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【ガーデン・ドール】太陽を探して春を漂う (2024.02.03)

ここ数日、夜な夜な魔法の練習をしている。
授業も一応ちゃんと聞いているんだけど、魔力の計算や効率とかはむずかしくてさっぱりわからない。
できるかどうかはなんとなく。感覚だ。

浮遊魔法がなかなかうまくいかない。
物を浮かすことはできる。任意の高さで留めることもできる。だけどそれを移動しようとするとふらふらと、あっちゃいきこっちゃいき思わぬ動きをしてしまう。わたしが。
机にぶつかり、ベッドにつまづき、浮かせたキラキラ玉に頭をぶつけて涙目になる。ここまでが最近のパターン。
どうやらわたしはすごく不器用らしい。
ただ、動かせないのなら動かないことを使う方法を考えればいいのだ。
そうだ、いいことを思いついちゃった。


朝、いつもよりご機嫌にLDKでおとうふを食べていると

「シャロンくんみてない?!」

ククツミちゃんが大声で飛び込んでくる。ククツミちゃんの大声初めて聞いたな。
ナハトちゃんが駆け寄って落ち着かせようとしている。けどククツミちゃんは取り乱したまんまだ。
どうやらシャロちゃんが居なくなったみたい。
こらえきれなくなったのかククツミちゃんが飛び出していっちゃった。ナハトちゃんもついて行った。

あのシャロちゃんが?いつも明るくて、みんなの太陽みたいだったあのシャロちゃんがいなくなった?
それはよくない。太陽がいなくなってしまえば、みんなの「楽しい」が照らされなくなってしまう。
「わたしも探しに行ってくる。とりあえず春エリア行ってみるね!」
部屋にカバンを取りに行って春エリアに駆けだしていく。



春エリアはポカポカと温かい。キラキラとした木漏れ日が心地いい。
何かいやなことがあったなら、こういうところに癒されに来るかもしれない。
そう思って捜索を始めてみたものの、全く見つからない。
木々の間や上、くぼみ等至る所を探していたら気付けばお昼を過ぎていた。

「うん、こっちにもいない。次はあっち!」

だんだん疲れてきたのを声を出して誤魔化す。すると、後ろで「かさっ」と音がした。

「シャロちゃん!?......じゃなかった」

そこに立っていたのはヒマノちゃんだった。

「ヒマノちゃん、シャロちゃん見てない?」
「はいヒマノですー。屋上からゲームセンター付近を飛んでここまで来ましたが、まだ見てないですねー。そちらはどうですかー?」
「そっかぁ......朝からずっと探してるけど、たぶん春エリアにはいなさそうだねぇ......ん?」

そういいながら何かが引っかかり首をかしげる。

「あら、そうなのですねー。上空から見てもさくらさん以外の人影は無かったのでここにはいない気がしますねー」
「飛んで?」

そう、今『飛んで』『上空から』といったのだ。
え?ドールって飛べるの?この羽にはそんな機能ないのに?

「はい、浮遊魔法で上から探してました。」
「そっか、魔法って使い方によっては飛ぶこともできるのか」

顎に手をあて思考に沈む。
魔法を自分にかける。その発想はなかった。浮遊魔法をかけた後自分が動いてしまうなら、自分に浮遊魔法をかければ空中でも動けるのでは?
いや、でも思ってもいない動きをしてしまうのだから自由に動けるわけではないか。

「浮遊魔法は出力で移動もできますが、浮いてる状態、例えばジャンプしたタイミングでかけてあげると少ない魔力で上に行けるんですよー。」
「なるほどねぇ。ふむ......いや、今はシャロちゃんの捜索のほうが......でもでも......」

