800字チャレンジ#2「凍花」

※刀剣乱舞夢小説(鶴丸の片想い)
※名前あり固定主
※800字チャレンジ100本ノックの自分用記事


雪が降っていた。
さく、と白い地面に足跡をつけながら、鶴丸国永は辺りをぐるりと見渡す。
主の性質に寄るこの本丸には、一年を通して桜が咲いている。その淡い色を覆い隠すように白が降り積もる様子は、なんとも幻想的な風景であった。
またさらに寒さが厳しくなったら、花は凍てつくのだろうか。
冬を越した、麗らかな春の頃に現界した鶴丸は、その景色を見たことがない。

「(ま、もう少ししたらわかることだろうさ)」

さく、さく。
人の身をもってはじめての感触を楽しむ様に、鶴丸は進む。
さく、さく、はらり。
はらはらと舞い落ちる雪の花弁。そこに、淡い色が混じり、鶴丸は顔を上げた。
本丸の中央に位置する大輪の桜の樹。
雪の中でも辺りに桜の花弁を舞わせながら、彼女はそこに目を瞑り、座っていた。
彼女のお気に入りの樹の上ではなく、樹のふもと。羽織から覗いた肩と短い袴からさらけ出された小枝のような細い足、それと幼さの残るまろい頬が、手のひらの花弁よりも濃く、色付いている。
淡い紅に、桜色と白色が降り積もる。

「(あぁ、はる、)」

春の頃に、残花と名乗るこの少女と出会った。
出会ったその時から、辺りに花を絶やさないこの少女は、鶴丸にとっての「春」だった。恋の季節であった。
今も、色付いた頬を見るだけでこんなにも胸が苦しい。
花のようなその頬に、そっと手を伸ばす。
パシン。

「おっと、起きていたのか」
「わかってたくせに」

頬に届く前に、細い手首から零れる花のような手に払われた。
それでも気にせず、頬を包もうと、今度は片手ではなく両手を伸ばす。

「さーわーるーなー」
「はっはっは、随分と寒そうじゃないか」
「ねぇ、聞いてる!?」

手と手の攻防戦が繰り広げられる。
一向に手を緩めない鶴丸についに諦めたのか、残花は仕方なく自分より大きく骨ばった両の手を受け入れた。
ぶすっとした顔に鶴丸は口の中でだけ小さく笑う。
明らかに先よりも色付いた頬。熱を持つ手の中のそれ。
決して指摘はしない。
自分ではなく他に想い人がいる彼女は、鶴丸に愛されるのを嫌う。
愛し上手の、愛され下手。意図せず、鶴丸の愛に喜んでしまうほど、愛に慣れていないこの少女が、鶴丸はどうにも酷く愛おしかった。

「すまんな」
「そう思ってんなら、手ぇ放して」
「すまんな」

想ってしまって、恋焦がれてしまって、愛してしまって、それが溢れることを止めもせずに、思うがままに言葉に愛をのせ、指先に愛を灯す。
それきり黙った鶴丸に習ったように、残花も口を噤む。
はらはら、と二人に雪が降り積もる。

「……ごめんな」

ぽつりと紡がれた小さな謝罪は、鶴丸の想いを拒む所以か。それとも、想いを拒みながらも、愛を拒み切ることができない罪悪感からか。
はらはら、はらり。
二つの懇願に、雪が降り積もり、覆い隠した。

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