800字チャレンジ#10「紡がれた心臓」

※カゲプロ夢小説(キド)
※名前あり固定主
※800字チャレンジ100本ノックの自分用記事


嵐草ユキは、想いで紡がれた存在である。
それは小桜マリーの嘆きであり、楯山アヤノの祈りであり、如月シンタローの覚悟であり、そういったものが糸を紡ぐように連なって、嵐草雪の願いと命を核としてユキは生まれた。

「もうこんな悲劇は嫌だ」
「どうか、みんながひとりぼっちにならないように」
「今度こそ、悲劇を断ち切って見せる」

「つーちゃんを見つけてあげて」

ハッと、ユキは目を覚ました。
もう、何度も見た夢だ。
何度も、刻み込まれた使命だ。
自分が存在する理由だ。

「(つーちゃん……)」

記憶に刻み込まれた、その名を、胸の内でだけ呟く。
決して言葉にしてはいけない。
この名は、自分のものではない。
”つーちゃん”は雪のものだから。
でも、

「キド……」
「なんだ?」

今度はしっかり音にのせる。呼べばいつも返ってくる声。
”つーちゃん”は雪のものだけれど、”キド”はユキのもの。

「ユキ、どうした?涙が……」

「悪い夢でも見たか?」キドの指が、ユキの頬をなぞる。
その手にすり寄るように、ユキはキドの手の上に自分のそれを重ねた。

「ううん……悪い夢じゃないの。本当に」

キドが好きだ。
はじめて逢ったときから好きだった。それは雪がつぼみを好きだったから。
だが、ユキは今この感情が刷り込まれたものだとは決して思わない。
キドが好きだ。
雪はつぼみが好きだった。ユキもキドを好きになった。
二人分の大きな「好き」がユキの中に存在している。
それは友愛と呼ぶにはあまりに大きく、恋情と呼ぶにはあまりにも純粋で、だから「好き」以外にこの感情に言葉をつけることはできない。

「キド、大好きだよ」
「ユキはいつもそれを言うな。こっちの方が照れる……」
「だって、言葉にして出しておかないと、好きって気持ちで爆発しそうになっちゃうの」

「それは大変だ」なんでもないように笑って見せるけど、確かに頬と耳は赤らんでいて。
「つーちゃん、可愛い」ユキの心臓がそう笑ったような気がした。

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