ぶつぶつと独り言を吐き続ける。罪悪感と興味の天秤が揺れ動く。
その様子をヒマノちゃんは静かに見守ってくれている。
そして

「ねぇヒマノちゃん、今ちょっとわたしに時間をくれない?」
「はい、いいですよー。」
「ありがとぉ。捜索はちょっと休憩~」

興味には勝てなかった。
シャロちゃんごめん。探し続けてるみんなもごめん。


木陰に座りお話をする。

「それで、ぼくはなにをすればいいですか?」
「んとね、魔法の使い方、というかとらえ方?を聞いてみたいんだぁ。授業は数字ばっかでよくわかんなくて......」

授業はいつも眠くなってしまう。

「魔法の使い方、ですかー。ぼくのやり方が参考になるかは分かりませんが......」

そういって語り始める

「まず、かけたいものか自分に魔力を少しまとわせます。次に使いたい魔法とどういう強さで使うかをイメージします。最後に魔力を望む形に変えて発動する、みたいな感じでしょうかー。…...大事なのは自分がそうしたいと思うイメージです。頭で思い浮かべればある程度はその形になるので、あとは練習あるのみです。」

なる...…ほどぉ?

「…...ぼくの魔法は一回魔力をまとわせる都合上、他のドールには全く使えないんですよ。だから恐らく他の子達とは考え方が違うんだと思います」

ん~と、つまり

「対象に直接魔法をかけるんじゃなくて、魔力で器を作ってそれを魔法にする、感じ?」
「はい、ぼくはそんなイメージで魔法を使ってます。多分他の人と違う気がしますけどね。イメージを固めたい場合は言葉でイメージを補強することもありますねー」

そういうとヒマノちゃんは立ち上がる。

「ぼくは魔法を放つ、というのがどうしてもイメージできなかったもので。実際にやってみましょうか」

そういって目を閉じるとヒマノちゃんがふわっと浮いた。

「こんな感じです」
「おぉ~」

地面に降りたヒマノちゃんに拍手をする。

「まあこれの問題は、他のドールの魔力が混ざると自分の魔力を魔法に変えるイメージがつかないので念話ができないということでしょうか。ぼくはものを媒介にしてしか念話ができません。」
「魔力が混ざるのがよくないってことは、飛んでるときに念話が来たら落ちちゃうの?だとしたらだいぶリスキーだよねぇ」

ヒマノちゃんがちょっとびっくり顔になる。

「あー......言われてみれば確かに。無意識にそこは頭以外の魔力を厚めにしているかんじですかねぇ......いや、浮遊魔法に影響ない部分で念話を受け取ってるのか?この角とか......」

今度はヒマノちゃんが思考に沈む。

「んー…...そっか、確かに念話は普通に受け取れてますね......やっぱり無意識に棒から内容を受け取っている?」

わたしにはわからない感覚で悩ませてしまった。

「完全に魔法だけで飛ぶのは、わたしにはムリだなぁ」

重いものを浮かせるのはすごく疲れる。

「なるほど、ところで浮くことはできますか?全身にまとわせて水中に浮くイメージで。それができればあとは蹴り上げれば上に進む気がします」
「短時間ならできると思うけど、ドールほど重いもの浮かせるのはすごく疲れるんだぁ」
「あー。たしかに浮遊は重さと強さで魔力の消費が変わりますものねー。でしたら全身を包むのではなく下半身に厚めに魔力の器を作ってそれに乗るイメージとかどうでしょう?」

なる......ほど?
いろいろ考えてくれているが実はあまりよくわかっていない。実体のない魔力に乗るってなんだ?

「わたしが思いついたのは、踏み込むタイミングで靴に一瞬強く浮遊魔法をかければ空中歩行ができるんじゃないかなぁって」

今朝思いついた良い事とはまさにこれなのだ。

「ぼくも一瞬強めに靴にかけつつ全身を保護してうまくみたいなことはたまにやります」

なるほど、これは実例があるんだね。いいことを聞いた。

「人によって魔法のイメージはそれぞれですから、自分にとってのやりやすい形がみつかるといいですねー」
「うん、いろいろ試してみるよぉ。時間くれてありがとねぇ」
「いえいえー。でしたらぼくはこれでー。」

