この世のすべて創作者だった者たちへの『映画大好きポンポさん』※ネタバレ有り映画感想

6月4日は待ちに待ったポンポさんの公開日。
たまたま仕事も休みで、初日にキメれるぜ!と意気込んで、

2巻のキャリアウーマン風ミスティアさんをリスペクトして、
ライトブルーのスラックスとネイビーのブラウスでに、履き慣れないパンプスで映画館に突撃。

図らずしも、そして、完全に、私はアランくんだった。

私は元々漫画も小説も映画も好きだ。
好きと言っても、下手の横好き程度で知識も少なく、知っている人や、生業にしている人、生業にしようとしている人たちには遠く及ばない。

小説も書いたし、演劇部にも居た。
幼い頃は、そういう仕事に着ければと夢見たこともあった。
けれど結局小説や脚本ををちゃんと書き上げたことは殆ど無いに等しい。それでも、創作することは生き甲斐だった。

幸福は創作の敵。

作中でポンポさんが言うように、今の夫と大学時代に付き合い出してから、燻っていた創作への欲は鎮火した。
今でもモノを作ることは好きだ。
手芸も以前はよくやっていたし、今はカメラにも手を出した。

それでも、夫と付き合う前の、飢えの様な創作意欲はぱったりとなくなってしまった。

アランくんのように要領は悪くなかったので、何でもある程度ソツなく“こなした”。
創作に人生を掛ける度胸も覚悟もなかったので、それなりの会社に入社して、それなりにしんどい思いをして、結局辞めずに今も働いている。

クリエイターを主役に据えた映画は、創作意欲を刺激されると同時に、“好き”でありながらそれを続けられなかった自分、それに全てを掛けられなかった自分、というコンプレックスが付き纏う。

才能も結局は努力だと言っても、その努力をすることさえ私はしてこなかったのだから当然の結果だ。

アランくんは、主人公ジーンのハイスクールの同級生。
当時友達も、恋人も居なくて、映画に浸すら没頭していたジーンとは正反対に、明るく、彼女が居て、要領良くなんでもソツなくこなして、シレッと大手の銀行に入社。

青春を謳歌して来たはずなのに、“勝ち組”と呼ばれるはずなのに、ソツなくこなしてきたツケが回って、努力の仕方を知らず仕事は上手く行かず、何を成すこともなく空虚な日々を過ごす。

そんなアランくんが、ハイスクール時代に一度だけ出会ったジーンくんと再会する。

ハイスクール時代は陰キャで映画ヲタクなジーンくんを、アランくんは貶しもしなかったし、優しい言葉を投げかけてはいるけれど、ノートいっぱいに書かれた文字にギョッとして引いてたし、「下ばっかり見ずに前も見ろよ!」なんて、アドバイスをしているところから、“自分より下だ”とは思っていたんだろう。

そんなヤツが、“映画監督”なんてとんでもない仕事をしていた。

再会して2人でお茶を飲むシーン。
ここでも、2人は分かりあったわけではない。
もちろん、アランくんはジーンくんを認めてる。すごい仕事をしてる奴だと。

けど、アランくんは“ジーンくんの目がキラキラしてる”と言ったのだ。

ジーンくんの瞳にずっと光は無い。
むしろ目に光が無く、絶望していることがクリエイターに必要なことで、幸福は敵なのだ。

もちろん、映画を撮ることはジーンくんにとって幸福で、だからキラキラしている、と取ることも出来るのだけど。

それでも、幸福であることは、創作をすることにおいては、邪魔でしかない。

アランくんからしたらそんなすごい仕事をしている奴が、眩しく見えたから、この台詞を言ったんじゃないかと思う。

ポンポさんの感想を見ていると、
“創作している人を応援する映画”とか、“創作意欲が沸く”とか“前向きになれる”とかの感想がやっぱり多くなるけれど、

アランくんの、最後の博打は、
“ジーンくんのため”なんかじゃない。
アレは、アランくんの悪足掻きだ。アレは、アランくんの意地だ。
ジーンくんは、映画を取ったら死んでしまうけど、
今の仕事をクビになったって、死にはしない。
自分はジーンくんみたいには、逆立ちしたってなれない。

けれど、それでも。

私は、この映画は“創作者だった者たち”に観てほしい。
取り残されて、未練だけは人一倍持っていて、恋焦がれて、それでも、そうじゃない未来を選んだ人たちへ。
持て囃される創作者たちにほんのちょっと、薄暗い感情を抱く者たちへ。

アランくんの立ち位置は、クリエイトしない人だ。

映画を創ることにおいて、
クリエイトしない人でも、お金を融資する人、様々な調整をする裏方の人、そんな人たちにみんなに支えられて、映画が出来ているんだよ。っていうメッセージの裏に、

どんな人でも等しく映画の中にいる。
というメッセージが見えた。

実際、終盤のシーンでジーンくんの観ている映画館に、2番目に入ってくるのはアランくんだ。

ジーンくんがマイスターのダルベールに自分を重ねて居たように、
アランくんもマイスターの中に居るのだろう。

そして、私も、アランくんの中に自分を見た。

「まるで
私一人のために撮ってくれたみたいに
今の自分の心に
かしゃんと突き刺さる
奇跡みたいな作品と
出会えることがあって…」

この、『映画大好きフランちゃん』のにある台詞を思い出す。

これは、この映画は、
『映画大好きポンポさん』は、

映画というものが万人に、この世の全ての人に開かれたものだということを、謳っている。

正直アランくんでさえ、私には羨ましく思える。
こんなにも心がヒリつくことを成したのだから。


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