アメリカなどのように巨額の制裁金があったり、カジュアルに訴訟するお国柄であれば利益・損失の形でダイレクトに経営陣の関心毎になるのになぁ、、、といっても日本はそうではないので、より会社(ひいてはその顧客)への貢献を意識する必要がありそうです。

まとめ

①売上向上、②損失低下、③コスト最適化、今、自分はこの中のどれを狙っているか、事業部がやりたいことは何かを意識することで、利益に繋がる法務成果を上げることができるかもしれません。

そのため、以下の点を志向した業務スタイルへ変化する必要性を感じています。

  1. 法務をコストから投資に変える業務に注力する。

  2. 法務論点の抜け漏れなし(だけ)から、利益インパクトを意識したメリハリのある仕事をする。

  3. 事業部同等のマインドをもって、数字や利益に敏感になる。

本noteを書く中で、一時期よく耳にしたものの、最近あまり聞かない言葉として「法務経営」を思い出しました。個人的な解釈ですが、経営陣が意思決定において重要と考える指標=数字・利益にインパクトを与える法務成果を出すことが、「法務経営」の言葉で伝えたいことだったのかもしれません。


以上、乱文をお読みいただきありがとうございました。
来年は、法務という仕事について、よりスタンスをとって取り組みたいと思います。両方大事なのだと思いますし、一番は顧客の利益を最大化する仕事がしたいなと思っているのですが(パーパス説?)、この機会に少しでも言語化できたことで、もやもやがスッキリしました。

金子さん、良い機会をありがとうございました。

明日は新天地で活躍中の森さんです!


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