そういって浮き上がって、一旦降りてくる

「そうそう、浮遊魔法は魔力消費が激しいのでちゃんと魔力供給はしてくださいねー」
「はぁい」
「ではではー」

そういうと今度こそ地面をけって空に帰っていった。



再びひとりになった。今ならだれも見ていないから空中歩行の練習してもいいんじゃないだろうか。失敗しても誰にも見られる心配はない。

その辺に落ちていた枝を拾い上げ手のひらに置き、浮遊魔法をかける。
イメージは『びゅんっ』
一瞬の魔法で持ち上げられた枝は魔法が切れてからも慣性で高く飛んでいく。
思った通りの動きをしてくれた。
地面に落ちた枝を今度は手で押さえつけてもう一度浮遊魔法をかける。
抑えつけた手に強い抵抗を感じるが手が持ち上がるほどではない。
もう一度、今度は『ぎゅんっ』てイメージでかける。
すると手が5㎝ほど押し上げられた。
この細い枝でも手を押し上げられるのだ。クツにかければ空中を歩けるようになるだろう。
わくわくが抑えきれずに試してみる。
右足を前にだし、おろすタイミングで靴に『ぎゅんっ』と浮遊魔法をかける。

空が見える。心なしか日が傾いてきた空。はて、どうしてわたしは空を見ているんだろうか?
起き上がろうとすると頭がずきっと痛んだ。

「いてててて」

あわてて頭に手を当てる。ケガはしていないようだ。どうして......

「あ、こけたのか」

どうやら靴にかけた魔法が強すぎてひっくり返って頭を打ったようだ。

「ふむ、いきなり『ぎゅんっ』はやりすぎだったかぁ。ちゃんと段階を踏んで調整しなきゃねぇ」

最初から足を上げていたのもよくなかっただろう。ちゃんと地面を踏みしめて、右の靴に『びゅんっ』と魔法をかける。
持ち上がるほどではないが確かな抵抗を感じる。
踏み込んだ時に沈まなければいいのだから『ぎゅんっ』では強すぎたのだろう。
今度は普通に歩きながらやってみよう。
地面に足が着く直前にクツに魔法をかける。すると右足は一瞬地面につくことを拒むが左足より先に地面についてしまう。

「とりあえず成功、かなぁ」

歩く程度のスピードでは次の足が出るより先に地面についてしまうが、走ればなんとかなりそうだ。
ようは足が地面につくより先に次の足を出せばいいのだ。
ただそうすると今度は魔法のタイミングが難しくなってくる。
とりあえず魔法なしでその辺を走ってみる。

「ほっほっほっ、ほっほっほっ」

連続で魔法が使えそうなペースを見つけてしばらく走る。

「ほっほっほっ、ほっほっほっ」

そして魔法をかけた足音が消えた

「おぉ!?」

感動したのもつかの間。バランスを崩してこけてしまった。
これはかなりコツが必要みたいだねぇ。
そのあとも何度も転びながら空中を走る練習をした。

もう何度めかもわからないほどこけた時、ふと見上げた空はもう太陽は沈み星が見え始めていた。

「あ......シャロちゃん......」

なにやってるんだわたしは。
シャロちゃんはどこかでおなかをすかせてるかもしれない。みんなもまだ捜索しているかもしれない。それなのにわたしは自分の気になったことに全力で、この数時間はみんなのことも忘れていた。

「ホント、なにやってんだよ」

いや、なんとなくだけどシャロちゃんはきっと大丈夫だって思ってるし、それに春エリアにいないことが分かっただけでもわたしは役目を果たしたし、ククツミちゃんもヒマノちゃんもいるし、他のみんなも探してくれてるし......
言い訳ばかりがぐるぐる湧いてくる自分が嫌になる。

「はぁ、とりあえず寮に帰ろ」


寮に戻ってしばらくするとククツミちゃんとナハトちゃんがシャロちゃんを連れて帰ってきた。
みんな泣きながらも笑顔で喜んでいた。
あぁ、やっぱりまぶしい。
みんなの太陽なシャロちゃん。
みんなに慕われるシャロちゃんも
シャロちゃんを想うみんなの心も
わたしにはまぶしすぎるなぁ。

一通りわちゃわちゃした後、みんなでご飯を食べていろいろお話をした。
みんなが真剣に探してたって話をするたびに罪悪感で目をそらすしかなかったけど。
何はともあれ無事でよかった。

おかえり、みんなの太陽



#ガーデン・ドール
#ガーデンドール作品

企画運営
トロメニカ・ブルプロさん



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